ワーケーションの可能性
休暇を楽しみながら仕事をこなす「ワーケーション」を受け入れる動きが静岡県内で広がっています。新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが定着したことを追い風に、首都圏からアクセスが良い伊豆半島を中心に拠点施設が相次いで開業します。受け入れは進むのでしょうか? まずは一度体験してみたいですね。現状と課題をまとめました。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・寺田将人〉
全国先進地・伊豆南部で誘致活発 今後は地域間競争も
観光地などで休暇を兼ねながら仕事をする取り組み「ワーケーション」の誘致を狙った施設が2021年、伊豆南部で相次いで開業する。新型コロナウイルス禍の前から誘致を図り、全国的にも先進地とされてきた伊豆南部だが、テレワークの急速な進展もあり、静岡県内外でライバルとなる施設の整備が進んでいる。地域間競争が始まる今後は、地域全体での連携や人材育成が課題になる。
21年度は、同市や東伊豆、河津、松崎の各町などで関連施設の開業が予定されている。国の新型コロナウイルス対応臨時交付金などを活用し、所有する遊休施設を改修して開設するケースが多い。国の支援で施設改修に関する自治体負担は軽くなったが、自立的で安定的な運営には一層の誘客や施設へのアクセス網整備が不可欠だ。
コロナ禍で観光の形態に変化が生まれている。大型ホテルでは、団体客向けの大広間やカラオケルームなどが遊休化し経営を圧迫。宿泊施設の一部をワーケーション施設に転換しようと模索する経営者もいて、民間の動きも活発化しそうだ。
伊豆南部の1市5町は2月、「伊豆’Sライフスタイル創造エリア推進協議会」を組織。地域全体が連携ししたワーケーションの誘致が進む。協議会には、行政だけでなく民間とも連携し、誘客層や施設の役割を地域全体で分担する調整役を担ってほしい。
伊豆南部の施設運営者によると、企業による合宿型のワーケーションでは、訪問先の地域課題を解決するプロジェクトの「場」として選ばれることが少なくないという。“一方通行”にならず、来訪者が伊豆に愛着を持った交流人口となるには、地元住民を結びつける場と人が欠かせない。施設整備が進んだ後は、両者を結ぶコーディネーター的存在が重要になる。都会と伊豆を結びつける人材の招聘(しょうへい)や育成が、今後のさらなる誘致の鍵となりそうだ。
(2021/04/11)
下田市と三菱地所が今夏開業 市所有の遊休施設を活用
三菱地所と下田市は9日、同市所有の遊休施設「旧樋村医院」をワーケーションオフィス「WORK×ation Site(ワーケーションサイト)伊豆下田」として整備し、今年夏に開業すると発表した。同社のワーケーションオフィスは全国4カ所目で、静岡県内では熱海市に次いで2カ所目となる。
開放的な空間や黒船をモチーフにしたワークスペースを1、2階に各1室を設ける。フリーWi-Fiやプロジェクター、感染症対策として非接触式スマートロックなども備える。180平方メートルの庭もあり、同市の企業「ヴィレッジインク」と連携してバーベキューなどのプランも用意する。団体利用に限定し、1日1室10万円(税別)。今後、同社のポータルサイトで予約を受け付ける。
同社は「目の前が海という立地の良さや、グループの活動の場として広い庭が活用できる点が魅力」としている。同市産業振興課の鈴木浩之参事は「団体向けの施設のため、地域の宿泊、飲食への経済効果を期待したい」と話した。
(2021/03/10)
熱海ではリゾート施設内に5月オープン
三菱地所とホテルニューアカオ(熱海市)は4日、アカオ社が同市で運営するリゾート施設内にワーケーションオフィスを整備し、5月に開業すると発表した。三菱地所はコロナ禍以前からワーケーション事業を展開していて、熱海市の施設は和歌山県・南紀白浜、長野県・軽井沢に続き3カ所目。
オフィスにはフリーWi―Fiやプロジェクターのほか、非接触型スマートロックなどの新型コロナ感染予防設備を整える。地元アーティストの作品をインテリアに採用し、非日常感も演出する。
三菱地所の広報担当者は「首都圏からのアクセスの良さに加え、チームやプロジェクト単位で来訪した際の宿泊やアクティビティ環境が整っている。コロナ収束後の需要拡大を見据え、多様な働き方に対応したい」と話した。
(2021/03/05)
御前崎でもワーケーション推進 「潮風感じながら仕事を」 各地で整備活発化
爽やかな潮風が舞い込む事務所でパソコンに向かい、気分転換に釣りやサーフィンへ―。新型コロナウイルス禍を背景に情報通信技術(ICT)を活用したテレワークや、仕事をしながら余暇も楽しむ働き方「ワーケーション」への関心が高まる中、御前崎市はまちの魅力でもある海の近くに受け入れ環境を整える。海岸から約200メートルに立地する市観光物産会館「なぶら館」2階の旧市商工会御前崎事務所(約100平方メートル)を、テレワークが可能な作業スペースに改修する整備費1900万円を2020年度補正予算に計上した。さらに21年度当初予算案に、動画やパンフレットなどを作製して市でのワーケーションをPRする誘客推進費300万円も盛り込んだ。
ただ、こうした施設整備の動きは各地で活発化している。下田市など全国13カ所のワーケーション施設の運営会社「LIFULL(ライフル)」は、10月までに施設を25カ所に増やす予定。行政側からの働きかけもあるという。「ハコを造ってもどう人を呼び込み、地域とつなげるかが肝だ」と同社アドバイザーの梅田直樹氏(48)=同市=。ワーケーションを企業進出など産業振興に結びつけるには、利用者と地元企業が交流する仕組みも欠かせないと指摘する。
御前崎市は釣り客やサーフィン愛好家など、御前崎の海を求めて県内外から訪れる人々をターゲットにワーケーション先として周知する方針。全国で同様の取り組みが相次ぐ中、地の利を生かして選ばれることができるかが問われる。
(静岡新聞 連載「コロナ禍の先へ 遠州7市町 21年度予算案」2021年3月21日朝刊)