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〈 クラフトビールの世界楽しんで 〉

 小規模醸造所がつくるクラフトビールの人気が高まっています。静岡県は20以上の醸造所がひしめく国内屈指のビール大国。近年醸造を始めたブリュワー(醸造家)らを訪ね、それぞれの“ビール人生”をひもときます。今夜のまとめ担当は静岡新聞社編集局TEAM NEXTの寺田将人です。

醸造家志しドイツへ オクタゴンブリューイング(浜松市中区)千葉恭広さん「ビール文化広めたい」

  2018年1月に醸造を始めたオクタゴンブリューイング(浜松市中区)の醸造責任者千葉恭広さん(45)は、05年からドイツのミュンヘン工科大ビール醸造工学部で理論と実践を学んだ。

仕込んだビールの状態を確認する千葉恭広さん=浜松市中区のオクタゴンブリューイング
仕込んだビールの状態を確認する千葉恭広さん=浜松市中区のオクタゴンブリューイング
  出発点は1990年代半ばに出合った一冊の本だった。英国人ビール評論家のマイケル・ジャクソンが著した「地ビールの世界」。ウィートエールやトラピスト系など、多種多様なベルギーのビールを知った。
  当時住んでいた大阪府内の百貨店の地下食品売り場で、ジャクソンが紹介していたビールを買いあさった。「色、香り、味、アルコール度が全部違う。衝撃を受けた。大学で電子物性工学を専攻していたが、卒業後はビールの造り方を学ぼうと決めた」
  留学資金をため、2002年に渡独。ドイツ語を習得した後、大学に入った。「醸造作業の手の動かし方だけでなく、裏付けとなる理論、ビール造りに関する学術的なことをきちんと学べたのが収穫」。学内の醸造所や研究所で、16世紀に制定された「ビール純粋令」に基づく「水、麦芽、ホップ、酵母」だけを用いる造り方を吸収した。
  ビールが生活に密着する、欧州ならではの文化も目に焼き付けた。「『とりあえずビール』ではない。みんな、その日の気分で幅広いラインアップからビールを選ぶ。五感で感じられるビールの魅力が広く理解されている」。日本にもビール文化を広めたい。思いが募った。
  17年12月、オクタゴンブリューイングを運営する丸八不動産(浜松市中区)に、醸造責任者として迎えられた。300リットルの熟成タンクが5基。当初はアルコール度数が高めのIPAがつくりにくかったが、配管に工夫を施すなどして課題解消に努めた。
  これまで40種以上を醸造。天竜区の林業従事者の提案で香木を取り入れるなど、市民との交流から生まれたビールも多い。「自由な発想を現実化できるのがビールの良さ。醸造を通じて浜松の魅力を発信したい」

■ジューシーフルーツとジャスミンエール
 現在の定番3種の中で最初に完成したのがセッションIPAの「ジューシーフルーツ」。2018年夏、“クラフトビールの聖地”とされる米ポートランドの醸造所「カルミネーション・ブリューイング」の醸造担当者と共同開発した。浜松市の都田地区で採れたミカンの果汁を入れている。爽やかな香りを強調し、比較的軽い飲み口に仕上げた。
  「ジャスミンエール」は、18年秋の開発。乾燥させたジャスミンの花を麦汁煮沸の最終段階で投入している。口中にふわりと広がる香りが特徴。
(2020/5/28)

「英国パブ文化を日本に」 柿田川ブリューイング(沼津市)片岡哲也さん

 17年前に英国で出合ったパブ文化、ビール文化の美点を日本にも広めたい-。柿田川ブリューイング(沼津市)のエンブレムに刻まれた「SLOW BEER SLOW LIFE」のスローガンには、社長片岡哲也さん(36)=秋田市出身=の願いが込められている。「ビールはコミュニケーションを豊かにするツール。英国のパブに通って、それを学んだ。おいしいビールを通じて、飲み手の人生を豊かに彩りたい」

EXTRA SHIZUOKA(左)と美茶クリームラガー(右)
EXTRA SHIZUOKA(左)と美茶クリームラガー(右)
  語学留学で住んだブライトンは、ロンドンの南に位置する港町。現地に着いてすぐ、ホームステイ先の近所のパブに一人で行った。住宅街の真ん中にある約20席の小さな店は、近隣住民と常連ばかり。だが片言の英語でラガービールを注文し、モニターに映るサッカー・イングランド代表の試合を応援しているうちに、すっかり打ち解けた。「ビールを飲んでいる者同士の、特有の連帯感を知った」
  欧州、南米など世界各国から集まったクラスメートと、市内各地のパブに通った。その数百カ所以上に及んだ。日本では珍しかったベルギーのホワイトエールがお気に入り。パブでは、初対面の人でもすぐに親しくなれた。「みんな、それぞれの出身地のビールを誇らしげに勧めてくる。自分も帰国後にビール造りに携わりたいと強く思った」
  2008年、当時沼津港エリアにあったベアードブルーイング(現伊豆市)に入社。アメリカンエールの“名手”、ブライアン・ベアードさんから醸造のイロハを学んだ。ベアードさんの口癖は「4K」。ビール造りは危険、汚い、きついの3K職場。でも「かっこいい」-。「その通りだ」。片岡さんは強く感じていた。
  独立したのは「自分が信じたビール、魂を込めたビールを世に問いたい」との思いが募ったから。「沼津クラフト」をブランド名に掲げ、定番5種を基幹に、地元のかんきつ類などを活用した季節限定ビールを20種以上仕込む。
  反骨心が仕事の原動力。「はやりのスタイルは追い掛けない。おかわりしてもらえる、飲む人にとっての定番を造り続ける」と強調する。「これ、もう1杯」が最高の賛辞だ。
 
