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61年前のメロディオン初号機発見 鈴木楽器製作所の歩み

 浜松市中区の教育楽器メーカー鈴木楽器製作所が8月から探していた国内初メロディオンの初号機「スーパー34」がこのほど見つかり、同社に届けられました。初号機発見までの経緯と2023年に創立70周年を迎える同社の歩みをまとめました。

子会社で見つかる ユニバース精機(磐田市)社員が勤務先に寄贈

 教育楽器メーカーの鈴木楽器製作所(浜松市中区)は24日、自社製品でありながら社内に保管品がないことが判明し、8月から探していた国内初の鍵盤ハーモニカ「メロディオン」の初号機「スーパー34」を発見したことを明らかにした。子会社のユニバース精機(磐田市)の社内で見つかり、このほど鈴木楽器に届けられた。

このほど発見されたメロディオン初号機のスーパー34=浜松市中区の鈴木楽器製作所
このほど発見されたメロディオン初号機のスーパー34=浜松市中区の鈴木楽器製作所
 発見されたスーパー34は元々、ユニバース精機社員だった浜松市在住の男性(74)の所有。男性の父親と旧知の仲だった鈴木楽器創業者の故鈴木萬司さんから贈られたという。男性は約20年前、「自宅よりも会社で保管した方がいい」と当時勤務先のユニバース精機に寄贈していた。
 男性は16歳で鈴木楽器に入社し、スーパー34の木製部品の加工を担当していた。男性の証言から、スーパー34の製造期間は1961年から5年間だったことも分かった。
 ユニバース精機社内の棚に約20年間置かれていたスーパー34は、マウスピースの一部がなく、出ない音もあるが、楽器やケースの状態は良好だった。創立70周年の2023年2月をめどに、鈴木楽器製作所本社で展示予定。同社は「管理体制を整え、厳重に保管する」と話している。(浜松総局・大山雄一郎)
〈2022.11.25 あなたの静岡新聞〉

保管品なく 創立70周年向け保有者に呼び掛け

 教育楽器メーカーの鈴木楽器製作所(浜松市中区)が、1961年から製造し、発売した鍵盤ハーモニカのメロディオン初号機「スーパー34」を探している。創立70周年を迎える2023年に向け、記念展示したい考えだが、社内に保管品がないことが判明したため、寄贈に応じてくれる保有者を募ることになった。

鈴木楽器製作所のメロディオン初号機「スーパー34」
鈴木楽器製作所のメロディオン初号機「スーパー34」
 スーパー34は赤いサイドカバーが特徴で、ケースは黒。サイズは長さ約45センチ、奥行き約10センチ。同社によると、1971年ごろまで製造していたことから、57~73歳になった人が当時、幼稚園や小学校などで使用していたと考えられるという。 メロディオンは誕生以来、約60モデルを開発するなどした同社を代表する製品。試験販売や地域、学校限定を含めると、80モデル以上になるロングセラー商品という。同社の公式サイトに特設ページを開設し、寄付の募集や情報を集めている。(浜松総局・大山雄一郎)
〈2022.8.7 あなたの静岡新聞〉
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教育用楽器を手掛ける鈴木楽器の工場。鍵盤ハーモニカ「メロディオン」は時代の流れに沿って新機種を開発してきた(2011年4月4日静岡新聞朝刊より)

メロディオン 創業者の故鈴木萬司さんが国内で初めて製造

教育楽器の普及に人生をささげた故鈴木萬司氏
教育楽器の普及に人生をささげた故鈴木萬司氏
 ※2020年10月7日 静岡新聞朝刊より
 教育楽器などを手掛ける鈴木楽器製作所(浜松市中区)が、コロナ禍で需要が高まったハーモニカの普及活動を強化している。専用楽譜本を発売し、無料オンライン講座を続けるなど入門者にも魅力を積極発信する。教育楽器普及に人生をささげた創業者が8月に他界し、会社としての変動期を迎える中、今月中旬には完成した新社屋で業務をスタートし、新たな一歩を踏み出す。
  創業者の故鈴木萬司会長=享年(97)=が1961年に製造した国内初とされる鍵盤ハーモニカ「メロディオン」とともに、ハーモニカ製造に力を注ぐ同社。コロナ禍の巣ごもり加速から、自宅内で1人でも小音量で楽しめ、手頃な価格帯も魅力のハーモニカに挑む子どもや40~50代が急増した。販売も1・5倍近くに増え、童謡や唱歌、ジャズ、国内外ポップスなど計45曲を掲載したクロマチックハーモニカの楽譜本を今月2日に発売した。
  編著は元社員の山口牧さんで、通常の五線譜に加えてハーモニカ特有の「穴番号」を記し、初心者の練習に最適な一冊に仕上げた。2年間で累計6千部が売れた第1弾「ブルースハーモニカ」を超える売り上げを目指す。
 
