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〈 新型コロナ 1年を振り返ります 〉

 きょうお昼にお届けした「知っとこ」では〈 新型コロナ 正しく理解、適切に対策 〉と題し、改めてウイルスの特徴や「不安」軽減のヒントについて考えました。今夜の「知っとこ」も続けて新型コロナウイルスをテーマにします。まとめ担当は静岡新聞社編集局TEAM NEXTの松本直之です。この1年間を皆さんとともに振り返ってみたいと思います。

静岡県内感染初確認から1年 社会混乱収束見えず

 新型コロナウイルス感染者が静岡県内で初めて確認されてから2月28日で1年が過ぎた。学校の臨時休校、事業者への休業・時短要請、政府の緊急事態宣言―。未知の感染症が猛威を振るうたび、県民は自粛生活を余儀なくされた。1月には感染力が強いとされる変異株の感染者が確認され、県独自の感染拡大緊急警報も発令された。一方で菅義偉首相が対策の決め手と位置付けるワクチン接種がスタート。新型感染症との戦いは新たな局面に入った。※静岡新聞2月26日朝刊掲載

静岡県内における新規感染者の発生推移
静岡県内における新規感染者の発生推移

 県によると、25日時点の県内の累計感染者は5081人(再陽性者含め5082人)、死者は93人。クラスター(感染者集団)発生は81件を数えた。
 県内最初の感染者は静岡市内に住む60代の男性だった。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗船客。船内検査は陰性だったが、下船後にせきなどを発症した。
 第1波となった4月の新規感染者は60人程度と抑え込んだものの、経験したことのない事態に社会は混乱。学校で休校、飲食店などで休業措置が取られ、街の人出は大幅に減った。4月16日、緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大された。
 7~8月の県内第2波はクラスター発生が特徴的だった。9件が発生し、場所は飲食店や事業所、スポーツジムなど多岐にわたった。感染原因はマスクを外した会話という点でおおむね共通した。施設名の公表を巡り県、静岡市、浜松市の対応が分かれ、行政判断の難しさが浮き彫りに。誹謗(ひぼう)中傷も問題化した。期間中の感染者は約400人。
 ウイルスが活動を活発化させる秋頃から始まった第3波はかつてない勢いで感染が拡大した。順天堂大静岡病院(伊豆の国市)を皮切りに、病院クラスターが頻発し、各地でコロナ対応と通常診療の両面で医療体制が逼迫(ひっぱく)。特に東部のコロナ病床使用率は7割を超え、医療崩壊が現実味を帯びた。
 感染の長期化に伴い自粛疲れやコロナ慣れが指摘され、人の移動が増えた年末年始は感染状況がさらに悪化した。1日の新規感染者は1月10日に過去最多の127人を記録。直近1週間の人口10万人当たりの新規感染者は17人台となり、政府が示す感染状況の「ステージ3」の基準(15人以上)を超えた。第3波の感染者は約4千人に上り、累計者数の8割を占めた。
 1月には東部保健所管内に住む4人が英変異株に感染したことも判明。県は独自に感染拡大緊急警報を発令し、2月8日に解除されるまで緊張状態が続いた。
  2月19日、医療従事者向けのワクチン先行接種が静岡市清水区の桜ケ丘病院で始まった。県内の接種第1号は内野直樹院長(70)。接種は3月中旬以降、同病院以外の医療従事者や高齢者、基礎疾患保有者、一般県民へと移行する。ただ、国がワクチンを計画通り海外から調達できるかが課題で、事業の終了時期は見通せない。