■クリームラガーとEXTRA SHIZUOKA 美茶
  創業当時からの定番「クリームラガー」は、切れとのど越しを重視した大手ビール会社のラガービールとは異なる、まろやかな口当たりが特徴。大麦と小麦のバランスに気を配り、一般的なピルスナーにない味わいを追求した。飲み込んだ後に、モルト、ホップの心地よい余韻が続く。
  20年秋新発売の「EXTRA SHIZUOKA 美茶」は、ほうじ茶の個性をはっきり感じるESB(エクストラ・スペシャル・ビター)スタイルの新様式。発酵前の煮沸工程で煮出したほうじ茶を投入する。モルトとほうじ茶の味と香りが無理なく溶け合い、お互いを引き立て合っている。
(2020/12/24)

沼津に「柿田川ブリューイング」誕生 クラフトビール、静岡県東部で活況

 沼津市に2018年春、新たなビール醸造所「柿田川ブリューイング」が誕生した。静岡県東部は12の小規模醸造所がひしめく全国有数のクラフトビール生産地。各醸造家は自店で他社のビールを紹介したり、定期的に情報交換会を開いたりと、地域の“ビール熱”を高めようと連携も強めている。

自身の醸造所でビールの仕込み作業を行う片岡哲也さん=沼津市
自身の醸造所でビールの仕込み作業を行う片岡哲也さん=沼津市
  「沼津クラフト」のブランド名で醸造を始めた柿田川ブリューイングの設立者、片岡哲也さん(33)。2016年まで8年間、ベアードブルーイング(伊豆市)に在籍した経験を持ち、「柿田川由来の水を使った、ホップとモルトのバランスの取れたビールを造りたい」と独立した。
  仲間3人と起業し、IPA(インディア・ペールエール)やラガーなど5種を造る。三島市内で直営パブを3月に開業させた。7日には工場内での販売も始める。
  沼津市内には17年4月、醸造所併設型パブ「リパブリュー」がオープン。店内で醸造した10種のほか、沼津クラフトの3種もメニューに加えた。伊豆の国市の「反射炉ビヤ」、ベアードブルーイングなど競合他社のビールも複数販売する。醸造責任者の畑翔麻さん(26)は「クラフトビールは地域特性や醸造家の個性が出やすい。愛好家を増やしビールで地域を盛り上げたい」と意気込む。
  県東部のビール醸造家らは16年2月から、クラフトビールの会と銘打った情報交換会を3~4カ月に1度のペースで開催する。沼津工業技術支援センターの職員も加わり、醸造技術や品質向上、需要拡大に向けた方策を練る。
  御殿場高原ビールなどを手掛ける時之栖(御殿場市)の門倉栄ビール事業部長は「醸造所が一堂に集まるビアフェスを開催したい」と話す。15年には伊豆の国市で県東部7銘柄を集めた実績がある。18年度は再現を目指して会員に働き掛ける。
 ■メモ
 クラフトビールは、小規模醸造所でつくるビールの総称。国税庁によると、ビールの製造免許場数(大手5社を含む)は2014年以降増加傾向で、16年度は265場。果汁などの副原料を使う発泡酒を主な製品にしている製造免許場数も10年度以降は右肩上がりで16年度は113場に達した。ビールと発泡酒の両方を持つ醸造所もあるため単純合算はできないが、国内には200~300カ所のクラフトビール醸造所があるとみられる。
(2018/4/4)

熱川ワニ園のバナナ、ビールに 反射炉ビヤ醸造、香り豊か

 伊豆の国市のクラフトビール醸造所「反射炉ビヤ」と、東伊豆町の動植物園「熱川バナナワニ園」が、同園で収穫した完熟バナナを使ったビール「伊豆バナナワニIPA」を開発した。これまで“門外不出”の同園のバナナを原料に、フルーティーな香りを楽しめるビールに仕上げた。2021年3月15日から同園フルーツパーラーや、反射炉ビヤのネットショップなどで販売する。

熱川バナナワニ園で栽培されたバナナを使ったビール「伊豆バナナワニIPA」=東伊豆町
熱川バナナワニ園で栽培されたバナナを使ったビール「伊豆バナナワニIPA」=東伊豆町
 さまざまな果実を原料にビールを製造してきた同醸造所が昨年12月、同園に原料の供給を持ちかけた。同園はこれまで、園内のフルーツパーラー以外で収穫したバナナを提供してこなかったが、「コロナ禍で疲弊する伊豆の観光施設から明るい話題を発信したい」と快諾した。国産バナナのビールは、全国でも珍しいという。
 20種120株を栽培する同園のバナナのうち、原料には台湾バナナの品種「仙人蕉」など5種を選んだ。12キロのバナナをピューレにし、麦汁に加えて千リットルを醸造した。
 山田隼平醸造長は「ホップの香りがバナナの風味を引き立てている。クリーミーでジューシーな味になった」と特徴を語った。神山浩子副園長は「職員が一本一本丁寧に収穫したバナナが原料。ぜひ味わってほしい」と呼び掛けた。
 同園のフルーツパーラーでは、1本950円で提供する。
(2021/3/14)