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コロナ禍の飲食店 苦境打破へ模索

 新型コロナ禍で売り上げに打撃を受ける飲食業界。静岡の味を守ろうと、さまざまな立場の人が、あの手この手で苦境を乗り越えようとしています。動画配信、電子商取引(EC)、配達サービス…。最近のニュースから光る事例をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・鈴木美晴〉

動画配信→オンライン注文30倍「ろたす」(清水町)/独自グッズ販売「やんぐ」(三島市)

 コロナ禍で飲食店が売り上げ減などの打撃を受ける中、静岡県東部の兄弟が経営するラーメン店が、動画配信や電子商取引(EC)などオンラインを活用した事業を展開して業績を伸ばしている。コロナ禍前に始めた事業が、消費者の自粛生活にマッチして大きな反響を生んでいる。兄弟は「コロナ禍を好機に捉え、新たな挑戦につなげたい」と意気込む。

レシピ本を出版した高梨樹一さん(左)と、グッズを開発した哲宏さん=5月上旬、三島市のラーメンやんぐ
レシピ本を出版した高梨樹一さん(左)と、グッズを開発した哲宏さん=5月上旬、三島市のラーメンやんぐ
 ラーメン店は兄高梨樹一さん(39)の「ラーメンろたす」(清水町)と、弟哲宏さん(35)の「ラーメンやんぐ」(三島市)。ろたすは2019年10月に「ユーチューブ」の公式チャンネルを開設し、味玉や中華そばなどのレシピを紹介する動画配信を始めた。動画の再生回数は200万~300万回に上り、登録者数は16万人を超えた。レシピをまとめた本を出版したほか、月4~5件程度だった冷凍ラーメンのオンライン注文も一時30倍に伸びたという。
 樹一さんによると、動画で作り方を知り、確認に店へ来る人が増えたという。朝の仕込みを紹介する動画も人気。「今は結果が分かっているものがヒットする。手の内を明かすことで客の信頼を得られる」と実感する。
 哲宏さんはろたすで修業後、17年にやんぐを開業した。元バンドマンの経験を生かしてTシャツや靴下など200種以上のオリジナルグッズを開発し、店舗とウェブで販売。デザイン性の高さで若者から人気を集める。
 5月に東京の代官山蔦屋書店で開催した期間限定ショップは、同書店が企画する飲食店関連フェアの中で、最多売り上げを記録したという。売り上げ全体の3分の1をグッズが占め、黒字確保につながっている。「好きなグッズ制作に取り組めるのは、兄に教わった味の土台があるから。ラーメンとの組み合わせが独自性につながっている」と語る。
 樹一さんは「店の特色を出そうと力を入れた分、今は味を追求したい」、哲宏さんは「ラーメンにサウナや音楽を絡めた企画を実現したい」と見据えた。

地域で料理販売、自販機設置… 飲食店の工夫、YouTubeで動画発信 三島のNPO法人

 三島市のNPO法人地域活性スクランブルフォーラムは、新型コロナウイルスの影響で客足が激減する飲食店を取材し、苦境を乗り越えようと奮闘する店主のインタビュー映像をまとめた。かつてない“逆風”をプラスに変える発想、工夫などを交え、インターネットの動画配信サイト「ユーチューブ」で発信している。

取材した飲食店で動画を確認する関係者=三島市
取材した飲食店で動画を確認する関係者=三島市
 首都圏で2度目の緊急事態宣言が出された後の2月から撮影を開始し、市内を中心に居酒屋や料理店など8店を取材した。コロナ禍で空いた時間に地域へ出向いて料理を販売する居酒屋、ドレッシングやパスタソースを並べた自動販売機など、今こそできる各店の工夫を紹介している。
 フランス料理店「おんふらんす」の田中季次さん(54)は食材や手間に今まで以上のこだわりを加え、「店のグレードを高めたい。コロナを経てさなぎからチョウに変わったと思われるように」と意気込む。他店もテークアウトやデリバリーに力を入れつつ、「最終的には店の力を付けるのが大切」「より安心できる店になる」とさらなる成長を誓う。
 同NPOの井村大輔理事長は「厳しい現状の中で前向きに取り組む店がある。感染状況やルールに応じた食文化の楽しみ方を感じてほしい」と話す。
〈2021.5.17 「あなたの静岡新聞」〉

若者奮闘「ヌマヅイーツ」 ローカル配達サービス、地元の味と客つなぐ

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、飲食店のメニューを宅配するサービスが全国的に広がる中、沼津市で地元関係者が始めたローカルの配達サービス「ヌマヅイーツ」が奮闘している。5月2日でスタートから1年。売り上げがほぼゼロの時期もあったが、「地元の人間として飲食店の思いやこだわりを届けたい」と加盟店を地道に増やし、事業は軌道に乗り始めている。

