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そのひきこもり「病的」?「健康的」? 簡易診断で早期発見、精神疾患を予防へ

 オンライン授業やテレワークの普及でひきこもり的ライフスタイルも定着する中、九州大の専門家チームが「病的なひきこもり」と病的ではない「健康的なひきこもり」を区別するための診断評価法を開発しました。評価票をもとに早期発見し、精神疾患を予防、クリニックや地域支援センターなどへの相談につなげます。
 4月に判明した厚労省の指針骨子で、ひきこもり支援は本人の視点に立った対応を自治体に求めています。多様な相談対応に取り組む県内自治体の窓口、ひきこもり支援経験のあるフリースクール代表のインタビューもあわせて紹介します。

ひきこもり区別へ評価法 病的? 健康的? 九州大のチーム 精神疾患 早期発見で予防

 新型コロナウイルスの流行を経てオンライン授業やテレワークが普及する中、病的ではない「ひきこもり」が増えてきた。九州大の専門家チームは、「病的なひきこもり」と、病的ではない、いわば健康的なひきこもりを区別するための簡便な診断評価法を開発し、昨年9月、国際学術誌に発表した。この評価法を活用して病的なひきこもりを早期に発見して支援し、うつ病やゲーム障害など精神疾患の予防につなげたいとしている。

九州大が開発したひきこもり診断評価法のポイント
九州大が開発したひきこもり診断評価法のポイント

 146万人
 内閣府がコロナ流行時の2022年11月に行った調査によると、半年以上、家族以外とほとんど会話をしないなどの条件を満たすひきこもりの人は全国で146万人と推定された。コロナ前の15~18年の調査では115万人で、約30万人増えたことになる。調査の担当者は「外出が制限され、自宅でも授業や仕事ができるという状況がきっかけになった可能性がある」と指摘した。
 国内で初めてひきこもりの専門外来を開設した九州大病院で治療や研究に当たってきた加藤隆弘准教授(精神科)は「健康的にひきこもっている分には幸せだが、一部には病的な人がいる。長期にわたるとメンタルを病むこともある」として、両者を見分ける必要性を強調する。加藤さんらは10項目程度の質問に答える形で病的なひきこもりを鑑別する評価票を作成した。

 ゲーム障害
 評価票ではまず、1時間以上外出する日が週に3日以下であれば「物理的ひきこもり」とし、その期間が3カ月以上6カ月未満であれば「プレひきこもり」、6カ月以上であれば「ひきこもり」とする。さらに、直近1カ月の外出状況について、自身がつらく感じているか、仕事や学業に支障が出ているか、家族や周りの人が心配しているかなどの7項目の質問で一つでも当てはまれば「病的ひきこもり」の可能性があると判定する。
 厳密な診断や評価には専門家の面接が必要だが、評価票で病的ひきこもりに該当すれば、クリニックや地域支援センターなどへの相談が勧められる。
 加藤さんらはこの評価法を使ってさらに研究を進めた。全国の20~59歳で働いていない500人を対象にした調査で、評価票で病的ひきこもりと判断された人は病的ではないひきこもりの人に比べて抑うつ傾向が強かった。
 さらに、ゲーム障害の傾向は6カ月以上ひきこもっている人より3カ月未満の人がより強く、特にロールプレーイングゲームにはまっている人が多いという。

 ポストコロナ
 コロナ前にはひきこもりでなかった社会人561人を対象にした調査では、コロナ禍で3割以上の人が一度は「物理的ひきこもり」になり、そのうち約3割が「病的ひきこもり」に陥っていた。病的ひきこもりになった人の要因を分析すると、社交的で社会的な達成感を求める傾向が強く、協調性の高い人はリスクが高いことが判明した。
 「意外なことに、ひきこもりとは無縁と思われていたこうした特性がコロナ禍では病的ひきこもりの危険要因になった可能性が示された。より強くストレスを感じたのが理由かもしれない」と加藤さんは指摘する。
 ポストコロナ時代において、情報通信技術の急速な進展や仮想現実(VR)の活用などで、ひきこもり的なライフスタイルの広がりが予想されるという。加藤さんは「新しい視点に基づくひきこもりの鑑別と支援体制の充実が必要だ」と訴えている。
 〈2024.5.7 あなたの静岡新聞〉

