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新砂防ダム完成 熱海・伊豆山復興へ、警戒区域解除に前進

 熱海市伊豆山の大規模土石流が流れ下った逢初(あいぞめ)川上流部の新砂防ダムが20日に完成しました。ダムの完成は、立ち入りを制限している被災地の警戒区域を解除するための条件の一つでした。熱海市は今年の夏の終わりごろに解除したいとしており、伊豆山の復旧復興に向けた準備が進んでいます。

ダム完成「早期帰還に少しでも寄与できれば」

 国土交通省熱海緊急砂防出張所は20日、熱海市伊豆山の大規模土石流が流れ下った逢初(あいぞめ)川上流部に建設していた新砂防ダムが完成し、県に引き渡した。新砂防ダムの完成は、立ち入りを制限している被災地の警戒区域を解除するための条件の一つ。伊豆山の復旧復興に向けた準備が一歩進んだ。

逢初川上流部に完成した新たな砂防ダム(国土交通省中部地方整備局提供)
逢初川上流部に完成した新たな砂防ダム(国土交通省中部地方整備局提供)
 新砂防ダムは土石流の起点から約800メートル下流に完成。高さ13メートル、幅59メートル。容量は約1万800立方メートルで、土石流の起点周辺に残る盛り土が仮に崩れても受け止めることができるという。
 同出張所は国の直轄事業として、2021年12月までに既存の砂防ダムにたまった土砂を除去し、22年3月から新砂防ダムを整備してきた。事業費は約27億円。現場は急峻(きゅうしゅん)で不安定土砂が厚く堆積していたため、同出張所は重機を遠隔操作したりクラウドカメラで作業員や重機の位置を可視化したりして、安全確保に細心の注意を払って工事を進めてきた。
 同出張所の蔭山敦士建設専門官は「大変な工事だったが、伊豆山の安全確保と避難者の早期帰還に少しでも寄与できればと思ってやってきた」と話した。
 土石流の起点では落ち残った盛り土を撤去する県の行政代執行が行われている。県は5月末までの完了を目指している。市は今年の夏の終わりごろに警戒区域を解除したいとしている。
(熱海支局・豊竹喬)
〈2023.3.21 あなたの静岡新聞〉

26年度内にハード整備、被災者帰還も完了へ 熱海市方針

 熱海市伊豆山の大規模土石流の被災地復旧について、斉藤栄市長は7日の市議会2月定例会で、「2026年度末までにハード整備と(被災者の)帰還について一定の完了」を目指す方針を示した。高橋幸雄氏(熱海成風会)の一般質問に答えた。

 被災地の復興まちづくり計画では、25年度中に分譲や住宅再建を始める方針が示されている。しかし現時点で用地買収の交渉に応じていない被災者もいて、予定通りに進むかどうか不透明な状況だ。
 市は今夏の終わりごろに警戒区域を解除する予定で、ライフラインなどが整っていれば、被災者が避難先から帰還することが可能になる。斉藤市長は「生活できる条件が整う区域の住民には、3カ月前程度に解除の告知をする。しばらく帰還できない住民には、今後の見通しを丁寧に説明する」と述べた。
 一方、土石流で被災し解体した消防団詰め所について、市は伊豆山南部の市有地を建設候補地として地元に提案したが、地区の中心から離れていることなどを理由に、同意が得られなかったことを明かした。植田宜孝消防長は「引き続き地元の意見を聴いて検討する」と述べた。
(熱海支局・豊竹喬)
〈2023.3.8 あなたの静岡新聞〉

被災者の心に寄り添い多角的に支援 熱海市伊豆山ささえ逢いセンター長/原盛輝氏

 2021年7月に熱海市伊豆山で発生した大規模土石流の被災者の見守り支援を続けている。被災者の悩みは多岐にわたり、時間とともに変化もする。現地のインフラの復旧工事が本格化する中、一人一人に寄り添いながら、分断された地域コミュニティーの再生を目指している。

