静岡県内に拠点の製造業賃上げラッシュ 中小への波及注目
物価上昇と政府の賃上げ意向を受けた今年の春闘。3月15日の集中回答日、静岡県内に拠点を置く主要製造業では労組の要望以上や満額など、賃上げラッシュとなりました。資源やエネルギー高騰が経営を圧迫する中、中小企業にも波及するのでしょうか。
集中回答日 要求を上回る回答も
2023年春闘の集中回答日を迎えた15日、静岡県内に拠点を置く主要製造業では労働組合側の要求を上回る回答や満額回答など、高水準の回答が相次いだ。物価上昇を受け、政府の意向も後押しして実現した大手での賃上げラッシュ。一方、交渉が今後本格化する中小企業は、原材料・エネルギー高などで厳しい経営状況にあり、賃上げがどこまで波及するか注目される。

ヤマハも要求を上回る賃金改善を回答し、伊佐地豪文中央執行委員長は「会社の強いメッセージと受け止めている。賃金改善の起点(の年)になると思う」と話した。
スズキは賃金改善分と定期昇給相当分を合わせた総額、年間一時金とも満額回答。白井晴行書記長は「会社側が30年に向けた成長戦略を示す中、今回の回答は達成への行動を後押しする内容だ」と前向きに受け止めた。
浜松ホトニクスはベア6500円、年間一時金6・1カ月の満額回答で7日に早期決着した。さらに補正費として社員1人当たり月3千円を上乗せし、実質的に労組の要求を上回る内容。久保田曜執行委員長は「人手不足や物価高による生活不安の危機感を共有できた」と振り返った。
三菱電機のベア回答は前年比4・5倍超の月7千円と大幅に伸び、記録が残る1974年以降で初の満額回答だった。年間一時金は要求6・1カ月に対し5・8カ月。同労組静岡支部の仁王尚夫執行委員長は「人材投資の意味でも賃上げは不可欠と交渉で強く要求した。中小企業を含めて価格転嫁を進め、賃金に反映されるようになってほしい」と望んだ。
〈2023.3.16 あなたの静岡新聞〉
ヤマハ発動機ベア月額9千円、初の要求以上
ヤマハ発動機は15日、2023年春闘でベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分として、労働組合が要求した月額7千円を2千円上回る9千円を回答した。物価上昇を踏まえた形で、要求以上の回答は同社初。ヤマハも同日、労組要求7千円を千円上回る8千円を回答し、スズキも満額回答した。
年間一時金は要求6・6カ月に対し6・5カ月。同労組の久保順裕中央執行委員長は「組合員の生活への不安に向き合ってくれた」と評価した。
ヤマハの賃金改善回答が要求額を上回ったのは、現行方式となった1999年以降初めて。一時金は要求通り5・9カ月。
スズキの回答は、賃金改善と定期昇給相当分を合わせた総額として1万2200円、年間一時金5・8カ月。要求を総額方式にした21年以降で満額回答は初。
〈2023.3.16 あなたの静岡新聞〉
「人への投資」で競争力 県内中小、一時金や手当の強化も
今春闘で一部大手企業が大幅な賃上げ方針を打ち出す中、静岡県内中小企業が従業員の生活支援や人材確保に向け、賃上げを模索している。昨年来の原材料・エネルギー価格高騰で利益率が低下し、価格転嫁の遅れも重くのしかかるなど、中小企業の業況は厳しい。一時金や手当の強化など、ベースアップ(ベア)以外で対応を図る動きもあり、各社は逆境下でも「人への投資」で競争力を高めようと戦略を練る。

資材などのコスト高が続くものの、提案力を高めて受注を増やし、情報通信技術(ICT)導入による生産性向上で原資を確保した。資格手当などの諸手当を社内規定で明文化して周知したほか、昨年11月には全社員に物価高騰対策で特別手当も支給した。「資格取得を含め、仕事へのモチベーションが上がる」と社員の表情は明るい。
一方、製品や部品を大手に納める立場の中小メーカーでは価格転嫁が思うように進まず、賃上げへの足かせとなっている。県中部の食品加工業者は「原料高騰分の2~3割しか転嫁できていない。賃上げができるかどうかは今後の取引先との価格交渉次第。それまでは一時金で対応する」と窮状を語る。
人手不足が特に顕著な観光・サービス業では人員確保策として賃上げを検討する事業者が多いとされ、業界内では「余力は全くないが、できなければ他社に人材が流出してしまう」(旅館経営者)と不安の声が漏れる。
価格転嫁推進の重要性は、県内労使間で認識が一致している。10日に県中小企業団体中央会(静岡市葵区)を訪れた連合静岡の中西清文会長は「厳しい状況は十分理解している。適正取引の実現が鍵」と強調。同中央会の山内致雄会長は「現状では中小企業の一律賃上げは困難。価格転嫁推進には関係機関の協力と政策強化が必須」と語った。
メモ 厚生労働省が発表した1月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価上昇を加味した実質賃金は前年同月比4.1%減で、賃金の伸びが物価高騰に追い付いていない。全国労働団体の連合は今春闘で5%程度の賃上げ実現を求めていて、3月15日に集中回答日を迎える大手企業に続き、中小企業の対応が注目されている。
(経済部・高松勝)
〈2023.3.15 あなたの静岡新聞〉
価格転嫁、適正取引がポイント 大手に見直し求める
連合静岡が13日、静岡県経営者協会に2023年春闘の要請書を提出し、県内春闘が本格的にスタートした。歴史的な原材料・エネルギー高が企業収益、家計の双方を圧迫する中、今春闘では労使代表がそろって賃上げの重要性を強調する異例の展開に。特に物価高や価格転嫁の遅れで利益率が落ち込み、賃上げ原資が乏しい中小に波及できるかが今春闘の成否の鍵となる。
県経営者協会の中西勝則会長も「中小の問題はサプライチェーン(供給網)全体で考える必要がある。(連合静岡の)今回の考え方はかなり似通った部分があると感じた」と一定の理解を示した。働き方改革や人材育成も課題に挙げ、「時代の変化を労使で共に捉えなければ」と述べた。
今春闘では13日までに、スズキやヤマハ発動機などの県内一部大手労組が、前年比で要求総額を引き上げる方針を相次いで決定している。連合静岡の中西会長は取材に「全体を引き上げるためにも先頭に立って頑張ってもらいたいが、賃上げの格差を生まないことが重要。中小や非正規雇用の人たちも含め、波及効果が生まれる形を作っていかねば」と語った。
(経済部・高松勝)
〈2023.2.14 あなたの静岡新聞〉