読書の秋 ブックフェスタしずおか見どころは
9月下旬にさしかかり、秋の気配も感じるようになりました。秋といえば「読書の秋」という方も多いのではないでしょうか。静岡県内で10月、書店と図書館が連携して「ブックフェスタしずおか」が開催されます。見どころや主催者の思いをまとめました。読書好きのみなさん、必見です。
〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 石岡美来〉
書店と図書館 異例の連携 本であふれる1カ月
「出版不況」と言われる中、静岡県内の書店、図書館が異例の連携態勢を構築し、本の価値、楽しさを再発見するイベントを10月、県内各地で初開催する。

2020年3月開業の私設図書館「みんなの図書館さんかく」を運営する一般社団法人トリナス(焼津市)の土肥潤也代表(27)が主導する。「紙の本は他の人とシェアすることで新しい価値が付与される」という気付きがあったという。「グランシップ、26年度完成予定の新県立中央図書館が立地するJR東静岡駅前を『本のまち』としてイメージ付けたい」と開催意図を語る。
土肥さんとともに尽力する同図書館企画振興課の杉本啓輔主任(30)は「静岡は全国でも珍しい図書館と書店の関係が良好な地域」と背景に言及。コロナ禍後に各地でささやかれるコミュニティーの分断を「本が媒介となって復興できる」と強調する。図書館と書店が手に手を取り合って実施する「ブックフェスタ」はその端緒になり得るという。
10月の1カ月間、県内各地の書店や図書館、文学館などで「ブックフェスタしずおか」の看板を掲げて作家や文学、書籍を活用した多彩な催しが行われる。28~30日に焼津市のカフェで文芸同人誌展示即売会「静岡文学マルシェ」を開く添嶋譲代表(51)は「参加者には『本や文学が好き』という共通項がある。自分の『好き』と誰かの『好き』が交わり、それぞれの世界が広がるといい」と期待を込める。
■マルシェやトーク 多彩に
22日のグランシップでの企画は、午前10時半から4部構成のトークセッションを行う。「本の磁力はなにを繫げ、なにを変えていくのか」「本のある場所が社会的処方の拠点になる。ケアする図書館の可能性」などのテーマを掲げ、県内外から専門家12人が集う。入場料は、後日発行する記念誌代込みで1800円。
同日にグランシップ芝生広場で行うマルシェには、古本の販売、読み聞かせ、ブックカバー作成など、本にまつわる40~50ブースがそろう。
9日に磐田市の「ひと・ほんの庭にこっと」、16日に沼津市の「みんなの図書館さんかく沼津」、29日に県立中央図書館で、それぞれ書店員や作家、大学教員を招いた講演会も実施する。
全ての問い合わせはブックフェスタ事務局<電070(8424)6182>へ。
主催の土肥さん 本を通してまちづくり 人口減解消にも挑む

焼津市の焼津駅前通り商店街の空き店舗を借り、私設図書館「みんなの図書館さんかく」を2020年3月から運営する。人口減少の進展に伴い、公共サービスの縮小が危惧される中、民間の力で公共空間をつくり、補おうという新しい試み。県内外で取り組みが広がっている。
-「さんかく」の概要は。
「所蔵図書は約2300冊。登録料300円で図書カードを作れば、それ以降は無料で本を借りることができ、一般的な図書館と変わらない。大きな特徴として『一箱本棚オーナー制度』がある。月額2千円で本棚を借り、自分の好きな本を置いてプロデュースできる。用意した46箱中、現在43箱が埋まり、好評だ。主にこの本棚収入で黒字経営を維持している」
-始めた理由は。
「人口減少が進めば自治体の税収も減り、維持するのが難しい公共施設が出てくるだろう。公共施設が地域コミュニティーの受け皿を担う例も多く、なくなるのは住民にとっても損失。その空白を市民の営みで埋められないかと考えた」
-他地域の広がりは。
「さんかくを参考に、同様の私設図書館が石川県加賀市や兵庫県豊岡市に開館した。JR沼津駅前にある沼津信用金庫のまちづくり支援施設『ぬましんCOMPASS(コンパス)』に、さんかく自体の出店も決まり、4月の開館に向けて準備している。県内外のまちづくり団体などから計50人ほどの視察があり、価値観に共感してもらっている」
-本棚オーナー制度が好調な理由をどう見るか。
「自分のことを表現したい、共感を得たいという欲求に刺さっているのでは。機械的な冷たさが漂うSNSでのコミュニケーションに疲れ、アナログの温かさを求めている面もあるだろう。実際、本棚をきっかけに人がつながり、新たな事業やコミュニケーションが次々と生まれている」
-今後の目標は。
「本で人と人をつなぎ、まちづくりに貢献する人材として『まちの図書委員』を養成したい。3年以内に私設公民館をつくることも公言している。市民が行政になんでも頼る『お客さま』から脱却し、主体的にまちづくりに参画する社会を実現したい。市民が主人公のまちになれば、まちは変わる」
どひ・じゅんや 一般社団法人トリナス、NPO法人わかもののまち代表理事。「さんかく」の取り組みで2020年「マニフェスト大賞」優秀賞受賞。県立大卒、早稲田大大学院修士課程修了。焼津市出身。25歳。
コロナ禍の読書習慣 変化はありましたか?