ひきこもり支援 本人視点で対応 厚労省、自治体向け初指針

 ひきこもりの人や家族の支援のため、厚生労働省が自治体向けに初めて策定する指針の骨子が29日、分かった。ひきこもりは生活困窮やいじめ、リストラといった問題から身を守ろうとして、誰にでも起こり得る社会全体の課題だと指摘。「人としての尊厳」を守り、本人の視点に立った対応を求めている。支援のポイントを盛り込み、2024年度中に完成させた上で、全国の相談窓口で活用してもらう。

ひきこもり支援指針の骨子
ひきこもり支援指針の骨子
 近年、長期のひきこもりによって80代の親と50代の子が孤立する「8050問題」が深刻化。家族が自治体に相談しても無理解や偏見から窓口をたらい回しにされたり、子育てを責められたりして支援が途絶えるケースが少なくない。
 一部の自治体では、厚労省研究班が10年に作成した精神疾患や早期受診に関するガイドラインを用いているが、より実態に即した統一的な指針が必要と判断した。
 骨子は、当事者団体、家族会、福祉や医療関係者、有識者からなる検討会がまとめた。全市区町村へのアンケートで寄せられた支援の実例や意見も踏まえた。
 指針の名称は「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤」。対象は「何らかの生きづらさを抱え、他者との交流が限定的」「生活上の困難を感じ、支援を必要とする状態」の人や家族とした。ひきこもり期間は問わない。また支援者自身も思うような成果が出ずに悩むことがあり、ケアの対象に加えた。
 ひきこもりは甘えだとして、自立を強いるような風潮に対し、就労などを一方的に押しつけず「本人の意思を尊重し、自律の力を中心に置いた支援が求められる」とした。
 〈2024.4.30 あなたの静岡新聞〉

磐田市にこども若者家庭センター/焼津市に複合的「困りごと」窓口

■子ども、子育てを包括支援 磐田市がセンター開設 ひきこもりも対応


​ 磐田市は4月1日、子どもや若者、子育て世帯などの包括的な支援に取り組む「こども若者家庭センター」を同市国府台のiプラザ2階に開設する。保健師や教員、社会福祉士ら36人を配置し、出産や子育て、児童虐待、貧困、いじめなど幅広い相談・支援に対応する。
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子どもや若者、子育て世帯などを包括的に支援するため、磐田市が開設する「こども若者家庭センター」=同市国府台のiプラザ

 児童福祉法改正に伴い、4月から母子保健と児童福祉の機能を一体化した「こども家庭センター」の設置が市町村の努力義務になる。市はこども・若者相談センターとこども未来課子育てサポートグループを統合し、新センターを設置する。市独自の体制として、子ども・子育て関連以外にも、ドメスティックバイオレンス(DV)やひきこもりなど、女性や若者の相談にも応じる。
 新センターは床面積190平方メートルで、開放的な執務スペースに加え、プライバシーに配慮した受付カウンターと個別相談ブースを備える。子どもを遊ばせながら相談できるスペースもある。隣の発達支援センターとも連携して対応できるようにした。
 26日には、草地博昭市長と鈴木喜文市議会議長がセンターを視察した。草地市長は「幅広い層をカバーできる体制を整えた。悩んでいる市民が気軽に立ち寄れるセンターにしたい」と述べた。
〈2024.3.27 あなたの静岡新聞〉
■複合的「困りごと」窓口開設 ひきこもり、生活困窮など支援策実施へ 焼津市

