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伊豆・松崎の「幻のポンカン」 若手農業者、継承へ力注ぐ

 伊豆西海岸の松崎町で唯一生産される「栄久ポンカン」が収穫期を迎えています。濃厚な香りや味わいが特徴の果実は、市場流通量が少なく「幻のポンカン」とも呼ばれます。先代が守り続けてきたポンカンを継承しようと、栽培に力を入れる若手農業者の取り組みをまとめます。

「大玉で生育良好」栄久ポンカン収穫 松崎・三余農園

 松崎町で唯一生産される「栄久(えいきゅう)ポンカン」が収穫期を迎えている。同町那賀の三余(さんよ)農園では、20日ごろの出荷に向け従業員10人が作業を進める。

栄久ポンカンの収穫作業を行う土屋さん=松崎町那賀の三余農園
栄久ポンカンの収穫作業を行う土屋さん=松崎町那賀の三余農園
 同町発祥の栄久ポンカンは、市場流通量が少なく幻のポンカンと呼ばれる。濃厚な味と香りの良さが特徴で、市場向けに生産する同園と丸高(まるたか)農園に加え、町内数軒が栽培を続ける。
 三余農園5代目園主の土屋人さん(34)によると、例年より約1週間色づき始める時期は遅かったが、大玉で生育も良好。同園では2月下旬までに約20トンの収穫を見込む。
 2023年は、GABA(ギャバ)を含む機能性表示の取得を目指すという土屋さん。「新たな視点から販路拡大につなげ、松崎の農業を盛り上げたい」と話した。
 ネットや町内の直売所で購入できる。(松崎支局・太田達也)
〈2023.1.12 あなたの静岡新聞〉

若い力で守る 農家の後継ぎ2人 量産へ独自研究

接ぎ木する台木をさまざまな種類で試し、苗木作りを研究する高橋幸村さん=松崎町道部
接ぎ木する台木をさまざまな種類で試し、苗木作りを研究する高橋幸村さん=松崎町道部
 ※2019年1月4日 静岡新聞夕刊から
 松崎町発祥で“幻のポンカン”と呼ばれる「栄久(えいきゅう)ポンカン」の継承に、同町の2人の若手農業者が力を注いでいる。生産量が少なく市場に流通することがないポンカンだが、農地の荒廃や木の老朽化が進んでいるという。2人は「互いに協力して継承栽培していきたい」と苗木育成や農地拡大など生産量増加に向けた取り組みに臨む。
 生産しているのは三余農園の5代目土屋人さん(30)と丸高農園の4代目高橋幸村さん(34)。ともに創業80年を越える農園の後継者として2015年に就農したばかり。「先代が大切に守り続けてきた栄久ポンカンを絶やしてならない」と強い信念を抱く。
 栄久ポンカンは品種登録されておらず、研究実験や品種改良が進んでいないため、栽培方法や苗木の作り方は手探り状態。100本以上ある木から実の色や大きさなどが良質な優性系統の穂木を選び、生育が早くなるようネーブルや温州みかんなどさまざまな種類の台木に接ぎ木して苗木を育てている。
 地域の事業者と連携した販路拡大にも乗り出している。製菓店の協力を得ながら洋菓子などの商品開発に取り組むほか、栄久ポンカンの知名度向上と規格外商品の利活用も狙っている。
 土屋さんと高橋さんは「伝統を築いてきた両農園同士、クリアしなければならない課題も多い。『松崎といえば栄久ポンカン』と認知されるよう互いに協力しながら継承していきたい」と口をそろえた。(松崎支局・市川幹人)
 ※内容は当時のまま
 
栄久ポンカン 三余農園の2代目土屋栄久氏が1934年ごろ、知人から譲り受けた穂木を自宅の庭に植えたのが起源。「栄久ポンカン」と名付けられ、丸高農園の初代高橋亘氏と伊豆半島を中心に苗木を配るなど普及活動に尽力した。甘みが非常に強く、酸味と香りのバランスも良い。太田ポンカンや今津ポンカンなどの主流品種と比べ、収穫できる成木になるまで時間がかかり、規格外の実が成りやすいため栽培に手間がかかる。収穫時期は1月上旬~2月下旬ごろまで。年間生産量は三余農園は約20トン、丸高農園は約5トンを見込む。

特徴は濃厚な香りや味わい しずおか食セレクションに認定

深沢町長(左)に認定の喜びなどを伝える土屋さん(右)と高橋さん=松崎町役場
深沢町長(左)に認定の喜びなどを伝える土屋さん(右)と高橋さん=松崎町役場
 ※2021年12月23日 あなたの静岡新聞から
 松崎町特産の「栄久(えいきゅう)ポンカン」がこのほど、静岡県が全国に誇れる多彩で高品質な農林水産物を選ぶ「しずおか食セレクション」に認定され、生産する三余農園の園主土屋人さん(33)と、丸高農園の代表高橋幸村さん(37)が町役場で深沢準弥町長に喜びを報告した。
 栄久ポンカンは主要品種の太田ポンカンに比べ、濃厚な香りや味わいが特徴。全国で同町のみが生産している希少性から“幻のポンカン”とも呼ばれる。両農園は認定に向け共同申請し、こうした独自性に加え、品質や販売戦略などが評価された。丸高農園は、県内の優れた加工品を選ぶ「ふじのくに新商品セレクション」に栄久ポンカンのストレートジュースを出品し、同町初の金賞に選ばれた。
 土屋さんは「これからも品質管理を最優先に人材育成にも注力したい」、高橋さんは「注目が高まれば、地域経済にも貢献できると思う」とそれぞれ思いを語った。栄久ポンカンはふるさと納税の返礼品や、町商工会の「松崎ブランド」にも選ばれていて、深沢町長は「さらに有力なブランドとして多角的な情報発信が可能になり、町の発展にもつながる」とたたえた。
 ※内容は当時のまま

アルコール飲料にも活用 丸高農園

ブランド化を目指し販売にこぎ着けたアルコール飲料=松崎町の和食店「心」
ブランド化を目指し販売にこぎ着けたアルコール飲料=松崎町の和食店「心」
 ※2022年4月12日 あなたの静岡新聞から
 松崎町の丸高農園(高橋幸村代表)が4月から、町内五つの飲食店などと協力し、町特産の栄久(えいきゅう)ポンカンやニューサマーオレンジのストレートジュースを使ったアルコール飲料の販売に乗り出した。濃厚な味わいや程よい酸味を売りに、ブランド化を目指している。
 同農園が生産する栄久ポンカンは昨年(2021年)度、県が全国に誇れる高品質な農産物を選ぶ「しずおか食セレクション」に認定され、ストレートジュースは県内の優れた加工品を選ぶ「ふじのくに新商品セレクション」で、同町初の金賞を受賞した。高橋代表は「受賞品の持つブランド力を地域ぐるみで生かし、地元経済の発展や観光需要の創出につなげたい」との思いで各店舗に協力を呼び掛けた。
 アルコールはサワーやハイボール、カクテルを提供し、店舗ごとに味の違いを楽しめるのも魅力の一つ。和食店「心」の店主斉藤慎司さん(43)は「すでに多くの人から好評を得ている。ドリンクメニューの幅が広がりありがたい」と話す。
 丸高農園は今後、町観光協会に呼び掛けるなどして協力店舗を増やす方針。高橋代表は「食を通じて地域がつながり、町の活性化になるような好事例をつくっていきたい」と意気込む。
 ※内容は当時のまま
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