読書の秋です。新型コロナウイルス感染症の影響で在宅時間が増え、読書が進んでいる方もいるでしょうか。こちら女性編集室が実施したアンケート「本の読み方、変わりましたか?」から、皆さんの最近の読書事情を紹介します。
■本の購入 ネットが浸透
ここ半年ほどで「読書時間が増えた」としたのは、回答者68人中12人。「コロナで外出機会が減ったから」(浜松市浜北区、52歳女性)などと新型コロナを理由に挙げる人が目立った。「変わらない」とした36人の中にも「休校期間中はたくさん読んだ」(藤枝市、17歳女性)など影響に触れる回答があった。
一方で「読書時間が減った」としたのは20人。理由には「SNSを読むため読書の時間が取れない」(静岡市葵区、58歳女性)、「ネットでコラムなどを拾って読むことが増えた」(静岡市清水区、43歳女性)など、生活習慣の変化が挙がった。出産や子育てのほか、祖父母世代では「孫育て」に忙しいためとの回答もあった。
利用する本の形態は「紙の本」派が大多数で、「紙の本と電子書籍が同じくらい」と「電子書籍が多い」は合わせて9人と限定的だった。主な購入先は「地域の書店・古書店」が53人(複数回答)と最多だが、うち半数以上はインターネットでも購入するとした。「漫画や雑誌は電子書籍、小説は紙」(静岡市駿河区、35歳女性)と使い分ける人もいた。
回答者の9割超が読書が「とても好き」「どちらかといえば好き」と答えた一方で、4分の1は「ほとんど本を読まない」と回答した。月当たりの読書量は「2~3冊」が21人と最多で、「月6冊以上」読むとした読書家も8人いた。回答者の9割超が読書を増やしたいと考えていた。
■新しい世界との出合い 書店がサポート
書店が減少する静岡市の中心街に9月、新刊書店「HiBARI(ひばり)BOOKS&COFFEE(ブックス・アンド・コーヒー)」を開いた太田原由明さん(51)にリアルな書店の意義を聞いた。

―インターネット書店が浸透している。
「ネットは確かに便利だけれど、自分が知っている本をピンポイントで買うだけではなかなか新しい世界に出合えない。読書は、同じ作家や影響を受けた作家など、自分の心に引っ掛かるものをたどって広がる。それにはやはり、手に取って中身を見られる場所が大事だと思う」
―小さな書店で、何を目指すか。
「本は世界の縮図。いろんなジャンルの面白い本をピックアップして、ぎゅっとまとめて紹介したい。大型の書店では決まった棚しか見なかったり、広すぎて疲れてしまったりすることもある。新しい本との効率的な出合いをサポートしたい」
―本を読む時間がないという人には。
「本は意識して時間をつくらないとなかなか読み進められない。何となくスマホを眺めて時間をつぶすなら、短い時間でも読書に充ててほしい。読書は受け身ではなく能動的な行為。好奇心が旺盛な人は読書量も多い」