 ひきこもりや生活困窮といった複合的な課題を抱える市民を支援する焼津市の「困りごとマルっとサポートセンター」の業務が13日から始まった。子ども、高齢者、障害者、生活困窮者の「困りごと」に関連する庁内27課と関係機関が連携し、課題解決に向けたアプローチを図っていく。
 
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看板を設置する中野焼津市長(左)と櫛田部長=市役所

  センターでは主に「親が高齢者で子どもが障害者」「親が生活困窮家庭で子どもがひきこもり」といった単一の支援機関では対応が難しかったり、将来的に状況の悪化が予想されたりするケースについて、就労、居住、居場所づくりといったアプローチを通じて、適切な支援策を実施していく。&lt;br /&gt;<br />
 業務初日は市役所で関係者を集めて式典が行われた。中野弘道市長は市民の困りごとが複雑化する現状を踏まえ「(相談内容を)表層ではなく背景を分析して対応することが重要」と指摘した。式終了後、中野市長と櫛田隆弘健康福祉部長はセンターの窓口に看板を取り付けた。
 〈2023.11.15 あなたの静岡新聞〉
 

ひきこもり支援経験のあるフリースクール代表インタビュー 【賛否万論】不登校でも「学校」に行かせるべき?②

 法的な縛りがなく活動の自由度の高い民間のフリースクールが、小中学校に通えない子どもの受け皿として注目を集めています。学校とは異なる空間で子どもの自己肯定感を高め、心のリハビリの場になっています。ひきこもりの支援に長年携わり、2020年に静岡市葵区で不登校の中高生向けに居場所を提供する「きみのスペース まんま」を開設した黒川彩子さん(43)に、子どもが不登校になる背景やフリースクールの実情を聞きました。

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黒川彩子さん
 一斉教育の限界が来ている ひきこもり支援経験のあるフリースクール代表 黒川彩子さん  フリースクールの定義や位置づけは。

