台風被害に負けない 大井川鉄道の今
SLやトーマス号、アプト式の井川線で有名な大井川鉄道。10月の台風15号により、全線運休を余儀なくされています。そのような状況の中、12月に部分復旧しSLも週末に運転することが決まりました。被害を逆手に取ったイベントも企画。台風に負けない、大井川鉄道の現状をまとめました。
12月に部分復旧 SLも週末運転へ きかんしゃトーマス号も
大井川鉄道(本社・島田市)は14日、台風15号の被害により全線運休している大井川本線について、12月16日から金谷―家山間(17・1キロ)を部分開通すると発表した。約1年ぶりに蒸気機関車(SL)「かわね路号」も登場する。
16日は「きかんしゃトーマス号」の運転も開始する。週末を中心に来年1月9日まで。新金谷―家山間の折り返し運転で1日2便。
大鉄は採石場跡地からの土砂流入や国道473号の崩落で大きな被害を受けた。静岡県島田土木事務所によると、線路上の土砂の撤去が終了し、今後、線路沿いに仮設の防護柵を設置する。
〈2022.11.15 あなたの静岡新聞〉
線路に土砂流入 夢の吊り橋遊歩道も崩落 台風15号被害
台風15号の爪痕が大井川流域の観光業に影を落としている。大井川鉄道神尾-福用間などの線路に土砂が流入した影響で、同鉄道は2日(※10月)現在、全線が運休している。復旧の見通しは立たず、本線終点の千頭駅(川根本町)は週末も閑散とした状況が続く。同町の観光名所「夢のつり橋」に続く道も崩落し、寸又峡温泉の集客に影響が出始めた。観光事業者からは「紅葉シーズンを前に大きな痛手だ」と悲痛な声が上がる。
温泉街周辺は11月にかけて紅葉が見頃を迎える。観光事業者にとって書き入れ時だが、旅館「翠紅苑」は8~10日の3連休の予約件数が連日1桁台、11月末までの予約もキャンセルが相次いだ。同館の望月孝之さん(76)は「10、11月の収益は年間の30%以上。このままでは例年の半分以下になる」と厳しい表情を見せる。
寸又峡温泉では源泉や宿泊施設に大きな被害はなく、全施設が営業を続けている。望月さんは「泉質に問題はない。温泉街一体となってお客さまを迎え入れる準備はできている」と力を込めた。
発災から2週目を迎えた千頭駅。例年、この時期は家族連れらでにぎわうが、この週末は昼時も人出はまばら。駅前で運営する「カフェうえまる」店長の山本敦子さん(41)は「鉄道が動かない限り集客は大変かな…」と言葉少な。通常の週末は満車の駅前駐車場も空きが目立った。
〈2022.10.3 あなたの静岡新聞〉
列車運休を逆手に 撮影や運転体験会を実施
台風15号による被害で本線全線が運休中の大井川鉄道(本社・島田市)が12日から12月上旬にかけ、電車や電気機関車(EL)の撮影会や乗車体験会を企画した。19日は車両整備工場見学や鉄道部品など“お宝”販売のイベントを開く。同社の担当者は「電車が走らない今こそできることで、新金谷駅を盛り上げたい」と話している。
運転体験は新金谷駅構内の側線を使用し、運転士のアドバイスを受けながら電車や電気機関車を運転できる。計4日間の予約はほぼ埋まっている。
19日のイベントでは鉄道部品やヘッドマーク、看板類などの鉄道古物を販売する。SL復活に向け実施中のクラウドファンディングもPRし、支援者に缶バッジをプレゼントする。午前9時から午後4時まで。
大井川本線は採石場跡地からの土砂流入などで大きな被害を受けた。12月の金谷-家山間の部分開通を目指して線路の復旧作業を進めている。
〈2022.11.11 あなたの静岡新聞〉
コロナに続く災害 大井川鉄道の今後は 鈴木肇社長インタビュー
9月の台風15号により大きな被害を受け、現在も本線の運休が続く。12月の金谷-家山間の運転再開と「きかんしゃトーマス号」運転に向け復旧工事を急ぐが、全線開通のめどは立っていない。新型コロナウイルスの影響による観光事業の落ち込みに続く災害で、長期的な影響が懸念される。
「本線で20カ所、井川線で26カ所と過去にない大きな被害を受けた。井川線は22日に全線開通したが、本線は採石場跡地からの大量の土砂で埋まった神尾-福用間をはじめ、影響が大きい。収入が絶たれる中、まずは全線にこだわらず鉄道を動かすことが最優先だ。家山駅までのトーマス号運転は以前も経験していて、十分収入が見込める。千頭までの開通も急ぎたいが、本来行ってきた自力での対応は難しく公的支援を求めたい」
―年間70万人前後で推移してきた旅客数は新型コロナの影響で半減した。
「全国からの観光旅客受け入れによる収入で地域輸送の赤字を補塡(ほてん)しているため、大きな打撃となった。2020、21年度と赤字が続いて体力が落ちている中、紅葉シーズンを失うのは痛手。鉄道インフラの維持更新が企業単体では難しくなり、鉄道事業の存廃に関わる問題として捉えている」
―どのような支援が必要か。
「全国のローカル鉄道では急速にバス路線化が進んでいる。地域輸送だけを考えれば大鉄もバスで代替可能だが、大井川流域の観光面で鉄道は不可欠だ。一方、観光事業に対する公的支援の仕組みはなく、災害前から続く問題が顕在化した。国や県、市町など関係機関と連携し、抜本的な対策につなげたい」
―25年の創立100周年に向けたプロジェクトへの影響は。
「蒸気機関車(SL)C56形135号機の動態化など、全事業を予定通り進めたい。11月30日まで実施中のクラウドファンディングでは、支援とともに災害復旧に向けたメッセージを大勢の方からいただいている。環境は厳しいが、将来にわたって鉄道を残すという夢は捨てていない」
すずき・はじめ 1986年入社。取締役管理部長、専務取締役などを経て2017年10月から代表取締役社長。静岡市出身。60歳。