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参院選 静岡選挙区の戦いを解説します

 第26回参院選が終幕を迎えました。2議席を巡って8氏が争った静岡選挙区は、自民党の若林洋平氏(50)と無所属の平山佐知子氏(51)が当選しました。無所属議員の当選は1998年以来。静岡選挙区の戦いを解説とともに振り返ります。
 〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 石岡美来〉

若林氏トップで初当選 平山氏、再選つかむ 参院選静岡選挙区

 参院選静岡選挙区(改選数2)は10日、投開票が行われ、自民党新人の若林洋平氏(50)=公明推薦=がトップで初当選を果たし、無所属現職の平山佐知子氏(51)は再選を決めた。無所属現職の山崎真之輔氏(40)=国民推薦=、共産党新人の鈴木千佳氏(51)、諸派新人の山本貴史氏(52)、NHK党新人の堀川圭輔氏(48)と舟橋夢人氏(56)、無所属新人の船川淳志氏(65)は敗れた。投票率は52・97%で、前回(50・46%)を2・51㌽上回った。

当選を決めて花束を受け取る若林洋平氏=10日午後8時半ごろ、静岡市葵区
当選を決めて花束を受け取る若林洋平氏=10日午後8時半ごろ、静岡市葵区
 若林氏は農業、商工など100以上の団体から推薦を受け、公明党とも連携し組織戦を展開。昨年10月の参院静岡選挙区補欠選挙での敗北をバネに県議、市議と連動した地域固めに力を入れ、序盤から優勢に戦いを進めた。自民は補選を除き、静岡選挙区で5回連続のトップ当選。
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支援者から送られたケーキを手に当選を喜ぶ平山佐知子氏=10日午後8時5分、静岡市葵区

 平山氏は元キャスターと現職の知名度を生かし、無党派層を中心に浸透した。民進党から出馬した前回と異なり、支援する主だった組織がない中で、小規模集会や企業回りなどの地道な活動が功を奏した。候補者、推薦を出さなかった立民支持層に浸透するとともに保守層にも食い込んだ。

当選した2人はどんな人?

■若林洋平氏

若林洋平氏
若林洋平氏
 水戸市出身。埼玉大卒。御殿場市などの民間病院事務長を経て、2009年の市長選で初当選。今年1月に4選し、参院補選出馬に伴い8月辞職。
 補選の落選直後から県内各地を精力的に回り、課題だった知名度不足の克服に努めた。選挙戦は自民党支部や業界団体がフル回転し、国政で連立を組む公明党とも連携。徹底した地上戦で序盤からのリードを保った。
 御殿場市長を12年超務めた経験から、新人ながら即戦力として期待がかかる。「地方自治体の思いを伝え、美しい国土、国民の命と暮らしを守っていきたい」と力を込めた。

■平山佐知子氏
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平山佐知子氏

 静岡市清水区出身。小学校から高校まで金沢市で過ごした。日本福祉大女子短期大学部卒。2016年参院選で初当選。
 選挙戦での街頭演説や街宣車の巡回は「苦情も多い」という理由で極力控え、有権者の声に直接耳を傾ける活動を大切にした。商店街での地域住民との交流や、個人宅での座談会を重ね、「近くで話したことで、しっかり(思いが)伝わったと思う」と振り返った。
 2016年参院選に当時の民進党公認で出馬し初当選。17年に離党し、無所属で活動してきた。今後も党には所属しない意向を強調し、「政党の垣根を越え、同じ志を持った人たちと連携していく」と意気込んだ。安倍元首相の銃撃事件に触れ、選挙戦の在り方を見直すべきとの問題提起もした。

※6月24日「あなたの静岡新聞」記事を基に作成

無所属当選98年以来 主要野党存在感薄く【静岡新聞社記者解説】

 若林洋平氏が昨年10月の参院静岡選挙区補欠選挙で失った自民党の議席を奪還し、もう1議席は「完全無所属」を強調して再選を目指した平山佐知子氏が獲得した。補選を除けば無所属議員の当選は1998年の海野徹氏以来。これまで自民と自民の対抗勢力が議席を分け合ってきた静岡選挙区では、異例の結果となった。

