まもなく知事選 政策の違いは
静岡県のリーダーを決める知事選(6月3日告示、20日投開票)がいよいよ始まります。立候補を表明している現職と新人のそれぞれの動き、主張や政策の違いをまとめました。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・寺田将人〉
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主要公約から政治姿勢の違い鮮明 川勝氏と岩井氏
6月3日告示、20日投開票の知事選に向け4選を目指す現職の川勝平太氏(72)は24日、政策発表記者会見を静岡市内で開いた。一騎打ちとなる元参院議員の新人岩井茂樹氏(52)=自民推薦=は先に会見済みで、双方の主張が出そろった。独自政策で主導権の発揮を目指す川勝氏、対話と連携で幅広い合意形成を図る岩井氏。主要公約から、両氏の政治姿勢の違いが明らかになってきた。

■リニア問題
川勝氏はユネスコエコパークの南アルプスを「命の水の水源であり、人類の共通財産」と表現。トンネル掘削前に対話を尽くす必要性を説き、「事業者であるJR東海がきちんと保全できるのか科学的、技術的にしっかり対話する」との姿勢を示す。さらには水質、生態系、残土の問題にも警鐘を鳴らす。
岩井氏は「大井川は命の水。地域住民の理解、協力がない限り、着工しない」と述べ、川勝氏と同様に地元合意を尊重する考え。ただ、川勝氏が批判するJRの「全量戻し」の手法など個別の案件に対しての言及はなく「地域住民、国交省、JRと対話し、科学的根拠に基づき考える」と述べるにとどめている。
■コロナ対策
岩井氏はコロナ対策の最重要施策は早期のワクチン接種と主張する。そのための医療提供体制確保のため、民間企業の活用を提案する。また、コロナ対策は県だけでは解決できないと指摘し「国、市町、民間と連携、対話をし、解決に向けて進んでいく姿勢が大事」と述べ、川勝氏と進め方の違いを強調した。 川勝氏は克服に向けた二つの柱に「検査体制の充実とワクチン接種」を掲げた。県内35市・町長とのウェブ会談で、集団接種の体制整備に関する要望を受け「場所の選定、やり方を現場と話をしている」と協力する構え。ワクチン接種チームをつくり、通常業務を離れた従事者の休業補償を国に求めるとした。
■経済対策
川勝氏は先端技術を取り込んだ「グリーンイノベーション」の実現に向けた取り組みを推進すると宣言。「ある産業の主導部門が他の部門を引っ張っていく。ICT(情報通信技術)は確実に伸びる」と大きな関心を寄せる。脱炭素社会の達成に向けては「次世代自動車の発展を支える」と思いを語る。
岩井氏は「農林水産業、中小企業の稼ぐ力を掘り起こす」と訴える。農林水産業に関しては販路拡大と輸出支援に取り組むとし、経済支援策としては人工知能(AI)など先端技術への支援を打ち出す。また、観光産業に対する思い入れは強く、「観光産業は一度倒れると戻らない。国と連携を取らないといけない」と強調する。
■元記事=政治姿勢、違い鮮明 川勝氏と岩井氏、主張出そろう【静岡県知事選】(「あなたの静岡新聞」2021年5月25日)
告示前最後の週末は 対照的な動きの両陣営
静岡県知事選(6月3日告示、20日投開票)の告示前最後の週末となった29日、立候補を表明している現職の川勝平太氏(72)と新人で元参院議員の岩井茂樹氏(52)はそれぞれ県内に繰り出し、意気込みをアピールした。ただ、その動きは対照的。選挙戦の争点を意識して大井川流域に暮らす有権者と個別に意見交換した川勝氏に対し、岩井氏は県西部で街頭演説やミニ集会など分刻みのスケジュールをこなし、1人でも多くに自らの訴えを届けようと走り回った。

2・6ヘクタールの同農園は4品種を栽培し、1日当たり2万~3万リットルの地下水を使用。元県農業経営士協会長の上山優社長(66)が「混じりけのない地下水で農芸品を作っている」と説明すると、川勝氏は深くうなずいた。
川勝氏は視察後の取材に、リニア建設を推進してきた国土交通省の元副大臣の岩井氏がルート変更や工事中止を言及したことに関し「原点から軸足を180度変えた」と批判。大井川は水質、生態系、残土の課題もあると指摘し「私はぶれない。踏ん張って守り抜く」と力を込めた。

対する岩井氏。「静岡県は23日時点で新型コロナウイルスワクチンの接種率が全国ワースト4位。政府は高齢者の人数に合わせ自治体に配布しているのに差が出るのはなぜか。県と市町の連携が取れていないからです」。浜松市西区の街頭でマイクを握り、集まった約70人の前で県のワクチン政策を批判した。
14日の出馬会見以来、自民党所属の国会議員、県議らとともに県内をくまなく回る岩井氏。この日も浜松、湖西両市で県議主催のミニ集会4カ所に出席し、合間には地元県議、市議らが展開する自民党県連のキャラバン隊とともに街頭に立った。
これまで現県政批判を抑え気味だった岩井氏も告示を目前に控え、対決姿勢を鮮明にしてきた。浜松市浜北区の街頭では約50人の聴衆を前に「分断の県政」と現体制を批判し、「協力して課題を解決し前に進める新しい静岡県を作りたい。キーワードは連携、対話です」と声をからして訴えた。

