知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

新鮮!安心! 陸上養殖「三保サーモン」の秘密

 静岡市清水区三保の陸上で養殖される「三保サーモン」はご存じですか? 地元小学生が養殖場を見学したという記事を見て気になり、特徴などについて過去の掲載記事などをもとにまとめてみました。まだまだ地元でもなかなかお目にかかれないレアなご当地サーモンです。調べながら、食べに行きたくなってしまいました。
 〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 松本直之〉

アニサキスフリー 30秒で分かる「三保サーモン」

 寄生虫アニサキスの心配がない「アニサキスフリー」のトラウトサーモン(ニジマス)。旧三保文化ランドの敷地内に整備した施設で、アニサキスが存在しない三保の地下海水をくみ上げて稚魚から養殖している。食中毒予防のための加熱や冷凍をせずに活魚のまま流通させることができる。地下海水は水温が一定で、出荷時期が限定されないことも特徴。事業主体の日建リース工業と、東海大、地元金融機関、市が連携して地域ブランド化を目指している。

日建リース工業が運営する「三保サーモン」の陸上養殖施設=2021年12月上旬、静岡市清水区三保
日建リース工業が運営する「三保サーモン」の陸上養殖施設=2021年12月上旬、静岡市清水区三保

養殖施設の位置(GoogleMap)

地下海水養殖の利点 もっと詳しく 専門家に聞く

 東海大海洋学部教授・秋山信彦氏 インタビュー

 寄生虫「アニサキス」による食中毒の心配がないトラウトサーモン(海水で養殖したニジマス)の陸上養殖事業が今秋(※2019年秋)、静岡市清水区三保で始まる。約20年間、三保半島特有の地下海水を活用した養殖技術の研究を重ねてきた成果を生かし、事業主体となる民間企業に技術協力する。


 -三保の地下海水の特徴は。
 「三保半島は安倍川の砂州のため、地下に小石の層(れき層)がある。れき層には駿河湾の海水が染み込んでいるため、三保では深さ23~48メートルの井戸を掘ると、海水をくみ上げることができる。れき層に入る水は、水温が外気温に左右されない深い場所の海水と考えられ、地下海水は一年中約18度を保つ。また、れき層を通過する過程で酸素がなくなり、寄生虫や病原菌がいなくなる。これほど好条件の海水が安定的にくみ上げられる場所はほかにない」
  -地下海水で陸上養殖する利点は。
 「低水温を好むニジマスは夏の海水面温度では生きられない。そのため、海面養殖では夏前に出荷が集中してしまう。しかし、三保の地下海水は水温が一定なので、出荷時期が限定されない。淡水の陸上養殖では一年中出荷することができるが、海水と淡水では成長速度が違う。500グラムの稚魚を2キロに成長させるのに、海水だと半年だが、淡水だと約1年半かかる。魚の味も異なり、淡水魚特有の臭みがなく身が締まった魚になる」
  -今後の課題は。
 「安定供給のためには、現在は購入している稚魚を自ら生産しなければならないと考えている。ニジマスと言ってもさまざまな系統があり、どの系統が三保の地下海水に最も適しているかはまだ分からない。事業と並行して研究を重ねたい。より適した系統を親にして稚魚を生産し、成長がいい個体同士を掛け合わせて最適化できればいい。前例がない養殖なので、これから多くの課題が出てくるはず。一つ一つ解決しながら進めていきたい」
  -今後の展望は。
 「地下海水のくみ上げについては、農業者から塩害を心配する声が上がっているが、適切にくみ上げ・排出が行われれば塩害は起こらない。本事業をきっかけに安全性が理解されれば、きっと陸上養殖に取り組む人が増える。三保で取れる地下海水は本当に珍しいので、うまく活用すれば地域経済の発展や静岡・三保のブランド力向上につながるかもしれない」

  あきやま・のぶひこ 日本大卒。東海大大学院海洋学研究科で水産学の博士号を取得。2012年から東海大海洋学部博物館館長、19年4月から海洋学部長に就任。57歳。

〈2019.6.28 静岡新聞朝刊〉

2020年秋から本格化 名物へ産官学連携を強化

三保サーモンを使った食品の前で写真に納まる産官学の各連携機関トップら=2021年12月17日午前、静岡市清水区
三保サーモンを使った食品の前で写真に納まる産官学の各連携機関トップら=2021年12月17日午前、静岡市清水区
 ※2021年12月18日 あなたの静岡新聞から
 静岡市の三保半島で陸上養殖する「三保サーモン」をご当地名物に育てるため、産官学の関係者らが17日、清水区のホテルで共同会見を開き、連携強化と販売促進策について発表した。外食チェーンを経営するコロワイドの野尻公平社長も出席、同日から期間限定で傘下の回転すし「かっぱ寿司」で販売を始めたことを発表した。
 三保サーモンは日建リース工業(東京都、関山正勝社長)が同市の補助を受けて2020年11月から養殖し、21年度に20トンの出荷を目指している。連携する産官学がいかに付加価値を付け「バリューチェーン」を強化するかが鍵となっている。
 関山社長は「漁業は捕った魚を単に加工するのではなく、日本文化を提供するサービス業にすべきだ。三保サーモンを第二のウナギにしたい」と訴えた。田辺信宏市長は「持続可能な開発目標(SDGs)で重要なのは各組織の連携だ。『しずまえ』の名物として世界に売り出したい」などとあいさつした。
 会見ではコロワイドグループが静岡市内のかっぱ寿司や吉田町の「にぎりの徳兵衛」など計5店舗で取り扱うことを発表した。市内の水産加工業者ふかくらは、同区の老舗酒蔵が製造する「臥龍梅」を使った酒かす漬けなどのセットを17日からふるさと納税の返礼品サイトにアップしたことを明かした。
 三保サーモンは清浄な地下海水を掛け流しで利用し、寄生虫を殺すため冷凍の必要がない。野尻社長は「世界の水産品の需給バランスは崩れ、価格が跳ね上がっている。陸上養殖は社会全体のためにも必要な取り組みになる」と述べた。
 ※肩書、内容はすべて当時
 

三保サーモンを学ぶ 小学生ら養殖場見学、試食も 静岡市清水区

 静岡銀行と静岡市、日建リース工業は10日、同市清水区三保の同社養殖場で、ご当地サーモンとして売り出し中の三保サーモンについて学ぶ「しずおかキッズアカデミー@三保」を開催した。参加者は三保サーモンを育む地下海水などの説明を受けたり、餌やりをしたりした。

いけすの中の三保サーモンに餌やりする子供たち=静岡市清水区三保の日建リース工業養殖場
いけすの中の三保サーモンに餌やりする子供たち=静岡市清水区三保の日建リース工業養殖場
 子供たちは三保松原の歴史や三保サーモンの特徴などについて解説を受けた後、地下海水を実際に触ったりなめてみたりした。担当者は「年間通じて18・5度で一定している清浄な地下海水を潤沢に採水できる場所は全国でも珍しい。まさに地域資源です」などと説明した。
 参加者はいけすを泳いでいる三保サーモンに餌やりもした。小曽根陸叶くん(9)は「初めて三保サーモンや三保の地形のことを知った。地下海水は無臭なのでびっくりした」と振り返った。最後には実際に三保サーモンを味わった。市内の小学4~6年生と家族20組が参加した。
 〈2022.9.11 あなたの静岡新聞〉