「ヌマヅイーツ」を展開する松村拓郎さん(左)。「飲食店の思いを届けたい」と自らも配達に回る=4月中旬、沼津市内
「ヌマヅイーツ」を展開する松村拓郎さん(左)。「飲食店の思いを届けたい」と自らも配達に回る=4月中旬、沼津市内
 展開するのは沼津市で飲食店の人材確保支援に取り組む松村拓郎さん(24)。父が人気ラーメン店「松福」を市内などで営み、松村さんも従業員として働いた経験を持つ。昨春の休業要請などで売り上げ激減に苦しむ店舗を目の当たりにし「歯を食いしばって頑張っている店を応援したい」とヌマヅイーツを思い立った。
 無料通信アプリ「LINE」を使った注文システムの準備や配達委託員の確保を1人で進め、2020年5月に加盟店5店舗からスタート。同年中は認知度不足に苦しみ、売り上げが伸び悩んだ。自らも配達に回りながら、加盟店確保への営業活動に奔走。ヌマヅイーツのバッグを背負い、ミニバイクで市内を走り回ってPRしたこともあった。
 松村さんの熱意が届き、今年に入って加盟店が増え始め、今では32店舗まで拡大。注文は週末に30件を超えるようになった。4月からは従業員1人を雇用し、法人化も視野に入れる。松村さんは「まだ地元に定着したとは言えない。次の目標は加盟店50店舗」と意欲を示す。
 ヌマヅイーツだけでは売り上げ減を補えないが、加盟店からは「店と客の絆をつなぎ留めてくれている」と感謝の声が上がる。沼津港のハワイアンレストラン「トニーズホノルル」の青嶋志穂美店長(43)は「苦しい時に真っ先に手を差し伸べてくれた。地元の人なので安心して任せられる」と話している。
〈2021.4.30 「あなたの静岡新聞」〉

宣言解除後に照準 静岡県ゆかり首都圏の飲食店まとめたサイト 県東京事務所

 静岡県東京事務所が、コロナ禍で苦境が続く静岡県ゆかりの首都圏の飲食店の側面支援に乗り出した。約100店の情報をまとめたウェブサイト「まんぷく静岡 in 東京」を開設し、内容を順次拡充している。再延長された1都3県対象の緊急事態宣言の解除後に対外発信を本格化する方針。大石勝彦所長は「首都圏で静岡の応援団の輪を広げていきたい」と意気込む。

県東京事務所の職員らから、サイト掲載動画の取材を受ける市川徳二さん(右から2人目)=3月上旬、東京都新宿区
県東京事務所の職員らから、サイト掲載動画の取材を受ける市川徳二さん(右から2人目)=3月上旬、東京都新宿区
 「静岡のおいしいもの、文化を東京の皆さんに伝えられるような店を目指して頑張っています」。3日午後、新宿区高田馬場の居酒屋「静岡おでん ガッツ」。代表の市川徳二さん(43)=静岡市駿河区出身=がカメラの前で力強くアピールした。サイトに追加掲載する動画の収録だ。
 同事務所の職員が立ち会い、打ち合わせを重ねながら撮影は進んだ。市川さんは「経営は大変だけど、ふるさとからこうして後押ししてもらえるのはありがたい」と感謝した。
 同事務所は2018年、主に県内出身者が営む首都圏飲食店のPR冊子「しぞ~か 満ぷくBOOK in 東京」を発行した。サイト制作に向け、最新版に掲載された108店を昨秋から再取材した。
 職員が手分けをして回る中、既に閉店して連絡が取れなかったり、休業中と説明されたりした店が20近くあった。営業を続ける店からも、「時短で売り上げが大幅に落ち込んでいる」など悲痛な声が相次いだ。
 飲食店を取り巻く厳しい環境を踏まえ、サイトにはテークアウトや感染症対策といった冊子版にはなかった情報を加えるなど、「コロナ禍でも利用しやすいことが伝わるように」と工夫した。掲載無料で、随時更新する。
 大石所長は「県内出身の経営者の皆さんはいろいろな形で静岡と首都圏をつないでくれている。今後も活躍してもらえるよう、事務所として支えていければ」と話している。
 ■気に入った食品 その場で通販
 県東京事務所は、本県ゆかりの首都圏の飲食店を訪れた利用客に県産品の購入をその場で促す電子商取引(EC)サイトも新たに立ち上げ、試験運用を始めた。県産品需要喚起策「バイ・シズオカ」と連動させ、首都圏の個人や家族をターゲットに消費拡大を狙う。
 県内の生産者から出品されたワサビ、シラス、イチゴ、牛肉を扱う。これらを使ったメニューを提供する店舗に、サイト誘導用のQRコードを設置。実際に味わって気に入ったら、スマートフォンなどから手軽に購入してもらえるようにした。
 購入に至った場合には店舗に手数料が入るなど、「店舗と生産者の双方がウイン・ウインになる仕組み」(大石所長)が特徴。緊急事態宣言再延長の影響からか現段階では2店舗での実施にとどまるが、利用動向を分析しながら21年度以降の拡大を検討する。
〈2021.3.17 「あなたの静岡新聞」〉
地域再生大賞