静岡県「医師少数スポット」10市区町追加 環境整備も課題
静岡県の人口10万人当たりの病院勤務医は142・2人で、都道府県別で40位となっています。県は3月16日、医師確保を重点的に図る「医師少数スポット」に10市区町を追加しました。来年4月からは医師の働き方改革が始まり、産科など地域医療の縮小が心配されています。県内の医療環境の現状を深掘りします。
働き方改革24年4月開始 地域医療の縮小懸念
医師の時間外労働などを制限する「医師の働き方改革」が2024年4月から始まる。医師の長時間労働に支えられている医療実態の見直しが必要とされる一方で、医師不足の静岡県の医療現場からは一律の規制による地域医療の縮小を懸念する声が上がる。非常勤医師の応援で成り立つ産科有床診療所の中には、分娩(ぶんべん)の取り扱い中止を検討する所も出ていて、関係者は労働基準監督署の柔軟な対応を求めている。

働き方改革は、医師の時間外労働時間の上限を年960時間とし、地域医療の確保や医療技能の向上が必要な場合には例外として年1860時間が適用される。厚労省が示す19年調査では、勤務医の4割弱が年960時間以上、約1割が年1860時間を超えて勤務している。
働き方改革の施行を前に、各大学病院は非常勤医師を派遣する医療機関に、非常勤医師の休日日勤や夜勤を時間外労働時間に含まれない「宿日直」として労基署から許可を得るよう求めている。非常勤医師の当直支援が欠かせない診療所は宿日直許可を得る必要が出てくるが、宿直は週1回、日直は月1回が条件。「現実的な運用ではない」という声は多い。
前田医師は都市部で進む産科の集約化が地方でも加速する可能性を指摘し「県内の分娩の半数は開業医が行っている。集約化は地方の妊婦にとってアクセスが非常に悪くなる」と話す。
非常勤医師の応援を受ける在宅医療の現場でも働き方改革の影響は大きい。坂の上ファミリークリニック(浜松市中区)などを運営する医療法人社団心の理事長で県医師会理事の小野宏志医師(53)は「終末期に暮らす場所は自宅の満足度が高い。在宅医療の必要性が高まる中、十分な医療が提供できなくなるかもしれない」と切実だ。その上で「過労死はいけないが、働き方改革だけで幸せになるとは思えない」と訴える。 浜松医大病院 派遣先支える責務強調
静岡県内外の医療機関に非常勤医師を送る浜松医科大付属病院(浜松市東区)は働き方改革に向けて新たなシステムを導入し、昨年から近隣病院と電子カルテの共有を始めた。緊急時などに迅速に対応できるよう院外で待機する「オンコール」医師にも外部用の端末を配布し、呼び出し回数を減らすことで医師の負担軽減を図っている。
病院同士は電子カルテを共有しながら患者の急変時や治療方針などを確認・相談ができ、スムーズな転院受け入れが進む。浜松医科大付属病院の各診療科の医師はこれまで院内での当直が多数を占めていたが、オンコール対応を増やし当直回数を減らした。
働き方改革に伴い、大学病院が外部に派遣する医師を引き上げる動きが懸念されている。同病院の松山幸弘院長(61)は「産科や小児科など診療科によっては応援がないと困る地域がある。医師の外部勤務先、地域医療を守りたい」と語り、自院での勤務状況の見直しを進めながら派遣先の医療機関を支える責務を強調する。
大学病院の給与は一般病院に比べて低く、大半の医師が外部の病院で“アルバイト”をして成り立っている側面もある。
(社会部・佐野由香利)
〈2023.2.20 あなたの静岡新聞〉
伊東や湖西など設定 奨学金利用の若手派遣へ
静岡県は14日の医療対策協議会で、医師確保を重点的に図る区域「医師少数スポット」に県内10市区町を追加設定する方針を示した。27日の医療審議会で了承されれば、現行の県医師確保計画(2020~23年度)を改正する。
医師少数スポットに設定されると、医師少数区域に指定されている賀茂、富士、中東遠の3圏域と同様に医師確保に向けた取り組みが可能となる。具体的には、県の奨学金制度を利用する若手医師を派遣する。