■元記事=告示前最後の週末、動き対照的な両陣営 川勝氏/「個別」に意見交換 岩井氏/「広く」街頭や集会【静岡県知事選】(「あなたの静岡新聞」2021年5月30日)
川勝氏、岩井氏が政策対談 熱のこもった議論繰り広げる
知事選(6月3日告示、20日投開票)に立候補を表明している現職の川勝平太氏(72)と新人の元参院議員岩井茂樹氏(52)=自民推薦=が26日夜、静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で政策対談を行った。リニア中央新幹線工事に伴う大井川流量減少問題や新型コロナウイルス対策、県の将来展望など県政の主要課題について熱のこもった議論を繰り広げた。

一方の岩井氏は将来の県に最も必要なこととして人口減少の克服を上げ、「稼ぐ力がなくてはならない。トップセールスで魅力ある企業にきてもらうことに全力を傾けたい」と自ら企業誘致の先頭に立つ考えを明らかにした。また、女性活躍の必要性も強調し、「女性の能力を生かしたい。女性が当たり前に活躍できるまちになれば少子化克服や若者の人口流出減にもつながる」と訴えた。
リニア問題では、両氏ともJR東海に対する厳しい姿勢を強調。川勝氏は問題の根源は、JR東海の不十分な調査だと指摘。流量減少以外にも水質や生態系など問題は山積しているとして「リニア自体に反対ではないが、突然、静岡がルートになった。一回立ち止まった方がいい」と訴えた。岩井氏も「JRは説明不足」と現状のままリニア工事を推進することに否定的な見解を示した。決定権は事業者にあるとしながらルート変更や事業中止が選択肢に入るのは当然だとし「(推薦を受けた)自民党がどう考えるかではなく、知事は県民のために何をするかが問われる」と語った。コロナ対策では岩井氏がワクチン接種会場にもなり得る医療従事者の育成センターの創設を提案したのに対し、川勝氏は検査体制を充実させるため、県内に感染症病院を新たに建設する構想を示した。
■2氏の略歴
川勝平太氏(かわかつ・へいた) 京都府出身。静岡市葵区在住。早大政経学部卒、英オックスフォード大大学院博士号取得。早大教授や国際日本文化研究センター教授、静岡文化芸術大学長などを歴任した。2009年知事選で初当選。13年に再選、17年に3選を果たした。県観光協会と県スポーツ協会の会長を務める。72歳。
岩井茂樹氏(いわい・しげき) 名古屋市出身。三島市在住。名古屋大大学院修了。前田建設工業に8年間勤務した後、参院議員だった父国臣氏の秘書に。富士常葉大非常勤講師を経て2010年7月に参院議員(静岡選挙区)初当選。経済産業政務官、国土交通副大臣を歴任。今月、2期目途中で参院議員を辞職した。52歳。
■元記事=川勝氏と岩井氏、リニア、コロナ...将来像議論 静岡新聞社で政策対談(「あなたの静岡新聞」2021年5月27日)
コロナ対策やリニア問題…2人の主張をさらに詳しく
6月3日告示、20日投開票の静岡県知事選を前に静岡新聞社が企画した政策対談で、立候補を表明した現職の川勝平太氏(72)と元参院議員岩井茂樹氏(52)=自民推薦=が主張を繰り広げた。新型コロナウイルス感染症対策や県内市町で始まったワクチン接種に言及し、リニア中央新幹線工事に伴う大井川流量減少問題も話題になった。

