知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

日弁連 再審法改正へ実現本部 議論のポイントは

 日本弁護士連合会は、規定が乏しく人権救済につながりにくいと指摘されてきた再審法の改正を目指し、小林元治会長を本部長とする「再審法改正実現本部」の新設を決議しました。国会議員などへの働きかけを強化し、議員や市民へ改正の意義を発信します。実現本部のポイントや再審制度の課題をまとめました。
 〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 吉田直人〉

改正案を策定 立法府への働き掛けを強化

 日本弁護士連合会が、人権救済につながりにくいと指摘されてきた再審法の改正を目指し、小林元治会長を本部長とする「再審法改正実現本部」の新設を16日付で決めた。今後、改正案を策定するほか、日弁連の総力を挙げて「メインターゲット」と位置付ける立法府への働き掛けを強める。

※写真はイメージ
※写真はイメージ

 ■実現本部で議員への働きかけ容易に
 従前の「再審法改正に関する特別部会」は40人ほどの人員だったが、実現本部化で3倍以上に増える。県弁護士会の伊豆田悦義会長ら、日弁連の理事である各地の弁護士会長も加わる。特別部会で部会長を務めてきた鴨志田祐美弁護士は、実現本部新設の意義を「ローラー的に全国会議員を訪ねることができたり、理事が入ることで地元選出議員へのアプローチがしやすくなったりする」と説明。岩手県議会と、三島市など全国約90市町村議会が再審法改正を求める意見書を可決する中、各地の弁護士会を通じ地方議会への呼びかけを強化できる点も強調する。
 最近では、冤罪(えんざい)被害者らの集会に足を運び、最後まで熱心に耳を傾ける議員も出てきた。再審法改正を実現させる第一歩として、超党派の議員連盟の発足を求めていく。
 今月22日、1979年に鹿児島県大崎町で男性の遺体が見つかった事件で、無実を訴えながら服役した原口アヤ子さん(95)の再審請求について鹿児島地裁が可否を決める。84年に滋賀県日野町で酒店経営の女性が殺害され手提げ金庫が奪われた「日野町事件」や、66年に旧清水市(静岡市清水区)で一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(86)の再審請求審も決定時期が近づいている。いずれも、再審開始決定に対し検察側が上訴▽証拠開示が重要な役割を果たした―点などが共通する。
 大崎事件の再審弁護団事務局長でもある鴨志田弁護士は「冤罪は誰にも起こり得る。巻き込まれると、何十年も救済されない人生が待っている。議員にも市民にも自分事として考えてもらえるよう伝えていく上で、実現本部は重要な役割を担う」と話した。(社会部・佐藤章弘)
 〈2022.06.21 あなたの静岡新聞〉

乏しい規定 再審実現は至難の業

 裁判をやり直す再審を巡り、法改正を求める声が強まっている。人権救済制度とされるが、規定が乏しく、当事者にとって再審の実現は事実上、至難の業となっているためだ。過去に改正されたことはなく、国政選挙で争点にもならない。議員立法という手段もある中、関係者は「政治家にとって票にならない分野で関心が薄い。誤判冤罪(えんざい)がある現実を知らなすぎる」と指摘している。

「再審法改正をめざす市民の会」の結成集会で、思いを語る袴田巌さんの姉秀子さん。法の不備が指摘されて久しい=2019年5月、東京都内
「再審法改正をめざす市民の会」の結成集会で、思いを語る袴田巌さんの姉秀子さん。法の不備が指摘されて久しい=2019年5月、東京都内

 ■再審制度、どんな規定 課題のポイントは?
 再審は刑事訴訟法第4編(再審法)に規定され、その手続きは再審開始の可否を判断する再審請求手続きと、再審確定後に始まる再審公判手続きの2段階構造になっている。再審を求める当事者や日弁連などが長年訴えてきたのは法の不備だ。
 再審に関する条文は19しかない。再審請求の審理手続きについては、裁判所は必要に応じ「事実の取り調べ」をできる、とあるのみで打ち合わせの場さえ保障されていない。裁判官の積極性の違いにより、事件ごと審理の質に差が生じているとして「再審格差」との批判が上がる。特に問題視されているのが、証拠開示や、検察官の不服申し立てを制限する規定がないことだ。
 検察官は通常、有罪立証に必要な証拠だけを裁判所に出す。裁判員制度の導入で通常審では弁護側に幅広く証拠が開示されるようになったが、再審請求審は裁判官の理解と検察官の対応次第。一方、請求人側に有利な証拠が開示され、再審開始決定や再審無罪判決につながった例は多い。刑事司法改革をテーマにした法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会で法制化が議論されたが、2016年成立の改正刑訴法に盛り込まれず、検討課題とされるにとどまった。
 いったん再審開始決定が出ても検察官の抗告で決定が取り消されたり、確定までに時間がかかったりする。一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さんは14年に静岡地裁で再審開始決定を受けたが、検察官の抗告で現在も請求審が続く。姉で請求人の秀子さんも高齢で、請求権者の拡大も喫緊の課題の一つだ。
(社会部・佐藤章弘)
〈2021.10.22 あなたの静岡新聞〉

国会に法案提出も廃案の過去

国会議事堂
国会議事堂
 過去には再審法の改正案が国会に提出されたことがあった。
 「再審制度は本来無実を救う黄金の橋であるべきにもかかわらず、現実においては雪冤(せつえん)を阻む鉄の扉と化しつつあるとさえ言われて来た」―。日本社会党(当時)の神近市子衆院議員は1968年、「再審特例法案」の提案理由でそう訴えた。
 特例法案が対象としたのは連合国軍総司令部(GHQ)の占領期間中に起訴され、死刑が確定した未執行者に限られていた。ただ、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したとき」とする再審開始の要件について「明らかな証拠」を「相当な証拠」に緩和したり、再審開始決定に対する異議申し立てを禁じたりする内容は現在の運動に通じる。
 結果的に成立せず、廃案となった。当時の法務大臣は「提案を契機として、恩赦の積極的運用について努力したい」と表明。実際に3人が無期懲役に減刑されたが、神近氏は自伝で「恩赦で逃げて、根本的に不当な裁判についてメスを入れまいとするのだ。これが政治というものなのだろうか」と嘆いている。
〈2022.06.21 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