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⚽来季J2昇格の藤枝MYFC 大躍進の秘密は

 藤枝市をはじめ志太榛原地域4市2町をホームタウンとするサッカーJリーグ3部の藤枝MYFCは、今季2位の戦績でJ2昇格を決めました。創立から14年目を迎えた2022年、悲願を達成しました。運動部・寺田拓馬記者の記事で大躍進の背景と今後に向けた課題をまとめました。

創立14年目 悲願のJ2へ

 サッカーJリーグ3部(J3)は11月20日、最終節を行い、藤枝MYFCが2位でJ2昇格を決めた。

藤枝―長野 前半、試合後にJ2昇格を決めて喜ぶ藤枝イレブン=20日午後、長野市の長野Uスタジアム(写真部・宮崎隆男)
藤枝―長野 前半、試合後にJ2昇格を決めて喜ぶ藤枝イレブン=20日午後、長野市の長野Uスタジアム(写真部・宮崎隆男)
 藤枝は長野市の長野Uスタジアムで行われた最終節でAC長野パルセイロと0-0で引き分け、今季20勝7分け7敗で自動昇格圏の2位となった。藤枝市をはじめ志太榛原地域4市2町がホームタウンの藤枝は2009年創立で静岡県1部リーグからスタートし、14年目で悲願のJ2昇格を実現させた。

超攻撃的サッカー貫く
 超攻撃的サッカーを貫き、藤枝がJ2昇格を果たした。「90分間、相手陣で攻撃し続けるのが理想」。就任2年目の須藤大輔監督(45)が選手に求めたのは、J3で勝つだけでなく新しいサッカースタイルだった。
 序盤の第6節までは2勝1分け3敗。理想と現実に隔たりがあるように見えたが、6月下旬から6連勝、さらに9、10月は11戦負けなし。勝利を重ねながら、戦う集団として力強さを増していった。
 決してエリートではない“ダイヤの原石”の長所を伸ばし、横山暁之(25)が13得点、久保藤次郎(23)も10得点と才能を開花。J1経験がある鈴木惇らベテランも役割を果たし、チーム一丸で最後までもつれた昇格争いを勝ち上がった。
 J1だった清水と磐田の降格が決まり、来季は県内3クラブがJ2でしのぎを削ることになる。「サッカーの街から魅力を発信し、今の序列を崩したい」。熱い指揮官の下で成長を続ける藤枝の挑戦に期待が集まる。
 〈2022.11.21 あなたの静岡新聞〉

選手の長所、最大限生かす 「須藤流」攻撃戦術が浸透

 「誰もやったことのない超攻撃的サッカーを藤枝発で具現化したい」。就任2年目の須藤監督はハイプレス、ハイラインを掲げ、ぶれずにタクトを振り続けた。

高い理想を掲げ、選手を鼓舞しながらチームをJ2に導いた藤枝の須藤監督=11月中旬、藤枝総合運動公園サッカー場(写真部・杉山英一)
高い理想を掲げ、選手を鼓舞しながらチームをJ2に導いた藤枝の須藤監督=11月中旬、藤枝総合運動公園サッカー場(写真部・杉山英一)
 シーズン途中に就任した昨季は10位どまり、今季も序盤は試合ごとに出来不出来の差が大きかった。ポイントになったのは6月中旬に喫した連敗。最後まで昇格を争った松本、今治に続けて敗れたが、ここで自分たちのスタイルをあきらめず、何が通用し、何が足りないのか、指揮官と選手は一緒に考えた。
 原点を見つめ直したチームは前線からのプレスの連動性が高まり、6月下旬からクラブ記録の6連勝。さらに9、10月は11戦負けなしと上昇気流に乗った。杉田主将は「J3で勝ち抜くためだけのサッカーじゃない。先を見据え、高い次元を目指してきた」と振り返る。
 選手の長所を最大限生かすのが須藤流。J1でストライカーとして活躍した経歴を持つ指揮官は「選手目線でそれぞれが得意なプレーを出せる環境をつくることがまず大事。その上で、チームで最低限必要な役割を求めている」と説明する。
 正確なキックが武器のGK内山は“プラスワン”としてDF、ボランチと一緒に攻撃の組み立てに加わる。1年目の守護神は「加入時に『シュートは止められないけど、足元には自信がある』と強化部に伝えた」と笑う。特徴的なGKをチーム戦術に適合させ、失点は優勝したいわきに次ぐリーグ2位の少なさ。チームとともにレベルアップした内山はGKとしては珍しく、9月にJ3月間MVPに輝いた。
 「激しい攻撃と組織的な守備」。須藤監督が追い求める理想はクラブの総意になっている。須藤監督と強化部、経営陣で議論してクラブ理念を書き換えた。「サッカーの街・藤枝のチームが志向するのは最先端じゃなく、その先の新しいサッカー。今後、監督が替わってもクラブの信念は揺るがない」。熱い指揮官は藤枝の将来に思いをはせる。