支援者とグータッチで当選を喜ぶ平山佐知子氏=10日午後8時4分、静岡市葵区
支援者とグータッチで当選を喜ぶ平山佐知子氏=10日午後8時4分、静岡市葵区
 若林氏は元御殿場市長としての実績と与党の政策実現力を強調して自公支持層を固め、序盤からのリードを守り切った。2議席ある静岡選挙区で過去、自民は議席を失ったことがなく、緩みも懸念されたが、補選での敗北が引き締めにつながった。
 平山氏は街頭演説を極力行わず、小規模集会や企業回りを軸にした独自の戦略で無党派層を中心に支持を広げた。無所属の弱みを「しがらみのない政治」と強調することで強みに変えることに成功。国会での投票行動は自民寄りだったが、立憲民主党など野党支持層にも食い込んだ。
 “異例”の結果を招いた一番の要因は山崎真之輔氏だろう。補選で65万票を獲得して初当選を果たしたが、わずか8カ月で大きく票を減らした。当選直後に発覚した女性問題、国民民主党会派に入ったことで立民支持層が離れたことなどさまざまな理由が考えられるが、補選で全面支援した川勝平太知事の「不在」が与えた影響は無視できない。来春の統一地方選では、川勝知事の動きに与野党から注目が集まるだろう。
 解散総選挙がなければ次期参院選までの3年間は大きな国政選挙が行われない。その「空白」の前の今参院選で、野党第1党の立民や勢力を伸ばしている日本維新の会が静岡選挙区に候補者を立てることはおろか、推薦すら出さなかったことは、有権者の選択を狭める結果となった。
 選挙戦最終盤に起きた元首相への銃撃事件は物価高、安全保障政策が最大の争点とされた参院選に「民主主義を守る」という新たな視点を加えた。当選した議員はその重みを受け止め、健全な民主主義の実現に向けて先頭に立つ責任がある。(政治部・市川雄一)

平山氏再選 漂流「無党派票」結集の再現【静岡県立大教授解説】

 予測通り、若林洋平、平山佐知子両候補の勝利だった。自民党が組織力を生かし2人区の「指定席」を維持したことは、いつもの姿ではあるが、平山候補再選は、昨年の県内大型選挙で確認された非組織無党派票結集の再現である。

前山亮吉・静岡県立大教授
前山亮吉・静岡県立大教授
 そもそも2016年参院選で平山候補は74万票の自民・岩井茂樹候補に肉薄する69万票を集め当選した。今回の再選も6年前の実績と深い関係が見いだせる。
 6年前の平山候補は民進党公認で出馬した。69万票は当時の民進党の力量を大幅に上回る数であり、自民票の一部や非組織無党派票が平山候補に結集した可能性が指摘された。
 16年の実績に学び、政党の枠を超えた結集点として、今回は「完全無所属」という選挙戦略を採り、「しがらみのない」政治的立場を貫いたことが平山候補の勝因である。ただし、こうした政治的立場が、再選後の議員活動の中で貫かれるか否か。有権者は注視すべきである。
 非組織無党派票の結集は昨年、6月の知事選(川勝平太知事4選)、10月の参院補選(非自民の山崎真之輔候補当選)、総選挙(衆院静岡3区、8区で自民落選)という結果で繰り返し確認できる。ただ、今回は結集の受け皿が、政党から平山候補個人に大きく移動した。従って10月補選と同じ政党の受け皿で戦った山崎候補は一転敗北した。
 旧民主党の衰退、民進党分裂以後、大きな受け皿を失った非組織無党派票の「漂流」現象が静岡県だけではなく、全国的にも顕著になっている。特に旧民主党系が振るわず、日本維新の会が伸長した比例代表の選挙結果には、非組織無党派票の模索がうかがえる。
 こうした状況と安倍晋三元首相の銃撃事件への同情票が重なり、大勝した自民・公明政権は「黄金の3年間」を迎える。次に国政選挙(場合によれば衆参同日選挙)が行われる公算が大きい25年には、「漂流」する票の行き先は定まるだろうか。
地域再生大賞