県は22年4月に県内で初めて浜松市天竜区を医師少数スポットに設定。医師少数スポットを「局所的に医師が不足する地域」としていた国の考え方が、22年12月に「原則、市区町村単位」と明確化され、対象拡大を検討していた。
本県の人口10万人当たりの病院勤務医は142・2人。全国平均の171・6人を大きく下回り、都道府県別で40位。
(政治部・森田憲吾)
〈2023.3.16 あなたの静岡新聞〉
富士保健医療圏 救急受け入れ困難「年250件」
富士市議会9月定例会は6日、一般質問を行い、5氏が登壇した。救急医療問題について小長井義正市長は、富士・富士宮両市の富士保健医療圏の救急受け入れ困難事案が年間250件発生していると説明し、県全体の45~50%を占めている現状を明らかにした。荻田丈仁氏(新政富士)の質問に答えた。
救急搬送先を決める時間の短縮や基幹病院の満床状態への対策に関する協議の進ちょく状況なども説明。質問に対して小長井市長は「問題の重大性を認識し、取り組みを早めなければと思っている」と述べた。
市立中央病院で昨年度に受け入れた救急搬送を含む救急患者数は8529人。
この日、他に登壇したのは一条義浩(リスペクトふじ)、下田良秀(新政富士)、笠井浩(民主連合)、井出晴美(凜の会・公明党)の各氏。
(富士支局・宮城徹)
〈2022.10.7 あなたの静岡新聞〉
指導医確保が重要 静岡県立総合病院/小西靖彦新院長
急性期医療や地域医療の連携で本県の中核的役割を担う県立総合病院(静岡市葵区)の院長に今春就任した小西靖彦氏が1日までに取材に応じ、医学教育に携わってきた経験から、県内の課題である医師不足への対応について「最も必要なのは指導医。指導医が働きやすい環境、支援をどう作るかが鍵になる」との考えを示した。

必要なのは「若い医師が行きたい、行ってもいいと思える病院をつくること」と述べ、具体策の一つに「指導医の確保」を挙げる。「病院にどんな指導医がいるかは、若手医師が病院を選択する重要なポイントになる」という。しかし、30代半ばから40代に当たる指導医は子育て世代で、私生活の充実も求められる。「働く医師の幸せを考えた組織の在り方を考えなければいけない。そういう部分にお金を使うべきだ」と強調する。
医療環境の整備も重要だとして「人口が少ない地域でも病気はある。ある程度の集約化を図りながらもハードの整備は欠かせない」と話す。
働きやすい環境 支援体制必要 一問一答
県立総合病院の小西靖彦院長の一問一答は次の通り。
-本県の医師不足対策をどう思うか。
「県内勤務を条件に返還を免除する奨学金制度や医学部の地域枠選抜、医師の給与など、自治体や各病院がさまざまな手を打っている。今後は地域枠で入学した多くの医師が県内で働くことになるが、働く場所をどうデザインしていくかが重要になる」
-医師不足に対して県立総合病院はどう関わるか。
「研修医を含めて医師300人が働いている。個人的な感覚としては、当院で育った若手医師が県内各地で働いてくれれば静岡の医師数は少なくとも全国平均レベルに近づくと思う。今まで以上に進めていきたいが、その際はやはり医師の生活に配慮して進めたい。当院は比較的ブランド志向が高い若手医師が集まるため、そのギャップをどう埋めるかも課題になる」
-地域医療連携推進法人を組む桜ケ丘病院(静岡市清水区)との今後は。
「法人設立の目的の一つは桜ケ丘病院の医師確保。当院から常勤や非常勤として数名の医師が働いている。人口約20万人の地域で桜ケ丘病院が担う役割は大きく、今後も人材交流をはじめとして連携していく。移転新築する桜ケ丘病院での勤務を志願する医師が出てくる期待もある」
-新型コロナウイルス感染症で逼迫(ひっぱく)する医療提供体制をどう考えるか。
「状況なりに対応していくしかない。コロナ自体は現状では重症化しにくい事実を前提に、コロナ以外の医療を止めないことが最重要。病院の存在意義に関わる。県内の中核病院として、高度急性期機能と県民が求める医療の提供の使命を果たしたい」
こにし・やすひこ 日本医学教育学会理事長を務める。前職は京都大付属病院病院長補佐。外科医。福井県出身。64歳。
(社会部・佐野由香利)
〈2022.9.2 あなたの静岡新聞〉