 定義は特に決まっていません。活動内容はそれぞれの施設ごとに違い、幅も広いです。学校に通わずにフリースクールに通った場合でも、制度上は小中学校長の裁量で出席扱いにすることが可能です。私の運営するフリースクールでは、子ども一人一人に対応した報告書を学校に毎月提出しています。学校との連絡は密に取っていて、フリースクールの状況を見に来てくれる教員もいます。一方で、教育委員会や校長の考え方次第で出席扱いの判断が異なる場合もあります。
 フリースクールを設立したきっかけは。
 ひきこもり支援を長くしている中で、子どもの頃から生きづらさを感じていた人に数多く出会いました。学校に通わず一日中家で過ごすぐらいなら、別の居場所を作ってあげたいと考えたのがきっかけです。子どもが自宅以外で過ごすことで、親子の関係も良くなります。親だけで抱え込まないように、学校以外に親が相談できる場があった方がいいとも思いました。
 米国で生活した経験もあるそうですが、海外の状況はどうですか。
 欧米では家で学習するホームスクーリングが認められていたり、飛び級も当たり前だったりして、日本よりも個性が重視される傾向があると感じます。日本も飛び級の制度はありますが、使ったという事例はほとんど聞きません。米国のまねをすればいいとは思いませんが、日本は個性重視の教育をうたいながら実態はそうなっていないのではないでしょうか。
 日本の学校教育に問題があるのでしょうか。
 学校教育を否定するわけではありません。日本の学校には運動会や合唱コンクールなどみんなで一斉に活動する行事があり、みんなが一緒に活動することが美徳とされる面があります。集団で動く部活動や委員会活動も重視します。集団生活の経験値は学校に通う方がフリースクールに行くより高いでしょう。一方で、義務教育を担う小中学校の教員は一斉教育を実現しなければいけない立場なので、公平や平等という観点を重視し、学校には決まり事が多くなります。子どもたちの中には本人の特性で一律の教育や決まり事が合わない子もいます。日本の公教育はうまくできていますが、不登校の子が増加している背景として、一斉教育の限界が来ているとも言えます。
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スタッフと料理づくりに取り組む子どもたち=11月上旬、静岡市葵区のフリースクール
 子どもたちが不登校になる背景には何があるのでしょうか。
 まず知ってほしいのは、学校に行けるのであれば行きたいと思っている子が多いことです。不登校の子がゲームをしたりネット動画を見たりする場面が強調されて、サボっていると捉えられることがありますが、決してサボっているわけではないのです。不登校の子はいいかげんなのではなくむしろ非常に真面目で、完璧を求めるあまり、学校生活で不適応を起こすケースも多々あります。特性上、大きな集団が苦手でコミュニケーションがうまく取れず、一斉に何かをすることに気持ちが付いていかない子もいます。そのため、教員に叱られたり、同級生とうまく付き合えなかったりして自己肯定感が低下してしまう子も多いです。相手に追い詰められるような深刻ないじめまでいかなくても、SNSで悪口を書かれるなど、小さないじめをきっかけに学校に行きたくないと思うようになるケースもあります。
 学校とは異なる空間としてフリースクールが必要な理由は。
 小中学校の教員が不登校の子に対応した場合、学校に戻すことを目標としてしまい子どもが余計に学校に行きたくなくなるケースがあります。また、学校内の別室登校や教育委員会が設置する教育支援センター(適応指導教室)は、活動内容やスタッフの役割が学校に近いので、それが合わないという不登校の子もいます。不登校の子を学校に戻す発想ではなく「学校に行けないなりにできることをやれば良い」のではないでしょうか。学校に行きたい気持ちが強く、少し頑張れば行けるのであれば学校復帰を目標にしても良いと思います。でも、学校に執着する必要はなくて、苦しんで通うぐらいなら、無理する必要はないと私は考えています。
 子どもが不登校になった場合、保護者の役割をどう考えますか。
 フリースクールのような場につなぐまでが保護者の役割です。大人は居場所を探すことができますが、子どもは自分で探すことはできません。特に思春期の子は保護者だけで対応するのは難しく、保護者だけで問題を抱え込むと長期化する場合もあります。共働きの家庭が増えているとはいえ、子どもと接する時間が多いのは圧倒的に父親よりも母親です。子どもが不登校になると、母親は自分の育て方が悪かったのかと悩みます。子どもだけでなく親自身が相談する場も必要です。そのため、親の相談に応じたり、不登校の子の親同士で話をする会を開いたりするフリースクールもあります。
 滋賀県東近江市長のフリースクールや不登校に関する発言が物議を醸しました。社会全体の理解は広まっていますか。
 時代とともに考え方は変わっていますが、学校に通わせるのが当たり前という考え方は根強く、不登校をおおっぴらに言えない雰囲気はまだあります。保護者や子どもたちも学校に行っていない後ろめたさを常に持っています。学校に通わせるのは親の責任だと考えている祖父母に対し、子どもが不登校になっていることを言えないという保護者もいます。
 フリースクールの数は足りていますか。
 不登校の子が増加し、どの支援機関ともつながらずに家庭で孤立している子が相当な数いるとも言われます。そういう意味では、フリースクールの数はまだまだ足りていません。運営が難しいのでなり手が少なく存続が大変だという要因もありますし、教育委員会や学校によってはフリースクールの周知に積極的でなく、必要な家庭に情報提供が届かない面もあります。私自身はフリースクールが完全に学校の代わりになるとは考えていませんが、まずはその子と家族が元気になる居場所となり、それから先のことは一緒に考えていく、それがフリースクールの存在意義だと思います。
 くろかわ・あやこ 静岡市葵区出身。高校卒業後に渡米し、心理学を学ぶ。帰国後は横浜市の若者自立支援団体で不登校やひきこもりを支援。静岡市ひきこもり地域支援センターの相談員を経て、2020年に同区にフリースクール「きみのスペース まんま」を開設した。
 〈2023.12.1 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