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ホテル・シルビア閉業 藤枝東サッカー部宿舎 選手支え30年超

 サッカー名門校の藤枝東高の部員が宿舎として利用する藤枝市稲川のホテルシルビアが今夏ごろをめどに、経営難を理由に閉業します。市内の高校サッカー部員らの生活を長年にわたって支えてきた施設が、惜しまれながら幕を閉じます。部員らと育んだ絆、部員を支え裏方に徹した経営者夫妻の姿をお伝えします。

名門サッカー部と「幸せな時間だった」 今夏めどに閉業

 サッカー名門校の藤枝東高の部員が宿舎として利用する藤枝市稲川のホテルシルビア(菊川一夫社長)が今夏ごろをめどに、経営難を理由に閉業することを決断した。同校をはじめ、市内の高校サッカー部員らの生活を長年にわたって支えてきた施設が、惜しまれながら幕を閉じる。

経営難を理由に閉業を決断したホテルシルビア=6日午前、藤枝市稲川
経営難を理由に閉業を決断したホテルシルビア=6日午前、藤枝市稲川
 菊川社長(80)と副社長の妻千枝子さん(79)が1985年、知人の依頼で吉田町から通う藤枝東高のサッカー部員を自宅で受け入れたのがきっかけ。試合を見に行き続けると、知識がなかったサッカーを好きになったという。預かってほしいと頼まれる部員の人数も徐々に増え、96年に部員たちの部屋をホテルに移した。
 2006年からは女子サッカーの強豪、藤枝順心高のサッカー部員も利用を開始。ホテルの一般営業から宿舎として運営を切り替え、同校の柔道部員らも含め、ほぼ満室となる70人以上を引き受ける年もあった。
 ところが、藤枝順心高は新しい寮が完成したため、今年3月末までに卒業の3年生と現役部員の計37人が退去。ホテルの経営は行き詰まり、菊川社長は苦渋の決断を下した。千枝子さんは「信頼の絆を結んできた選手たちと会えなくなるのが悔しい」と声を震わせる。
 ホテルには、元日本代表のドイツ1部リーグ、アイントラハト・フランクフルト所属の長谷部誠選手(39)をはじめ、高校時代に宿舎を利用していたジュビロ磐田の山田大記選手(34)=浜松市出身=ら藤枝東高OBのサイン入りユニホームやスパイクなどが飾られている。同校と藤枝順心高の歴代の賞状や写真も展示され、部員の励みになっていた。
 正月に集まったり、結婚して生まれた子どもを見せに来たりする卒業生もいた。菊川社長は「子どもたちとの生活は人生の中で誇りに感じる」と部員と過ごした日々を思い返す。
 ホテルに残る藤枝東高の現役部員は準備が整い次第、市内の新しい宿舎に移る。「本当に幸せな時間だった。歴史ある藤枝のサッカーが人として礼儀を尽くした素晴らしいものであるように、生徒をずっと応援していきたい」と千枝子さん。絆と思い出を胸に、少し離れた場所からこれからも見守り続ける。

 OB、名残惜しむ
 藤枝市稲川のホテルシルビア閉業に、高校時代に宿舎として利用した藤枝東高OBからは名残惜しむ声が上がる。
 
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ホテルに飾られた藤枝東高OBらのサイン入りユニホームなど

 Jリーグや海外でプレーした社会人サッカークラブ岳南Fモスペリオの赤星貴文選手(37)=富士市出身=は、高校卒業時に菊川さん夫婦が贈った試合結果など3年間の新聞記事をまとめたアルバムを今も大事に持っている。「3年間、親代わりになってくれた。宿舎で育った生徒はみんな感謝している。思い出に残っていると伝えたい」と語った。
 藤枝MYFCの平尾拳士朗選手(22)=愛知県出身=も「毎日、登校時は見送り下校時は出迎えてくれて、藤枝の親代わりだった。(閉業は)残念」と寂しさを口にした。(藤枝支局・青木功太)
 〈2023.06.07 あなたの静岡新聞〉

「シルビアがあったから」 OB、現役生が感謝の思い伝える

 サッカー名門校の藤枝東高の部員が宿舎として利用し、経営難を理由に閉業する藤枝市稲川のホテルシルビア(菊川一夫社長)で31日、「ありがとうシルビアの会」が行われた。OBや現役部員、学校教員、後援会関係者ら計約50人が集まり、長年サッカー部員の生活を支え続けた菊川社長(80)と副社長の妻千枝子さん(79)、長女の内藤朝子さん(56)に感謝の気持ちを伝えた。

集まった関係者と記念撮影する前列右から菊川一夫社長、妻千枝子さん、長女の内藤朝子さん=31日午後6時50分ごろ、藤枝市稲川のホテルシルビア
集まった関係者と記念撮影する前列右から菊川一夫社長、妻千枝子さん、長女の内藤朝子さん=31日午後6時50分ごろ、藤枝市稲川のホテルシルビア
 OBからはJ2ジュビロ磐田の山田大記選手(34)や藤枝MYFCの平尾拳士朗選手(22)ら現役プロ選手が駆け付けた。山田選手は「シルビアがあったから今の僕たちがいる。感謝と恩返しの気持ちを大切に持ち続け、自分の人生を頑張っていきたい。元気でいてください」と述べた。
 現役部員を代表し、3年の河西祐哉さん(18)と野田隼太郎さん(18)が菊川さん夫婦にお世話になった部員からの寄せ書きと「長い間お疲れ様でした。これからも元気でいてください」と書いたサッカーボールを手渡した。後援会は感謝状とエースナンバー「10」の藤枝東高のユニホームを贈呈。OB会と父母会も花束を贈った。
 千枝子さんは「言葉にできないくらい感謝している。これからも今までのように人としての礼を尽くした生き方で素晴らしい人生であることを祈っている」と涙ながらに語った。久々に再会したOBの顔を見て「会えてうれしい。でも、別れも寂しい」と話し、宿舎生活の思い出話に花を咲かせた。
 菊川さん夫婦は1985年に知人の依頼で同校サッカー部員を自宅で受け入れたのをきっかけに、計158人の同校部員を見守ってきた。現役部員は今後、市内のアパートを宿舎として利用する。(藤枝支局・青木功太)
 〈2023.08.01 あなたの静岡新聞〉

「私たちは裏方」 取材記者が見た経営者夫婦の姿

 サッカー名門校の藤枝東高の部員が宿舎として利用していたホテルが7月末、閉業した。長年、部員を支え続けた経営者の夫婦を取材した。

 5月、初めて夫婦と会って話をした。部員の成長や活躍だけでなく、藤枝のサッカーの発展も願っていた。「こんなに部員を思っている人であれば」と過去の新聞記事データを調べたが、関連記事は一度も掲載されていなかった。各社から取材希望の連絡もあったはずなのに。理由を聞いてみると「私たちはあくまでも裏方。決して表には出ない」。まさに人を支えるスペシャリストだと感じた。
 閉業という残念なタイミングではあったが、夫婦に会えたこと、取材できたことに心から感謝したい。「ありがとうございました。そして、お疲れさまでした」。(藤枝支局・青木功太)
 〈2023.08.10 あなたの静岡新聞 記者コラム「清流」〉
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