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生理、どう向き合っていますか?

  「生理の貧困」という言葉をよく耳にするようになりました。公共施設や学校で生理用品の無償配布など支援が広がり、隠すのが当たり前だった生理をオープンに語る場面が増えてきた一方、まだ一人で悩みを抱えている女性は多いのではないでしょうか。「生理、どう向き合っていますか?」昨年8月、社会部の西條朋子記者が特集した記事を中心にまとめて紹介します。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・村松響子〉

心身不調、悩む女性多く【LINEアンケート結果】

 生理をテーマにした映画や生理用品のパッケージのあり方が話題になるなど、生理をオープンに語る場面が増えたこの頃。一方で「我慢するもの」「隠すもの」という否定的イメージは根強く、悩みを抱え込む人も多いと思います。「生理、どう向き合っていますか」と題し、2回にわたり生理との付き合い方を考えます。初回は無料アプリ「LINE(ライン)」を通じたアンケートから-。

生理に伴う痛みや不調を抱える人は多い(写真はイメージ)
生理に伴う痛みや不調を抱える人は多い(写真はイメージ)

 ■市販薬で対処 通院は一部
 生理のつらさについて「下腹部の痛みがひどく、両足まで痛くなる。吐き気もする」と訴えたのは浜松市東区の女性(29)。市販の鎮痛剤を服用するものの、ひどくなると家の中を歩くのもつらい。やむを得ず仕事を休むこともあるが、「携帯電話を持って職場に連絡すること自体が苦痛」という。
 回答者81人中、生理に伴う痛みがあるとした人は7割以上の62人。痛みを含む何らかの不調がある人は9割を超えた。痛みの程度は「仕事や勉強、家事にやや支障がある」とした人が39人と最も多く、さらにひどい「横になって休みたくなるほど」が19人、「1日以上寝込む」とした人も4人いた。

 不調への対処方法としては複数回答で「市販薬の服用」(42人)、「体を温めるなど自分でできることをした」(37人)の順に多く、「生理だから仕方ないと思い、何もしなかった」とした人も21人いた。通院して治療を受けた経験のある人は18人と一部だった。
 下腹部や腰などの痛み以外の不調も幅広く、頭痛や下痢、体のむくみなどの身体的症状に加えて「気分が果てしなく落ち込み、意味もなく泣けてくる」(30歳、富士市)、「イライラして子どもに厳しく当たってしまう」(39歳、同)など、精神面の不調を訴える声が目立った。
 生理休暇の取得経験があるのは4人だけで、浸透していない状況がうかがえた。多くの人が制度を知っていたが、「上司が男性で言い出せず、周りにも取っている人はいなかった」(37歳、静岡市駿河区)との声もあった。

 経血処理には、多くの人が悩みやストレスを抱えていた。「量が多く、下着だけでなく車のシートや職場の椅子を汚してしまう」(48歳、三島市)、「仕事が忙しくて交換できない時、失敗したらどうしようと不安になる」(38歳、浜松市中区)など切実で、夜間の処理が間に合わないため「睡眠をなるべく短くしている」(48歳、焼津市)と打ち明ける人もいた。

 ■治療受け 改善も
 痛みや経血の多さに悩んだ経験のある人の中には、後に病気が判明した人もいた。若いころから生理痛がひどかった浜松市中区の女性(39)は、子宮内膜症が分かり30歳で手術。その後は「再発防止のため低用量ピルなどを服用し、生理による痛みや不快感がなくなった」という。
 生理の不調が治療で改善した経験談も多かった。過多月経だった三島市の女性(46)は「婦人科で治療目的で使える避妊リングを勧められて装着。月経量が格段に減り、快適になった」。健康診断で貧血を指摘されて過多月経が分かったという静岡市清水区の女性(45)は「ホルモン剤を服用し、月経量が減って貧血もなくなった。漏れているかも、という不安からも解放された」とつづった。
 近年、生理の不調改善を目的に使われることが多い低用量ピルの服用経験がある人は2割強の18人だった。「生理周期が整い、痛みや、昼間に夜用ナプキンを使っても間に合わなかった量も緩和された。自分の生理が異常だったと気づいた」(33歳、牧之原市)などの声があった。

