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保育の安全どう確保 事件続いた2022年の静岡県内

 静岡県内では2022年、牧之原市の認定こども園で園児が送迎バス内に置き去りにされ、死亡する事件が発生し、裾野市の私立保育園では園児への虐待が発覚しました。事件を受け、政府は23年度、送迎バスへの安全装置設置を義務化し、保育士の人件費補助を拡充する方針です。保育を取り巻く環境がどう変わろうとしているのか、1ページにまとめました。

安全装置の設置義務化決定 通園バス置き去り対策 6月完備目標

 牧之原市静波の認定こども園「川崎幼稚園」で9月に女児=当時(3)=が送迎バス内に置き去りにされ死亡した事件を受け、政府は12日の関係府省会議で、来年4月から全国の園で送迎バスに安全装置の設置を義務化することを柱とする緊急対策を取りまとめた。小倉将信こども政策担当相は、6月末までに装置設置を現場に働きかけるよう指示した。

通園バス置き去り死事件を受け開かれた関係府省会議。中央奥は小倉こども政策相=12日午後、東京・霞が関
通園バス置き去り死事件を受け開かれた関係府省会議。中央奥は小倉こども政策相=12日午後、東京・霞が関
 義務化の対象は幼稚園と認定こども園、保育所、特別支援学校の幼稚部から高等部まで、児童発達支援・放課後デイサービスで、送迎バスの数は計約4万4千台に上る。経過措置の1年間はバス後部に点検表を設けるなどして降車後の車内確認の徹底を促す。小中学校と放課後児童クラブの約1万1千台は義務化の対象外だが、設置費用を補助する方針。
 装置設置に加え、降車時の子どもの点呼も関係府省令を改正して義務付ける。違反した園は業務停止命令の対象となる。
 職員向けの安全管理マニュアルを国として初めて作成した。送迎する際の注意点を示し、車内確認時に使える点検表を用意した。自治体を通じて早期の運用を求めていく。
 マニュアルの動画配信や研修の実施、登園状況の記録管理システムの普及、子どもの所在地を確認する衛星利用測位システム(GPS)の導入も支援するとした。
 小倉氏は昨年7月の福岡県に続き、同様の事件が2度起きた事態を重く受け止め「一刻の猶予もない」と強調した。
 送迎バスを持つ全国の園に対して実施した緊急点検結果(速報値)も公表した。バスの運行は計1万787施設で2万2842台。このうち、特別支援学校幼稚部を除く1割が登園と乗降時に園児の人数や名前を確認していなかった。バス通園時の園児の見落とし防止につながる研修の実施も5割前後にとどまり、適切な取り組みを行っていない園が一定数ある実態が判明した。
 〈2022.10.13 あなたの静岡新聞〉

保育士を手厚く配置 2023年度から人件費補助拡充

 政府は2023年度、4、5歳児を担当する保育士を手厚く配置するため、追加で保育士を雇う場合の人件費補助を拡充する。全国で相次ぐ送迎バス内への園児の置き去りや保育所での虐待を受けた措置。幼児教育や保育の質の向上と現場職員の負担軽減を図る。

首相官邸
首相官邸
 静岡県内では9月に牧之原市の認定こども園で園児が送迎バス内に置き去りにされ、死亡する事件が発生。11月には裾野市の私立保育園で園児への虐待が発覚した。
 保育現場で起こる問題の背景に、保育士の人手不足や過度な業務の負担があると指摘されている。政府は保育現場の勤務環境や人員不足を改善し、子どもの安全安心を守る体制の強化につなげる考えだ。
 利用定員121人以上の大規模保育所の4、5歳児クラスで「園児25人に保育士1人」の実現を目指す。23日に閣議決定した23年度政府予算案では、国の人件費補助の負担を13億円と見込んだ。全国の公立、私立保育所で計約4千カ所、全体の18%が対象になる。
 一方、4、5歳児の園児30人に対して保育士1人が必要と規定した国の「配置基準」は維持する。安定的な財源を確保できないことなどから、この配置基準は1948年から70年以上も変わっていない。小倉将信こども政策担当相は23日の閣議後会見で「(今回の予算措置が)長年、着手できていなかった4、5歳児の配置基準の改善に向けた第一歩と位置付けている」と強調した。
 園児の見落としによる事故を防止するため、全国の保育所と認定こども園で、登降園時やプール活動時など人手が必要となる際に保育士の業務を補助する支援員の配置も充実させる。補助額は一施設当たり月4万5千円。予算案に約10億円を計上した。
 〈2022.12.24 あなたの静岡新聞〉

保育現場の課題は 慢性的な人員不足 こども家庭庁は23年度発足

 牧之原市の認定こども園の送迎バス内に園児が置き去りにされ死亡した9月の事件以降も、特別支援学校などのバスや自家用車内に子どもを置き去りにする事案が全国で後を絶たない。政府は子どもの安全を守る緊急対策の関連経費234億円を2022年度第2次補正予算案に計上し、2023年4月から安全装置の設置を義務化する。大人の目で子どもを守る態勢が向上するが、事故の根絶に向けては人員不足という課題が依然として横たわる。

記者会見する小倉将信こども政策担当相=22日、内閣府
記者会見する小倉将信こども政策担当相=22日、内閣府
 小倉将信こども政策担当相は記者会見で、繰り返し起こる同様の事案について「まだまだ現場が多忙で、意識が回っていない」と述べた。園児が亡くなる事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット事例」も多数あるとみられる。安全装置の義務化にとどまらず、人的ミスをなくすための根本的な対策が欠かせない。
 来年度に設置される「こども家庭庁」を旗振り役として、子育て関連施策を大幅に充実させる必要がある。とりわけ、保育現場の慢性的な人員不足の解消が急務だ。低賃金、重労働の保育士の待遇をいち早く改善しなければならない。長年、実現されていない配置基準(保育士1人当たりの子ども数)の見直しも求めたい。
 政府は子育てを支援する姿勢をこれまで以上に強く打ち出し、保育現場の負担軽減や安全管理の意識向上につなげてほしい。岸田文雄首相は子ども関連予算の「将来的な倍増」を約束している。来年度の編成でも保育運営の実態に即した効果的な予算措置を期待したい。(東京支社・青木功太)
 〈2022.11.28 あなたの静岡新聞〉

こども家庭庁

 政府が2023年4月に新設を目指す組織で、子どもに関連する政策立案や行政を担う。政府は今国会に同庁設置関連法案を提出した。こども家庭庁は首相直属機関と位置付ける。少子化克服、虐待防止、子どもへの性犯罪対策などにも取り組む。教育分野の移管が検討されたが調整がつかず、引き続き文部科学省が担うこととした。名称は「こども庁」も検討されたが、自民党内で「子どもの育ちは家庭を基盤としている」といった異論が出て「家庭」が盛り込まれた。