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〈 わたしの街から 富士宮市猪之頭地区 〉

 富士山西麓の朝霧高原に位置する富士宮市猪之頭地区(標高約700メートル)。富士川水系の1級河川・芝川の水源や陣馬の滝があるなど富士山の湧水に恵まれた緑豊かな里山には、夏は蛍が飛び交い、ワサビの栽培やニジマスの養殖も盛んだ。そんな“田舎暮らし”を求めて首都圏などからの移住者が増えている。
 〈静岡新聞社富士宮支局 吉田史弥〉

田舎暮らし「思い描いた」日々

 2018年に念願の地方移住を果たした神奈川県出身の大塚祐介さん(45)。妻・昌美さん(46)と長男・椋太君(4)の家族3人で、薪窯を積んだキッチントレーラーで本格ナポリピザを移動販売しながら、思い描いた日々を過ごしている。

佐野順一区長(右)と語り合う大塚さん家族=富士宮市猪之頭
佐野順一区長(右)と語り合う大塚さん家族=富士宮市猪之頭
 長年、首都圏のIT企業を渡り歩いてきた祐介さん。「ここが自分の居場所なのか。自然の中で暮らしたい」。10年以上前から地方への思いを膨らませていた。

長男誕生 強まった「移住」の思い

 椋太君が生まれたことで移住への思いが強まった。17年に会社を退社し、本格的な準備に入った。移住先に選んだ朝霧高原は、学生時代からパラグライダーやキャンプで繰り返し訪れた。学生時代に同じパラグライダースクールに通っていた昌美さんと社会人になってから再会したのも、ここだった。「思い出の地ね」と昌美さん。

富士宮市猪之頭地区
富士宮市猪之頭地区
 猪之頭地区では地元住民が活性化推進委員会を組織し、行政や自治会ぐるみで新規移住を支援している。「子どもを育てながら地域に根付くのに、受け入れ窓口の皆さんに本当に助けられた」と祐介さん。委員会が猪之頭地区で空いている家を探し、転入時は家の片付けを手伝い歓迎会も開いてくれた。

オリジナルピザ 土地の魅力発信

 移住して3年―。地元産モッツァレラチーズを使った「宮(ミャ)ルゲリータ」をはじめ、富士山なめこやニジマスなど特産を使ったオリジナルピザを広げ、地域の魅力発信につなげている。移動販売中に移住希望者が話を聞きに訪れることや、移住セミナーに出向いて先輩移住者として語る機会が増えた。大塚さん夫妻との出会いをきっかけに猪之頭に転入してきた人もいるという。佐野順一区長(68)は「情報発信してくれて、とてもありがたい」と目を細める。

焼きたての「宮ルゲリータ」
焼きたての「宮ルゲリータ」
 富士山が一望できるオープンテラスの開設など、祐介さんの夢は尽きない。「自然が豊かで、人も温かい。都会と違って特色や個性がある。東京にはもう戻れないね」。そう夫婦で笑顔を浮かべ、充実した日々をかみしめる。

ワサビ 富士山の恵み、ほんのり甘みも

 富士山の雪解け水に恵まれた猪之頭地区では大正時代から、ワサビの栽培が始まったとされる。清らかな湧水の養分を取り込んだ猪之頭産のワサビは、ほんのりとした甘みと爽やかな辛さが特徴だ。

猪之頭産のワサビ
猪之頭産のワサビ
 最盛期には10軒超の農家で栽培されていたが、後継者不足などから減少。現在は3軒が主に出荷しているという。昭和初期から田丸屋本店が所有するワサビ田の管理運営を任されてきた杵塚(きねづか)養鱒(杵塚真美代表)では、1年半かけて育てたワサビを田丸屋本店に出荷するほか築地や名古屋の市場に出している。湧水が一年を通じて水温を11度ほどに保ち、ワサビを冬の寒さや夏の暑さから守ってくれる。杵塚さんは「富士山の恵みでできているワサビ。いつまでも、この環境が続いてほしい」と願いを込めた。

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