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⚽藤枝順心 6度目の全日本制覇 チームの強さ探る

 第31回全日本高校女子サッカー選手権の決勝で、静岡県の藤枝順心が1-0で十文字(東京)を下し、2年ぶりの優勝を果たしました。優勝は6度目で歴代単独最多となりました。ことしのチームの特徴とともに、選手や監督の活躍、思いをまとめます。

変幻自在の戦術が結実 今大会のチームの特徴は

十文字との決勝戦を制した藤枝順心の選手=8日午後、神戸市のノエビアスタジアム神戸(写真部・田中秀樹)
十文字との決勝戦を制した藤枝順心の選手=8日午後、神戸市のノエビアスタジアム神戸(写真部・田中秀樹)
 第31回全日本高校女子サッカー選手権は8日、神戸市のノエビアスタジアム神戸で決勝を行い、静岡県の藤枝順心が1-0で十文字(東京)を下し、2年ぶりの頂点に立った。優勝は6度目で、歴代単独最多。前半は両チームとも好機が得点につながらず、0-0で折り返した。後半に入り相手の攻撃をしのぎながらリズムをつかんだ藤枝順心は同23分、FW山田歩美からの絶妙なパスを受けたFW正野瑠菜が冷静にゴールに流し込み先制した。その後は相手の猛攻を堅守でしのぎ、逃げ切った。藤枝順心は1回戦から5試合で計13得点、1失点と攻守に力を見せつけた。

レギュラー争い激化で全体のレベルが向上
 試合ごとに先発が変わり、日替わりでヒロインが現れる。今大会の藤枝順心の特徴だ。複数ポジションをこなせる選手が例年以上に多かったため、相手の傾向や試合状況に応じて柔軟にフォーメーション、ポジション、メンバーを変更した。決勝は難敵相手に攻守の戦略がはまり、選手交代なしで押し切る新境地も示して見せた。
 チームは前世代が残した全国高校総体準優勝、選手権4強の成績を超えようとスタートしたが、その道のりは平たんではなかった。優勝候補と目された全国総体は初戦敗退。「敗戦は衝撃的だった」とMF浅田幸子ら選手の落胆は大きかった。その後、追い打ちを掛けるように部内で新型コロナウイルスがまん延。主力を含む複数の選手が離脱を余儀なくされた。
 だが、ここでチャンスを得た控え選手が次々に台頭。レギュラー争いに大きな刺激を与えた。激化した選手間競争の結果、チーム全体のレベルが向上して戦術の深みも増した。チームワークも強みになった。中村翔監督は「それぞれの良さを重ね合い、ウイークポイントも補いながらまとまるパワーが非常に強くなった」と振り返る。
 前年に比べ小粒と言われた今チーム。困難を乗り越え、築いたスタイルが最後に花開いた。2年前、連覇の偉業を目に焼き付けた今年の3年生。同様にこの日、下級生は全国制覇を成し遂げた先輩の雄姿をベンチやスタンドから見詰めた。チームカラーは毎年変化する。だが、伝統は引き継がれていく。(運動部・吉沢光隆)
〈2023.01.09 あなたの静岡新聞〉

エースの復活 決勝点決めた正野/チームの精神的支柱 三宅主将

FW正野 最高の輝き 重圧はねのけ決勝ゴール

藤枝順心ー十文字 後半23分、相手GKをかわしてゴールを決める藤枝順心の正野(右)=ノエビアスタジアム神戸(写真部・田中秀樹)
藤枝順心ー十文字 後半23分、相手GKをかわしてゴールを決める藤枝順心の正野(右)=ノエビアスタジアム神戸(写真部・田中秀樹)
 初戦の2得点以降は鳴りをひそめていた点取り屋が、ここ一番で最高の輝きを放った。十文字との熾烈(しれつ)な攻防が続く中、藤枝順心のFW正野が重圧をはねのけVゴールを奪った。「これまで良いプレーができなかったが、最後に(自分を)信じてパスを出してくれた。味方にいっぱい助けられた」。エースの復活は誰もが待ちわびた瞬間だった。
 一瞬の隙を逃さなかった。後半23分、中央を走る正野は、左サイドでボールを奪ったFW山田とアイコンタクト。絶妙なパスを受けてGKと1対1になると、小学校時代からの経験を生かした。「ゴール前ではキーパーを抜くことが多くて、シュートよりも自信があった」と冷静に相手をかわし、流し込んだ。
 卒業後はなでしこ1部・伊賀に進む実力者だが、直近3試合は苦しんだ。中村監督の「味方を生かせば最後に自分に返ってくるよ」との言葉を信じ、実行した。「迷惑を掛けたが、皆が声を掛けて支えてくれたから頑張れた」。集大成の冬、3年間の努力が結実した。