後藤幹生・静岡県疾病対策課長に聞く

 新型コロナウイルスの感染拡大に行政はどう対応してきたのか。静岡県疾病対策課の後藤幹生課長(56)が舞台裏を振り返った。

新型感染症に揺れた1年。医療現場は対応に追われ続けた=2020年6月、静岡県内
新型感染症に揺れた1年。医療現場は対応に追われ続けた=2020年6月、静岡県内
  ―中国・武漢で発生した未知のウイルスは日本国内、そして静岡県内へと広がった。
  「(昨年)1月16日に神奈川県で国内初の患者が確認されたと国が発表し、いつ本県で発生してもおかしくない状態になった。新型コロナは2月1日付で指定感染症となり、県内10の感染症指定医療機関と診断や入院対応、防護策について情報共有した」
  「同じ頃、横浜に停泊したクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』の感染者を受けてほしいと国から要請された。県内で受け入れたのは14人。治療面でトラブルや混乱はなかったが、亡くなった人もいた」
  ―感染者情報を巡り県は、個人が特定されない配慮に徹した一方、情報はできる限り公開すべきとの世論もあった。
  「人は本能的に感染症を怖がる。医療者でさえ、感染性の消えた患者の対応を拒否することがあるほどで、一般の人がすぐに受け入れられないのは当然。どうしても攻撃してしまう人が出てくる。今は誹謗中傷を簡単にSNSに書き込めてしまう。情報公開の強い求めは市町からもあり、県として意向に沿う形になった。公表したことで市町ではどういう対策が取れ、感染拡大防止につながったのか、誹謗中傷を防ぐ策も同時に行ったのか検証が必要だ」
  ―感染者が増えた昨秋以降、東部地域で医療体制の逼迫が続いた。
  「医療提供体制が弱いという東部の長年の課題を県民が知ることになった。コロナ病床を中部、西部並みに確保するだけ医療従事者の数に余裕がなかったことに尽きる。状況を改善してこられなかった県にも責任はある。県の医学修学研修資金を利用した医師を極力、東部に派遣するなど抜本的な対策が必要かもしれない」
  ―今後の感染流行をどう見通すか。
  「まずワクチンの接種率をできる限り高めることが重要。医師から接種を止められた人以外は自分と家族、接種できない人を守るため、最先端医学を信じて接種してほしい。一方で接種率がある程度上がっても、感染力の強い変異株が多い地域は散発的な流行が起きるのではないか。2009年に猛威を振るった新型インフルエンザは治療薬やワクチンがあったのに2~3年の影響が続いた。コロナはそれよりも厄介。あと5年程度は、今のようにマスクを着け続けるというエチケットが必要ではないか」

取材後記

 後藤幹生さんはこの1年、ほぼ毎日、記者会見に臨み続けた。SNSでは多忙ぶりを心配し、応援する書き込みが上がったほどで、コロナ対応の“顔”として県民に身近な存在になった。

後藤幹生課長
後藤幹生課長
 疾病対策課は感染者情報の取りまとめや国、市町との連絡調整に奔走した。変異株の発見など大きなニュースがあると県民から問い合わせの電話が殺到し、業務が滞ることもしばしば。「部下の方が大変」と謙遜する後藤さんも、コロナ前より1時間早い朝5時起きの生活が続いた。
 後藤さんには、特有の高い職業倫理を感じてきた。「命を守る」という医師時代の精神が底流にあるからだろう。丁寧な説明を心がける姿勢、感染者を誹謗中傷にさらしてはならないとする信念。だから県民の信頼につながったし、私自身も敬意を持ち続けた。(社会部・河村英之)

コロナ経験の中学生、医師に作文 差別と葛藤「議論したい」

 新型コロナウイルス感染者に対する誹謗(ひぼう)中傷を恐れ、誰にも感染の事実を話せず、精神的に追い詰められる人が後を絶たない。昨年感染した静岡市の男子中学生が、自身のジレンマを作文に込め、療養中の健康観察を担った小児科医に郵送した。「家族以外の人に初めて気持ちを伝えることができてよかった」。取材に応じた中学生は、心なしか晴れやかな表情で語った。

母親(奥)とともに取材に応じる男子中学生=2月中旬、静岡市内
母親(奥)とともに取材に応じる男子中学生=2月中旬、静岡市内
  男子中学生は、先に感染した母親の濃厚接触者として検査を受け、陽性が確認された。無症状で、10日間学校を休んだ。「友達に知られ、避けられたり悪口を言われたりしたらどうしよう」。自宅療養中、心配でたまらなかった。
  通学を再開すると、教員が友達に、別の欠席理由を告げていたと知った。感染前と変わらない学校生活に胸をなで下ろした一方で「悪いことをしたわけではない」のに、社会問題となっている誹謗中傷を恐れ、事実を隠し続ける自身に矛盾を感じた。
  登校から1週間後。健康観察を担った静岡厚生病院の田中敏博小児科診療部長から「人生で二度とない体験。記録したら」と勧められたのを思い出し、約500字の作文を書いた。「誰もが差別、偏見にさらされず、助け合っていけるようにすべきだ。(コロナに対する)イメージを変えられるのは、罹患(りかん)した僕たちなのかもしれない」
  田中部長は中学生以下の新型コロナ感染者とその家族を診察している。小学校高学年以上の患者には記録を残すよう勧めてきた。「大半は軽症か無症状だが、周りの目を気にして精神的に参る人が多い。感情を文字に表すことで、結果的に内面を整理することにつながるようだ」と話す。
  中学生は今も友達に事実を打ち明けていない。ただ「コロナの何を恐れるべきか友達と議論したい。療養中、精神的に苦しかったことも、『そんなことがあったんだ』と受け止めてほしい」と望んでいる。(静岡新聞2月23日朝刊掲載)
 
  <メモ>県立こども病院の荘司貴代感染対策室長によると、新型コロナウイルス感染者は若いほど症状が少なく、10代は8割、70歳以上でも3割が無症状。子どもは先に感染した家族の濃厚接触者として検査を受け、初めて感染に気付くケースが多い。症状の有無にかかわらず10日たてば感染性はなくなるため、再検査や「陰性証明」なしで登園、登校、職場復帰ができる。