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新発売のハーモニカ楽譜本などを手に、今後の普及策に知恵を絞る鈴木楽器製作所の担当社員=浜松市中区領家

  一方、同社が7月から続けるハーモニカやメロディオンのオンラインセミナーの参加者は毎回定員を超え、新楽譜本の発売記念も10日に開く。遠隔演奏の姿や奏でた音は自分以外に届かないように設定するなど、自由な形で気軽に参加できる配慮が人気の秘けつだ。
  ハーモニカの人気再燃に、企画課の坂本佐智子課長代理は「創業者も喜んでいるはず」と想像しながら、現本社の隣接地に建てた新社屋で社員が元気に働く姿を「ひと目見てほしかった」と話す。
  例年であれば、本社前の工場には9~11月を中心に年間3千人ほどの児童が見学に訪れるが、今年は受け入れていない。「静かな秋」を迎えた社員や職人たちが、教育楽器のさらなる普及に向け、今日も知恵を絞る。(荻島浩太)
※肩書き、年齢は当時のままです

教育用楽器ほかにも 吹奏鍵盤笛「アンデス25」とは

それぞれの鍵盤に笛が付いた教育用楽器「アンデス25」
それぞれの鍵盤に笛が付いた教育用楽器「アンデス25」
※2011年4月4日 静岡新聞朝刊 しずおか「音楽の現場」より
 息を吹き込み、鍵盤を弾く。ただそれだけで音は鳴るのに、息のかすかな強弱で音程が変わる。ピッチ調節の難しさからか、鈴木楽器製作所(浜松市中区)が教育用楽器として生み出した吹奏鍵盤笛「アンデス25」は、1984年の開発から数年で生産を打ち切られた。
  音色はリコーダーに似て柔らか。カバーを開けると、25個の鍵盤一つ一つに笛が内蔵され、小さなパイプオルガンを想起させる。鍵盤ハーモニカに押されて教育現場から遠のいたが、不安定な音程に魅せられた音楽家たちの手に渡った。楽器の特性を生かした曲が話題を呼び、2007年の復刻に結び付いた。
 ブームの火つけ役は、リコーダーやウクレレを使った楽曲を手掛けるグループ「栗コーダーカルテット」。映画「スター・ウォーズ」のテーマ曲「帝国のマーチ(ダースベイダーのテーマ)」を、アンデスとウクレレで演奏した。重厚な原曲から一転、脱力を誘うとぼけた音色が脚光を浴びた。
  人気に目を付けたのが、当時鈴木楽器のリコーダー営業や製作を担当した徳永隆二さん(53)。ネット上に沸き上がった復刻希望の声も追い風になった。浜松市内の飲食店で行われたライブを見に行き、メンバーに復刻の話を持ちかけた。
  “お蔵入り”から20年余。プラスチック部分を成形するための金型は、すでに「廃棄処分」のシールが貼られた段ボールの中にあった。さびを磨き落として、再び息を吹き込む。開発当時の技術者がまだ会社に勤めていたことが幸いして、半年で再販売にこぎつけた。
  復刻版「アンデス25F」は、クリームがかった黄緑色。音が広がりすぎないように鍵盤の跳ね返りを小さくして、なめらかなタッチに改良した。
 栗コーダーカルテットでアンデスも担当する栗原正己さんは、「音の微妙なズレが魅力的」と明かす。「ただ音程が外れているのではなく、正しい音程を目指しているのに届いたり届かなかったり。けなげで味わい深い」
  アンデスとの出会いは1995年、ミュージカル「銀河鉄道の夜」。和音を奏でる笛に驚いた。楽器店を渡り歩いても見つからなかったが、親交のあった古楽器アンサンブル「ロバの音楽座」から偶然譲り受けた。
  教育用楽器として生まれたアンデスに、栗原さんは新たな音楽を創造する力を見いだす。「ウクレレなど他の楽器との取り合わせも面白い」。今やグループの音づくりに欠かせない存在感を放っている。
 少子化時代を迎え、教育用楽器も岐路に立つ。年間1500~2000台を生産する復刻版のターゲットは大人たちだ。カバーの限定色を発売して、遊び心をくすぐる。
  子供用だと侮るなかれ、教育用楽器の代表格として知られるリコーダーも、もとをたどればルネサンス期の花形楽器だった。フルートが生まれると、その座を譲ったものの、息長く演奏家に愛されてきた。
  リコーダーに長く親しむ徳永さんも、教育用楽器の可能性を指摘する。「音を出すのは簡単だけれど、芸術家の作品も多い。楽器の持つ奥深さを感じます」
※肩書き、年齢は当時のままです