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どうなる改憲議論 参院選終え最新情勢は

 参院選では憲法改正に前向きな「改憲勢力」が非改選議席を含め3分の2以上を確保しました。岸田文雄首相は改正発議へ向け議論を進める考えですが、改憲勢力の各党間では個別の論点で溝があり、世論も改憲を優先課題とは捉えていないのが現状です。参院選を終え最新の情勢を整理します。
 〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 吉田直人〉

参院選 改憲勢力が3分の2以上を確保

 10日に投開票が行われた第26回参院選で、自民党は改選55議席を上回り、単独で改選過半数(63議席)を確保した。与党で70議席以上に達した。焦点の改選1人区は自民が28勝4敗と野党を圧倒。憲法改正に前向きな「改憲勢力」は国会発議に必要な3分の2以上の議席を維持した。

開票センターでテレビ局のインタビューに答える自民党総裁の岸田首相=10日午後、東京・永田町の党本部
開票センターでテレビ局のインタビューに答える自民党総裁の岸田首相=10日午後、東京・永田町の党本部
  与党は目標とした非改選(70議席)を含む定数248の過半数に達する55議席を大きく上回った。改憲勢力は自公両党と維新、国民の4党に改憲に前向きな無所属を含む。憲法改正論議に前向きな「改憲勢力」は、今回82議席以上を得て、非改選を合わせて170超の議席を確保した。国会発議に必要な総議員の3分の2のラインである166を上回った。
 9条への自衛隊明記と緊急事態条項新設に力点を置く自民党は、発議に向けた具体案作成へ議論進展を狙う。だが立憲民主党は「改憲は最優先課題ではない」と主張。改憲勢力の各党の間でも、個別の論点を巡り溝が存在する。公明党は「数合わせでない」とけん制を強める。与野党合意は見通せない。
  岸田文雄首相はテレビ番組で、9条への自衛隊明記を含む党改憲案4項目を巡り「現代的で喫緊の課題だ。それを中心に議論する」と強調した。国会発議を見据え「3分の2の勢力に賛同してもらえる部分から進める」とも述べた。
  茂木敏充幹事長も、できるだけ早期の発議を目指すと表明。優先項目などは改憲勢力の他党と認識の共有を図るとした。

※2022年7月11日静岡新聞朝刊を基に編集

静岡県民は改正容認が多数 意識調査

 日本国憲法は3日(※5月)、1947年の施行から75年を迎えた。静岡新聞社は2004年から県民を対象に、憲法に関する意識調査を継続している(16~18年は18、19歳に絞って実施)。憲法に関心があると答えた人の割合が近年、低下傾向が続いているが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて国民の意識がどう変わるか注目される。県内有識者からは「憲法改正を行うのであれば、国の将来の在り方を問う議論が不可欠」と指摘する声もある。

静岡新聞社「日本国憲法に関する意識調査」(2004~21年)の回答
静岡新聞社「日本国憲法に関する意識調査」(2004~21年)の回答
 日本の隣国ロシアがウクライナを侵攻し、国の防衛の在り方が改めて問われる中、日本国憲法の改正は今夏の参院選で争点の一つになる可能性がある。過去18年間の同調査では、憲法改正を容認する人の割合は66・8~81・5%と一貫して過半数を占め、直近3年間では70%台前半を維持している。
 一方、改憲論議の焦点であり、戦争の放棄や戦力の不保持をうたった憲法9条については、直近3年間で改正容認派と現状維持派がともに30%台で、拮抗(きっこう)する状況が続いている。
 岸田文雄首相(自民党総裁)は9条への自衛隊明記や緊急事態条項新設など党憲法改正案4項目の議論進展を狙う。自民、日本維新の会、公明、国民民主の4党は新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻を挙げて、緊急時に国会議員任期を延長する改憲の必要性を訴え、検討促進で一致。「危機便乗」と警戒する立憲民主党は慎重姿勢を示し、共産党は反対する。憲法が岐路に立っている。
 常葉大の吉崎暢洋教授(憲法学)は「もし憲法に緊急事態条項を新設するなら、人権制限は必要最少限度であるべきだ。万が一にも乱用されないよう、有効な歯止めを規定することが必要」と話す。
〈2022.05.03 あなたの静岡新聞〉

 ■「改正急ぐ必要ない」58% 最新の全国世論調査
 参院選の結果を受けて共同通信社が11、12両日(※7月)に実施した全国緊急電話世論調査によると、憲法改正に前向きな「改憲勢力」が3分の2以上の議席を維持したことを踏まえ、改憲を「急ぐべきだ」との回答は37・5%、「急ぐ必要はない」は58・4%だった。
 自民党は参院選公約に改憲の早期実現を掲げたが、世論調査では優先課題とは捉えていない実態が浮かび上がった。参院選で重視した項目は物価高対策・経済政策の次は、年金・医療・介護が12・3%、子育て・少子化対策が10・4%だった。憲法改正は5・6%にとどまった。
〈2022.07.13 静岡新聞朝刊から抜粋〉