 ※アンケートは7月中下旬にLINEを通じて実施し、県内外の10~50代81人から回答をいただきました。ありがとうございました。
 〈2020年8月7日静岡新聞夕刊〉

生理 歴史社会学者と読み解く

 歴史社会学者で「生理用品の社会史」(角川ソフィア文庫)など生理に関する著作も多い田中ひかるさん(49)=東京都=に、気になる回答を読み解いてもらった。

田中ひかるさん
田中ひかるさん

 「横になっていると夫に『怠けている』といわれる。生理と伝えても分かってもらえない」(37歳、静岡市駿河区)「男性ばかりの職場で(生理について)話しづらい」(39歳、県外)「女性同士でも生理に対する認識はギャップがあり、理解が難しい」(38歳、伊豆の国市)
 こうした悩みは個人的な問題のようで、実は社会的な課題をはらんでいます。生理は長い間、タブー視、不浄視され、きちんと語られてこなかったために、その問題も女性たち一人一人が抱え込んできました。生理には個人差があること、ある程度コントロールが可能であること、その方法や生理用品にも選択肢が広がっていること―などを社会でもっと共有していくべきです。性教育の充実も求められます。

 「青い水をナプキンに吸収させるCMに嫌悪感。男性も見るのに」(49歳、藤枝市)
 生理という現象は恥ずかしいものではありませんが、性に関わることについては、嫌悪感や羞恥心も人それぞれ。中には積極的には語りたくない人もいるでしょう。啓発する時も、そういう人への配慮は大切だと思います。CMも、機能のアピールよりイメージを重視するものも増えています。

 「生理休暇を取って、使えない社員と思われたくない」(47歳、静岡市駿河区)
 生理休暇は戦後、ナプキンもなく、職場に女性用トイレもない時代に定められたもの。今は環境が変わり、生理用品も医療も進歩しています。休まなければならないほどつらければ、まず医療にかかるべきです。その上で社会的には、生理に限らず、男性でも体調の悪い時にはきちんと休めるような働き方改革が求められます。
 〈2020年8月7日静岡新聞夕刊〉

月経カップ 膣内装着、長時間OK

 アンケートで「どんなものか知りたい」という声が多かった「月経カップ」。愛用する産婦人科医の入駒麻希さん=聖隷健康診断センター、聖隷浜松病院勤務=に教えてもらった。

月経カップ
月経カップ

 ―月経カップとは。
 「医療用シリコーン製のカップ型の生理用品。小さくたたんで膣[ちつ]内に挿入し、中で広げて経血を受け止める。日本ではインターネット通販を中心に、海外製品や国内メーカーの製品も出てきている」

 -使い心地は。
 「最大で8時間から12時間程度の連続装着が可能で、膣内にカップを装着するので、生理特有の蒸れやにおいがない。頻繁な交換が必要なくプールにも入れるなど、生理であることを忘れるほど」

 -メリットは多い。
 「カップ1杯の容量が決まっているので、自分の経血量が把握でき、正常範囲なのか分かりやすい。煮沸消毒して繰り返し使えるので経済的。ただ、使い慣れるまでには練習が必要になる」

 -生理とどう向き合うべきか。
 「まずは、自分の生理をよく知ってほしい。例えば生理前に不調が現れるPMS(月経前症候群)の最初の治療は、自分の生理周期と体調の日記を付けること。それだけで改善する人もいる。自己認識はそれほど大事」

 ―その上で、すべきことは。
 「今は低用量ピルという選択肢もあり、生理用品や生理を管理するアプリ、低用量ピルのオンライン処方などサービスも多様化している。信頼性を見極めた上で、合うものを主体的に選び、生理と向き合う自分流の術を見つけてほしい」
 〈2020年8月14日静岡新聞夕刊〉

