夏山シーズン到来 富士山登ってみませんか?
富士山の山梨県側の登山道「吉田ルート」では7月1日、夏山シーズンの到来を告げる山開きが行われました。静岡県側登山道は10日に開通する予定です。山梨県側の開山日の様子や山登りの際の注意点などをまとめました。
〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 安達美佑〉
御来光 頂きを照らす 富士山・山梨県側で山開き
富士山の山梨県側の登山道「吉田ルート」が1日、5合目から山頂まで開通し、夏山シーズンの到来を告げる山開きを迎えた。深夜から未明にかけて登山者が標高3776メートルの山頂を目指した。山頂は晴れ上がり、午前4時半ごろ、真っ赤な太陽が姿を現した。約50人が幻想的な御来光に万歳の声を上げたり、手を合わせたりした。
新型コロナウイルスの影響下での山小屋運営は2年目。吉田ルート8合目の山小屋では昨年に引き続き、チェックイン時の体温測定や寝床をパーティションで仕切るなどといった感染症対策を行う。
吉田ルート8合目の山小屋経営者は「昨年より宿泊客の予約は増加傾向にあるが、それでもまだ経営的に厳しい。早くコロナ前の状況に戻ってほしい」と願った。
静岡県側の3登山道は10日に開通する予定。(社会部・沢口翔斗)
〈2022.07.02 あなたの静岡新聞〉
玄人向け「御殿場ルート」登りやすく 20年ぶりに山小屋復活
富士山御殿場口新6合目の山小屋が20年ぶりに復活する。登山の起点となる新5合目から6時間にわたり休憩場所のない状況が解消される。玄人向けとされる御殿場ルートが「一気に登りやすくなる」と関係者は期待する。
2011年からわらじ館を運営する橋都さんは、御殿場ルートを登りやすく環境に優しい道にしようと模索していた。4年前に「半蔵坊」の建物所有者が受け継ぎ手を探していると聞き、名乗りを上げた。20年間で建物を覆った土砂を除去し、内部を改装した。
新5合目(標高1440メートル)から4時間~4時間半で到達する。新5合目近くの大石茶屋からわらじ館(同3090メートル)まで休憩場所がなかったこれまでに比べて「家族連れや団体も登りやすい」と橋都さん。ごみや排せつ物の減少にもつながるとみる。
橋都さんは「山中湖が近く、御来光と一緒に見られる」と半蔵坊の立地の良さをPRする。「小さな山小屋だが、おいしい食事と温かいサービスを提供したい」。雲上のもてなしに力を入れ、一生に一度のつもりで御殿場ルートに挑む登山者をリピーターにするつもりだ。(御殿場支局・矢嶋宏行)
雄大さ実感「地獄の道」
御殿場ルートは他の登山ルートに比べ登頂に要する時間が長く、「地獄の道」とも称される。橋都さんは、標高3000メートル前後まで広がる砂地は「母親の懐に入ったような感覚になる。富士山の広さ、雄大さを実感できる」と魅力を語る。
御殿場市などによると、御殿場口新5合目から山頂までの所要時間は8~9時間。次いで長い須走ルート(5合目から)は5時間40分。富士宮ルート(同)や吉田ルート(同)は御殿場ルートの2分の1程度という。
登山者数は長年、他の3ルートに水をあけられていたが、近年はスカイランニングのコースとして人気が高まる。環境省がまとめた2021年の開山期間中の登山者数は、須走ルートに肉薄した。
山小屋は登山者の宿泊や休憩の場だけでなく、荒天時の避難所や有事の対応拠点にもなる。御殿場市観光交流課は、半蔵坊の営業により「御殿場ルートの登山者の安全性が高まる」と歓迎する。ただ、最難関ルートには変わらず、十分な準備と適切な装備で登るよう呼びかける。
〈2022.07.08 あなたの静岡新聞〉
夏山を楽しむために…
7月1日、富士山で「開山祭」など山開き行事が行われる。本格的な夏山シーズンの到来だ。「登山ブーム」と言われるここ数年、山には若い女性の姿が多くなった。初心者も安心な富士山の歩き方を専門家に聞き、夏山の楽しさを探った。
表富士宮口登山組合の山口芳正組合長に、安全で快適な富士登山の極意を聞いた。(聞き手:文化生活部・橋爪充)
準備
最大の敵は高山病だ。登山日前の二夜は普段より多めに睡眠を取ろう。睡眠不足は高山病の原因になりやすい。眠れなくても横になっていることが大切だ。
荷物は一つにまとめる。飲料水は1リットル程度にし、途中で調達するようにする。雨対策として、すべての荷物を大きなビニール袋に入れてからリュックサックに収納する。靴はトレッキングシューズや登山靴でなくても可。「底がつるつるでなければ、履きなれた靴がいいと思います」
登山口へ向かう時には、車の窓を少し開けておく。到着後は昼食をとるなどしてその場で1時間以上過ごす。「標高2400メートルの気圧に体を慣らしましょう」
歩き方
山小屋に1泊するなら夕食の時間を事前に確認し、17~18時ごろに到着するよう計画を立てる。歩き方の基本は「小またでゆっくり」。グループで登るときは、できるだけベテランが初心者に合わせたい。
“20分間に1度”などと時間を決め、立ったまま短く休憩を取る。ステッキや金剛棒を持っているなら、斜面下側に突いて体をもたれかける。「山頂を見ると疲れが出ます。下を見ながら休む方がいい」。長時間休まず、呼吸が整ったら歩き出す。座って休む長い休憩は山小屋の前などで。
山小屋
夕食後はゆっくり休む。山頂の御来光は4時半から5時。山小屋のスタッフに出発時間を確認する。「眠るときは心臓のある左側を上にして横向きになると楽です」。耳栓を持ってくれば、周囲のいびきや遅い時間に到着する客の物音が気にならない。往路と復路が同じなら荷物の一部を山小屋に預けることもできる。
満喫
頂上についたらまずはひと休み。山頂噴火口を1周する「お鉢巡り」は3キロのコースで約75分かかる。下山には2~3時間見ておきたい。
下山までは雲海や駿河湾の景色を楽しもう。運が良ければ円状の虹や「ブロッケン現象」にも遭遇できる。「日本一の山を制覇したという達成感と、非日常的な景色が富士山のだいご味。何度来ても景観が違います」
※内容、肩書など当時のまま
人混み意識/熱中症警戒 状況でマスク着脱を
富士山の山梨県側の登山道「吉田ルート」が5合目から山頂まで開通した1日、早速訪れた登山者たちは新型コロナウイルス感染症と熱中症という二つのリスクを意識し、状況に応じてマスクを着けたり外したりしながら山行を楽しんだ。
6合目付近では「擦れ違い時にはマスクや手ぬぐいで鼻や口をふさいで」などと音声による案内があったが、山歩きの最中にマスクを着ける人はほとんどいなかった。登山中の50代男性は「マスクをしていたら熱中症で倒れてしまう。トレッキングポールで両手を使っているから、手ぬぐいで口をふさぐのも非現実的」と漏らした。
一方、山小屋の売店や山頂ではマスクを着用する人が多かった。山頂でマスクを着けた鏑木昌幸さん(64)=神奈川県=は「人混みになりやすい場所では着ける」と語った。登山ガイドの男性の1人は「登山中のマスクの着用はリスクになり得る。状況に応じて柔軟に着脱してほしい」と話した。(社会部・沢口翔斗)
〈2022.07.02 あなたの静岡新聞〉