原盛輝氏
原盛輝氏

 -被災者と接して感じることは。
 「センターは発生3カ月後に開設し、保健師や社会福祉士など6人の相談員が被災した127世帯を訪問したり、電話したりして悩みや不安を聞いてきた。少しずつ前に進もうとしている人もいれば、まだ誰とも話したくないという人もいる。先日、最後の行方不明者の太田和子さん=当時(80)=の骨の一部が発見された。良かったと思う人、災害に憤りを覚える人、発生時の惨状を思い出して落ち込む人など反応はさまざまだった」
 -被災者に寄り添う上で大切なことは。
 「被害状況や家族構成などで被災者の悩みは違う。避難生活を送っている人の中には、伊豆山に戻るか、戻らないかで悩み続けている人もいる。丁寧に傾聴し、それぞれの思いを尊重したい。夏の終わりごろに警戒区域が解除される予定だが、その後の生活に対する心配も尽きない。有効な支援情報を提供するなど、先を見据えたアドバイスが求められている」
 -被災地に開設している交流施設「いずさんっち」の状況は。
 「旧農協の建物を活用し、健康体操などを定期的に開き、住民同士が交流できる場所にしている。野菜の移動販売の会場にもなっていて、徐々に定着してきた。まだ伊豆山を離れている被災者が訪れるケースは少ないが、将来避難先から戻ってくる人と住民がつながれる場所になるよう運営していきたい」
 -今後の支援で意識していることは。
 「他の被災地の事例を勉強し、この先起き得る問題をイメージするようにしている。多額の義援金を受け取った後に働く意欲を失ったり、地域との交流ができずに孤独死してしまったりと、災害から時間が経過してから問題が深刻化したケースもある。市をはじめとした関係機関と連携しながら、多角的な視点で支援をしていきたい」

 はら・なるあき 1998年、熱海市社会福祉協議会に入職。小学校から高校までの12年間を伊豆山地区で過ごした。同地区の消防団に所属し、土石流発生時は住民の避難誘導に当たった。51歳。

(熱海支局・豊竹喬)
〈2023.2.29 あなたの静岡新聞〉
 

老舗が工場再建し「復興麺」 諦めずに頑張る被災地の姿発信

ふるさと納税の返礼品として出品している商品を手にする中島秀人さん=熱海市上多賀
ふるさと納税の返礼品として出品している商品を手にする中島秀人さん=熱海市上多賀
※2022年12月28日 あなたの静岡新聞から
 熱海市伊豆山の大規模土石流で被災した創業80年以上の老舗「コマツ屋製麺」が、再建した工場で製造した商品を同市のふるさと納税の返礼品として出品している。発災からまもなく1年半。中島秀人社長(54)は「諦めずに頑張る被災地の姿を発信し、災害の風化を防ぎたい」と話し、地域再生に協力を呼びかけている。
 昨年7月3日、中島さんの自宅兼工場は大量の土砂が流れ込み、機械類や冷蔵庫が損壊した。建物は立ち入り禁止の警戒区域内にあり、事業再開のめどが立たない。それでも中島さんは「絶対に工場を畳みたくない」との思いで工場再建を決意。クラウドファンディングで募った資金を活用して同市上多賀に新工場を設け、今年7月に事業を再開した。
 市の復興計画検討委員会の委員を務め、常に被災者の思いを行政やメディアに訴え続けてきた中島さんは、新工場で「復興の旗印になるようなソウルフードを作りたい」と商品開発を続けてきた。こうした熱意に市も呼応し、中島さんに返礼品の出品を勧めた。
 返礼品には、市内の人気ラーメン店に納めている麺や県内産の小麦を使った特製麺など4種の生麺セット3箱と、同市の中華料理店「熱海美虎(みゆ)本店」と共同開発した「熱海復興麺」3食分の2種類を用意した。復興麺は2月以降に発送する予定だ。
 警戒区域の解除は来年8月ごろになる見込みで、被災者は今年も避難先で年を越す。中島さんは「つらい思いをしているのは自分たちだけではない。水害に見舞われた静岡市清水区など他の被災地とコラボレーションした商品も開発したい」と構想を語った。

(熱海支局・豊竹喬)
地域再生大賞