スポーツと女性 過度な減量、無月経招く

 2019年8月、聖隷浜松病院(浜松市中区)に開設された専門外来「思春期・女性スポーツ外来」。前身の「思春期外来」時代から、部活動でスポーツに取り組む女子中高生が駆け込んでくる。最も多いのは、「月経がない」という訴えだ。

トレーニングに励む常葉大菊川高の長距離女子選手たち。体調に応じた休養など、女子ならではの配慮がある=2019年12月、菊川市の同校
トレーニングに励む常葉大菊川高の長距離女子選手たち。体調に応じた休養など、女子ならではの配慮がある=2019年12月、菊川市の同校
 「高校3年生で初潮がないということも珍しくはありません」。10年以上にわたり同外来を担当してきた産婦人科の入駒麻希医師はこう話す。不安を感じていても競技を優先してしまい、部活の引退を機に受診するケースも多いという。
 無月経の最大の原因はエネルギー不足。無理な減量や激しいトレーニングに比して食事が足りず、痩せて体内で利用できるエネルギーが足りなくなると、月経が起きなくなる。排卵を促す女性ホルモンには骨を強くする働きがあり、10代に無月経に陥ると、本来女性が20歳ごろに獲得する最大骨量(骨密度)を得られないまま、骨粗しょう症や転倒骨折のリスクを抱えることにつながりかねない。
 入駒医師は「明らかな病気になる前に食い止めたい」と、指導者や保護者の啓発にも力を入れる。痛みが強い月経困難症や、月経前にさまざまな不調が現れるPMS(月経前症候群)についても医療的に支援することで、個々に合った効率的な練習や本番調整が可能になるという。
 月経の異常や不調は生活指導を行うだけで改善する場合もあるが、必要に応じて薬物療法を組み合わせる。本番の体調不良を避けるためには低用量ピルを使った月経周期調整が有効で、欧米のアスリートでは一般的だが、入駒医師は「日本ではまだ、将来不妊になるのでは、といった薬に対する誤解が解けていない」と指摘する。
 体重の軽さが有利に働く競技では、減量志向が根強い。全国高校駅伝の常連、常葉大菊川高の卒業生で陸上長距離選手の萩原歩美さん(27)=豊田自動織機=は、高校を卒業して実業団に進んだ当初、結果を求めて体重を極端に落とし、月経が止まった経験がある。長期離脱が必要なけがも増え、検査すると骨密度が低下していた。専門医にかかり、食事も改善して回復したが、「体の状態を知った上で負荷をかける大切さを思い知った」と話す。
 食事不足は貧血も招く。競技者は発汗や筋肉の増加に伴い鉄を失う上、女子は月経もある。萩原さんの恩師で同高陸上部の長距離女子を指導する八木本雅之監督(58)は数年前から選手の体重管理をやめる一方、簡易測定器を導入して貧血状態をチェックし、必要に応じて休養させる。「無理に絞っても結果は続かない」のが実感だ。
 全国高校駅伝で須磨学園高(兵庫県)を2度全国制覇に導いた豊田自動織機女子陸上部の長谷川重夫監督(56)は「貧血で骨ももろくなり、実業団に来た時点で限界という選手を見てきた。練習量の制限なども徹底し、成長期の過度な負荷を防止すべき」と訴える。
 減量を機に、摂食障害に陥る選手もいる。スポーツと栄養の問題に詳しい県立大の市川陽子教授は「食材や調理法の工夫で、食べながら痩せることは可能。指導者も安易に栄養補助食品などを勧めるのではなく、食事の量と質が適切かを見直してほしい」と望む。

 <メモ>中高の陸上長距離や駅伝強豪校の一部では、貧血治療用の鉄剤注射を、持久力向上などの目的で安易に選手に使わせる不適切使用が明らかになっている。鉄剤注射の経験は女子選手でより多いとの調査もある。日本陸上競技連盟は重大な健康被害を招くとして昨年、防止のガイドラインを示し、12月の全国高校駅伝から出場校に血液検査の結果提出を義務づけた。
 〈2020年1月10日静岡新聞夕刊〉