原動力は「ダイヤの原石」 若手成長、ベテランも融合

 超攻撃的サッカーを掲げる藤枝が今季躍進した原動力は、須藤監督が「ダイヤの原石」と呼ぶ、決してエリートではない若手選手の成長だった。

チーム最多の13得点を挙げ、3年目で才能を開花させた藤枝の横山=11月中旬、藤枝総合運動公園サッカー場(写真部・杉山英一)
チーム最多の13得点を挙げ、3年目で才能を開花させた藤枝の横山=11月中旬、藤枝総合運動公園サッカー場(写真部・杉山英一)
 レギュラークラスでJ1経験があるのはボランチの鈴木惇だけ。以前は実績のあるベテラン中心のチームだったが、須藤監督就任後、DFラインを高く保って前線からプレスを掛けるスタイルを実現するため、大胆に若返りを図った。
 才能を開花させたのは大卒3年目の横山。去年まで無得点だったが、ゴール嗅覚を覚醒させ、今季一気に13得点。開幕当初は「攻守のつなぎ役」を自認していたが、今は「J2に行っても屈指のシャドーストライカーになりたい」と頼もしい。
 大卒新人もブレーク。攻守に運動量を求められる左右のウイングバックで久保と榎本は、シーズン前半から定位置をつかんだ。切れ味鋭いドリブル突破で久保は10得点、榎本も4得点とチームに欠かせない存在になった。
 大卒新人の加入は、昨年は久保、榎本ら4人で、今年も3人が内定した。強化部の大迫希氏(31)は「うちは目指すサッカーが明確で、選手を大事に考え、チームと一緒に成長しようと熱意を示している」と説明する。資金力は豊富ではないものの、若手の活躍が好成績を呼び、それがまた新人獲得につながり好循環が生まれている。
 一方、チームを支えたベテランの力も大きかった。昇格への重圧がのしかかった最終盤、指揮官がベンチメンバーに選んだのは30歳を超えるFW大石、DF久富ら。練習で激しくスタメンを争い、試合でも声を出してチームを鼓舞してきた選手だった。大迫氏は「自分自身のため、チームのために全力を出せる選手がそろい、全員で戦った結果が実を結んだ」と振り返る。
 来季J2は清水、磐田と県内3チームがしのぎを削る。藤枝で引退した元選手の大迫氏は「目指す目標が近くにある。県内のトップチームになり、新しい歴史をつくりたい」と意欲を燃やす。

⚽台風で深めたクラブ愛 育成と運営、地域根差して

 静岡県内に甚大な被害をもたらした9月下旬の台風15号で、藤枝の本拠地・藤枝総合運動公園サッカー場も大きな痛手を受けた。「インフラ系がすべて駄目。普通に考えたら試合開催は不可能だった」。徳田航介社長(37)は被災を目の当たりにした時の心境を述懐する。

J2昇格を決め、サポーターと喜びを分かち合う藤枝イレブン=20日、長野市の長野Uスタジアム(写真部・宮崎隆男)
J2昇格を決め、サポーターと喜びを分かち合う藤枝イレブン=20日、長野市の長野Uスタジアム(写真部・宮崎隆男)
 チームは昇格争いの真っただ中で、ライバル松本との大一番が控えていた。窮地を救ったのは地元の支援だった。破損した電源の代わりに建設会社などから借り受けた多数の小型発電機を並べ、ガソリンをつぎ足しながら試合を運営。感謝の思いを胸にチームはホームで連勝し、昇格に大きく前進した。
 藤枝のホームタウンは藤枝市をはじめとする志太榛原地域の4市2町。清水と磐田に挟まれた後発クラブは地元に浸透を図ろうと、努力を続ける。「小学校訪問や地域イベントなどホームタウン市町の協力要請は基本的にすべて引き受け、選手には地元の応援があってこそサッカーができると伝えている」と徳田社長は説明する。
 選手育成も中長期的視野で取り組み、アカデミーにJ1で活躍したクラブOBの谷沢達也氏(38)と枝村匠馬氏(36)をコーチとして迎えた。サッカーの街では既に県内で強豪の藤枝東高と藤枝明誠高が中学生を受け入れるチームを設置するが、強化部の大迫希氏(31)は「藤枝の超攻撃的サッカーをユースにも浸透させ、少しでも早くトップ昇格できる選手を育てたい」と意気込む。
 本拠地は台風被害と別にバックスタンドを改修している。完工は2023年12月までの予定でJ2の1年目には間に合わない。上のカテゴリーで観客数が増えると駐車場が足りず、徳田社長は「喫緊の課題」と来季の試合運営に頭を悩ます。
 資金力も2021年度の決算を比較するとJ3下位で、スポンサー収入の増強など営業収益をどう上げるか、課題は山積する。創立14年目でつかんだJ2昇格。徳田社長は「ここがスタートライン。地域から愛され、街づくりに貢献するクラブという原点を忘れず、歩みを進めたい」と決意を新たにする。
地域再生大賞