憲法改正の是非 理念踏まえ議論深めよ【静岡新聞社社説】

 衆参両院の憲法審査会で改憲議論が本格化する中、参院選に突入した。ほとんどの政党が公約で改憲か護憲かの姿勢を示している。ロシアのウクライナ侵攻で国民の関心が高まる安全保障政策との絡みで、9条改正の是非を中心に舌戦が交わされている。

 平和を維持し、国民の権利や自由を守る憲法の理念は変えてはならない。だが、厳しい現実に直面している。生きる権利さえ奪われる戦場を目の当たりにしている。格差の拡大が進み、憲法が保障する最低限度の生活を営む権利を脅かされる人が増えている。
 参院選は与野党の改憲勢力が改憲発議に必要な3分の2以上の議席を維持できるかが焦点の一つ。衆院では3分の2を超えている。改憲へのスケジュールを示すべきという政党もある。選挙結果は今後の議論の進展を左右する。
 われわれは時代の大きな変わり目に立っている。国民の生命や幸福追求の権利を守るために、改憲が必要か、憲法解釈や法整備で対応していくのか。憲法の理念を踏まえ、議論を深めてほしい。
 9条改正について、自民党は安全保障の実行組織となる自衛隊の明記を主張し、日本維新の会が賛同する。立憲民主党や共産党などは戦力拡大に歯止めがかからなくなるなどと9条明記に反対する。
 共同通信社の世論調査では、ウクライナ危機の後も9条改正に対する国民の意識に大きな変化はない。今年3~4月の調査で、9条改正の必要性が「ある」は50%、「ない」が48%と拮抗[きっこう]した。昨年、一昨年の同時期の調査でもほぼ同じ割合だった。
 2016年参院選から衆参両院とも改憲勢力は3分の2を上回っている。それでも改憲発議に至らなかったのは公明党が9条改正に慎重な上、世論が2分しているのも背景にあるだろう。
 一方、同じ調査で緊急事態条項の創設を認める回答は69%に上る。自民が改憲案の項目の一つとして発表した18年当時は、大規模自然災害を想定していたが、感染症の拡大や他国の侵略も念頭に議論されるようになった。
 コロナを徹底的に封じ込めるため市民に不自由を強いる中国は極端な例だが、緊急事態には私権が制限されることになる。個々が自分の問題として考えなければならない。
 憲法施行後、時代は大きく変わった。ネット上で誹謗[ひぼう]中傷され、個人の尊厳を踏みにじられる事例が後を絶たない。悪質行為に政府は厳罰化などで対応しているが、デジタル社会の人権保障を憲法議論に求める声も上がる。
 国の政策を裁判所が違憲と判断し、人権侵害の救済につながったこともある。社会的に弱い立場にいる人にとって憲法は最後の砦[とりで]となるという視点を大切にしたい。
 今年は貴族院に代わって生まれた参院の本会議が初めて開かれてから75年という節目の年である。参院の合区解消は憲法審でのテーマの一つだが、参院の存在意義も問われているといえる。
 隣接県を一つの選挙区にする合区は、最高裁で憲法違反と判断された参院の「1票の格差」を是正するため導入された。しかし、人口の少ない県では議員不在となる可能性があるため、憲法審では改憲の是非はともかく、地方軽視につながるなどと解消を求める意見が多数を占めている。なぜ、議員を都道府県ごとに選ぶ必要があるのか。衆院とは異なる役割をしっかり示さなければ、国民の理解は得られない。
 参院は衆院より任期が長く、解散もないため、中長期的な視点で国政の重要課題を検討する「良識の府」としての役割が期待されてきた。参院こそ憲法を議論する主戦場であるべきではないのか。各候補者が所属する政党や支持を受ける政党の公約に縛られることなく、憲法に対する考えを自分の言葉で語るのが本来の姿であろう。
〈2022.06.27 あなたの静岡新聞〉

憲法改正の手順は?

①改正原案の提出・発議

 憲法改正案の原案は、衆議院に提出する場合は100人以上、参議院に提出する場合は50人以上の国会議員の賛成により発議されます。衆参各議院においてそれぞれ憲法審査会で審査されたのちに、本会議で審議。
  両院それぞれの本会議で、総議員の3分の2以上の賛成で可決した場合、国会が憲法改正の発議を行い、「憲法改正案」として国民に提案します。憲法の改正箇所が複数ある場合は、内容において関連する事項ごとに区分して発議されます。
 

②広報周知


 国会に、各議院の議員の中から選任された委員(各10人)で組織する国民投票広報協議会が設けられます。協議会は、国民投票公報の原稿の作成、憲法改正案の要旨の作成、憲法改正案の広報のための放送や広告など、広報に関する事務を行います。
 

③国民投票の期日決定・投票


 国民投票は憲法改正の発議をした後、60日以後180日以内の間で、国会の議決した期日に行われます。 
 投票は、内容が関連する改正案ごとに、それぞれ1人1票で投票します。改正案が2つの場合は、それぞれに1票ずつ、計2票の賛否を投票することになります。
 

④開票・告示

 賛成投票数が投票総数の過半数を超えた場合は、憲法改正について国民の承認があったものとされます。その場合、内閣総理大臣はすぐに憲法改正の公布のための手続を行い、天皇が改正憲法を公布します。

総務省ホームページなど参照
地域再生大賞