■Q1 コロナ対策
新型コロナウイルスの県内累計感染者数が8千人を超えました。感染力の強い変異株への置き換わりが進んでいます。県がとるべき対策は何でしょうか。
医療従事者に続き、65歳以上の高齢者へのワクチン接種が各市町で始まりました。国は高齢者接種の7月末完了を求めています。接種を円滑に進める必要がありますが、市町の現場には一部混乱が見られます。
感染症の世界的流行は社会経済活動や教育、スポーツなど多くの分野に影響を及ぼし、改めて知事のリーダーシップ、政策立案能力が問われています。東京五輪・パラリンピックの聖火リレーや大会開催の是非についても議論が続いています。
川勝平太氏「検査充実し専門病院を」
コロナ対策の入り口は検査体制、出口はワクチン接種。この二つが極めて重要だと当初から主張してきた。変異株に対応するため、日本は検査体制をさらに充実させる必要がある。従来の国防は「防衛」と「防災」だったが、今後はさらに「防疫」の意識が必要。本県は医師少数県のため感染症に対応する専門病院も必要だ。
高齢者ワクチン接種の7月末完了という国の要請は現場に大混乱を起こした。政府の対応は場当たり的。ノーベル賞受賞者ら本当の専門家を活用した形跡が見えない。県は35市町の首長とウェブ会議を開き、県の集団接種会場設置やワクチンチーム派遣を決め、国には医師の休業補償を求めた。県と市町の情報共有ができていたから、何とかほぼ全市町で7月末に完了できる見通しとなった。
東京五輪・パラリンピックは、できるならやればよいと思っている。本県が進めてきた準備は、ラグビーワールドカップのように自転車競技の文化を根付かせるもの。既に県内を拠点とするチームが生まれ、各地にコースもできた。五輪憲章の精神に基づく文化プログラムも既に多く行われている。競技人生の頂点を迎えたオリンピアンの願いをかなえたいとの気持ちもある。
岩井茂樹氏 「地元愛持つ医療者育成」
自民党でさまざまなコロナ対策に携わった。まずはワクチン接種をいかにスピード感を持ってやっていくか。そのためにはマンパワーなどの医療資源を増やす努力をしなければならない。近隣自治体との連携や県内医療機関の情報共有を進め、限られた資源を活用していく。高齢者接種を7月末までに完了させるため、最前線で取り組む市町を県がしっかりと支えることを重点に考えている。国の至らないところを県が穴埋めし、市町と連携して対応していく。民間のノウハウやアイデアも生かしながら県民全体で臨む姿勢が重要だ。
本県は人口10万人当たりの医師数が全国40位前後。豪雨災害や地震災害に対応できる医療体制を、県として責任を持って考えていく。医者や看護師のトレーニングやスキルアップに使える施設をつくり、静岡のために働きたいという地元愛を持った医療関係者を育成していきたい。
私自身、水泳で五輪を目指したことがあり、アスリートの思いはよく分かる。感染拡大が抑えられ、環境が許されるなら、国民の気持ちを変えられるという期待もある。国には水際対策を強く求めたい。地域医療に影響を与えないような配慮も必要だ。
■Q2 リニア水問題
リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事で心配される大井川の流量減少問題の解決にどう対応しますか。
◇
JR東海の対策を検証する国土交通省専門家会議は中間報告案を示しました。「トンネル湧水の全量戻し」の現実的方法はあるのか、全量戻しをすれば環境への影響を回避できるかなど課題が山積する中、報告案はJRの対策をおおむね認める内容です。
着工の遅れで「静岡悪者論」が散見される中、ルート変更や工事の中止、凍結を選択肢として国やJRと対峙(たいじ)していくのかどうか、流域市町の住民は注視しています。リニア開業に伴う東海道新幹線沿線の恩恵についても検証が必要です。
川勝平太氏「立ち止まった方がいい」
県の有識者会議がJR東海に問題点をぶつけ、その回答が不十分だったので、国土交通省から専門家会議を設置したいという話があった。設置時に会議の全面公開が約束だったが、専門家会議は11回開催し、1度も全面公開されていない。県の有識者会議は公開している。約束を守らないのは最悪だ。
JRはトンネル湧水を全量戻せるとしていたが、(掘削時にトンネル内に大量に水が湧き出る)突発湧水が出て危険だから戻せないと言い始めた。少なくとも300万~500万トンが山梨県に流出し、永久に戻らない。専門家会議は全量戻せない代わりに、貫通後の山梨県の湧水を20年かけて戻す案をまとめた。この代替案は相当リスクが大きい。
リニア事業に反対ではないが、事前調査が不十分だと専門家会議で明らかになってきた。JRは環境や水資源がいかに重要かを知らずに今日に至っている。コロナ禍ではオンラインでいろいろなことができるようになり、JRは赤字だ。脱原発の流れの中で原発に依存せず、どうリニアの電力を供給するのか。南アルプスで事故が起きたらどう避難するか。乗客数が従来の予想と同じかという問題もある。いったん立ち止まった方がいい。
岩井茂樹氏「JRの環境アセス甘い」
国土交通省専門家会議に関しては、県とコミュニケーションがうまく取れていないのが問題。会議があまりオープンになると自由に意見が言えないという話が委員からあったようだが、公開のスタンスは重要だ。(山梨県のトンネル湧水を貫通後に20年かけて戻す)中間報告案は決まったわけではない。斜坑を掘って先に水を抜けば流出量の500万トンの条件は変わる。今の土木技術で工夫できるかもしれないし、できないかもしれない。
科学的、技術的な根拠に基づいて検討しないとOKと言えず、JR東海の環境影響評価(アセスメント)はまだ甘い。流域の話を聞き、JRの説明が住民目線でない印象を受けた。県民の思いをJRと国交省に伝える役割をしたい。
ルート変更を決めるのは基本的に事業者だが、このような状況で工事は進められず、いろいろな選択肢を考えるのが当たり前。(リニアを推進する)自民党の所属だったが、知事は県民のために何をするかだ。流域が水に苦労しないようにすることが課題で、目的をはき違えてはいけない。国交副大臣として、流域全体を見渡した治水にかじを切る流域治水の法案を成立させた。利水も流域全体のニーズを考えたい。
■元記事=川勝氏/岩井氏 政策対談詳報㊤ 静岡県知事選(「あなたの静岡新聞」2021年5月27日)