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小山・観光バス横転 事故の惨状明らかに

 小山町須走の県道で13日、観光バスが横転する事故が発生しました。乗客の70代女性が死亡、35人が重軽傷を負う惨事でした。警察の捜査などによって、当時の状況が少しずつ分かってきました。現段階で分かっていることを1ページにまとめました。

逮捕の運転手「ブレーキ利かない」 フェード現象の可能性

 13日午前11時50分ごろ、小山町須走の県道足柄停車場富士公園線(通称・ふじあざみライン)で観光バスが横転した。バスには運転手と乗務員各1人、乗客34人の計36人が乗車。乗っていたツアー参加者の無職女性(74)=埼玉県入間市東町5丁目=が死亡し、残る35人全員が重軽傷を負った。御殿場署は自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで、バス運転手の埼玉県飯能市の男(26)を現行犯逮捕した。

観光バスが横転した事故現場=13日午後1時39分、小山町須走(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
観光バスが横転した事故現場=13日午後1時39分、小山町須走(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 同署によると、容疑者は「事故を起こしたのは間違いない」と容疑を認めている。バスは下り坂のカーブを過ぎた後、県道左側ののり面に乗り上げ、道路をふさぐ形で右側を下に横転したとみられる。亡くなった女性はバス右側の座席に乗っていたという。
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レッカー車で運ばれる横転した観光バス=13日午後6時ごろ、小山町須走

 ツアーを主催した大手旅行会社(東京)と運行会社(飯能市)によると、容疑者が事故直前に「ブレーキが利かない」と話すのを乗務員が聞いたという。ふじあざみラインは富士山麓の県道で、勾配のあるつづら折りのカーブが続いている。捜査関係者によると、長い下り坂でブレーキが利かなくなる「フェード現象」が起きた可能性もあるとみられている。運行前の点検ではバスに異常はなかった。
 国土交通省は特別重要調査の対象に当たると判断。国交省の要請を受けた事業用自動車事故調査委員会が同日、調査を始めた。関東運輸局は運行会社の営業所を特別監査した。
 バスは静岡県東部を巡る日帰りツアーで、政府の観光振興策「全国旅行支援」の補助対象。同日午前7時半ごろに埼玉県狭山市を出発し、富士山須走口5合目を訪れた後、昼食のため沼津市に向かう途中だった。乗客は40~70代の男性6人と30~90代の女性28人。
 〈2022.10.14 あなたの静岡新聞〉

中央線越え100メートル高速走行 横転直前、制御不能になったか

 小山町須走の県道で13日に観光バスが横転して乗客の女性が死亡した事故で、バスは横転現場手前の直線道路100メートル以上を、中央線からはみ出すなどしながら高速で走行し続けていたとみられることが14日、関係者への取材で分かった。御殿場署に自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで現行犯逮捕されたバス運転手の男(26)=埼玉県飯能市美杉台5丁目=が制御不能を回避できないまま、その後のカーブを曲がりきれずにのり面に乗り上げて横転した可能性がある。

 カーブ直後の横転現場付近で確認された事故車両によるものとみられるタイヤ痕は、加速した状態で曲がり、車両が横滑り状態になったために残った可能性がある。関係者によると、容疑者が制御のためサイドブレーキをかけたとの情報もあり、タイヤ痕との関係性を慎重に調べる。
 県警は主な原因について、長い下り坂でフットブレーキを多用したことにより、大型バスや大型トラックに使われる「エアブレーキ」の空気圧などが低下し、ブレーキの利きが悪くなった可能性もあるとみている。今後、車両の検証などを通じて究明する。
 県警は14日、バス運行会社「美杉観光バス」(飯能市)の本社社屋とバス置き場を約3時間半にわたり家宅捜索。バスに搭載されていたドライブレコーダーの映像記録などを含め、数箱分の資料を押収した。
 〈2022.10.15 あなたの静岡新聞〉

現場「二度と見たくない惨事」 救助隊員振り返る

 地面に打ち付けられた窓ガラスは割れて散乱し、大破した前輪付近から軽油が漏れた。顔から血を流したり、手の痛みを訴えたりしながら搬送を待つ人。小山町須走の県道で観光バスが横転して乗客の女性が死亡し、20人が重軽傷を負った13日の事故。現場で活動したベテラン消防隊員が14日、取材に応じ、「二度と見たくない、ひどい現場。経験した中で一、二を争う惨事だった」と語った。

横転事故でフロントガラスなど前部が大破した観光バス=13日午後2時、小山町須走(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
横転事故でフロントガラスなど前部が大破した観光バス=13日午後2時、小山町須走(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 「バス横転、要救助者多数」。警察からの一報を受け、重大事案を意味する「非常救急」として出動指令が出された。「重症者はどれくらいか」。不安を抱えながら現場に急行した。
 発生から約30分後に到着。先着隊が活動中で、既に多くの乗客らが車外に脱出していたが、乗客2人は体が何かに挟まれた状態で車内にとどまっていた。車外に出た人は症状の度合いに応じ、決められた場所で搬送を待った。毛布にくるまり、テントに入って寒さをしのいでいた。軽症者は互いを気遣う様子も見られ「パニックにはなっていなかった」。一方、車内の2人の救出は困難で時間を要した。狭い車内は作業がしにくいうえ、引火の懸念から火花を散らす機材が使えなかったからだ。
 現場の「ふじあざみライン」はハイキングなどに向かう際に利用している。死亡した女性を思い「旅行を楽しんでいる最中に亡くなるとは気の毒」と言葉を詰まらせた。
 〈2022.10.15 あなたの静岡新聞〉

事故原因、運転手の勤務実態は 運行会社を家宅捜索

 小山町須走の県道での観光バス横転事故で、静岡県警は14日、自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで、埼玉県飯能市のバス運行会社を家宅捜索した。バスの運行状況や整備環境、運転手の勤務実態などを調べる。

バス運行会社の家宅捜索に入る県警の捜査員ら=14日午前9時ごろ、埼玉県飯能市
バス運行会社の家宅捜索に入る県警の捜査員ら=14日午前9時ごろ、埼玉県飯能市
 県警の捜査車両が午前9時ごろ、本社社屋とバス置き場に到着。捜査員約20人が捜索を始めた。
 御殿場署は13日、同社に所属する運転手を自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで現行犯逮捕している。
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美杉観光バスから資料を押収する県警の捜査員=14日午後0時半ごろ、埼玉県飯能市

 観光ツアーを主催した旅行会社によると、運転手が横転直前に「ブレーキが利かない」と言うのを乗務員が聞いた。バス運行会社によると、事故当日の点検でバスに異常はなく、運転手も健康チェックで問題はなかったという。
 〈2022.10.14 あなたの静岡新聞〉