「最強証明できた」 主将三宅 有終の美
大声で応援する藤枝順心の三宅(中央)ら
 藤枝順心の主将三宅は試合終了のホイッスルに胸をふるわせた。途中出場が多く決勝の出番はなかったが、精神的支柱としてチームをけん引し続けた。中村監督は「彼女が主将でなければ日本一になることはなかった」と言う。三宅は「やっと今年の順心が最強だと証明できた」と万感の思いでトロフィーを掲げた。
 毎年、選手へのアンケートで主将を決めるが、指揮官は「違う結果でも三宅にするつもりだった」と言い切る。順心の下部組織から地道に努力を重ね、全国から集まる精鋭を抜群のキャプテンシーでまとめ上げてきた。
 卒業後は教員を目指し、青年海外協力隊として海を渡ることも夢見る三宅にとって、プレーヤーとして臨む最後の大会だった。「全員がそれぞれの立場で力を尽くし、仲間を信じて戦えた」。名門を束ね重圧とも戦った1年、有終の美を飾った。
 (運動部・吉沢光隆)
〈2023.01.09 あなたの静岡新聞〉

チームを優勝に導いた中村翔監督

 監督就任は2021年春。選手権5度の優勝に導いた名将・多々良和之前監督の後を受けた。1年目の選手権は4強進出。2度目の挑戦で頂点に立ち「選手たちがよく頑張ってくれた。この結果を得ることができて誇りに思う」。緊張から解放された表情には喜びが満ちていた。

中村翔さん
中村翔さん
 岩手県出身。プレーヤーとしては盛岡商高3年時に全国高校選手権優勝。大学卒業後、教員として11年に藤枝明誠高に赴任しサッカー部で指導者人生が始まった。17年に藤枝順心高に移り、コーチとしてチームを支えた。意識するのは「彼女たちの良さがピッチ上で発揮できること」。その積み重ねが最後に優勝につながればと取り組んできた。
 同じ県勢として高め合ってきた常葉大橘高との2回戦は、懸ける思いが特別に強かった。「橘の存在があるから僕たちも成長できている。切磋琢磨(せっさたくま)し合える関係。(新チームからの直接対決で)一番のいい試合だった」と振り返る。
 選手には優勝の経験を、今後の人生につなげてほしいと強く願う。「(順心での活動が)この先の人生で成果を出すための3年間であってほしい」。歓喜の輪を作る選手一人一人の表情を、温かなまなざしで見守った。
 教員として保健体育、情報を兼務する。週3日は付属幼稚園で、園児に体操やサッカーを教えている。妻と3男1女。焼津市。34歳。(運動部・吉沢光隆)
〈2023.01.09 あなたの静岡新聞〉

6度の優勝、連覇も 藤枝順心のこれまで

 1912年に仲田裁縫教授所として創立。2003年に藤枝南女子高から創設者の仲田順光の名を受け継ぐ現校名に。全校生徒は中・高合わせて461人。サッカー部は1994年創部。全日本高校女子選手権は2004年度から19年連続出場し、優勝6度。19、20年度は連覇を達成した。全国高校総体も、中止となった20年度をはさみ連続出場を続け、16年度は優勝した。卒業生にはサッカー女子日本代表の杉田妃和ら。戸田雪子校長。藤枝市前島2の3の1。