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出産と議員活動両立の課題は 浜松市議会の歩み

 女性の政治参画の必要性が指摘される中、女性議員が増えない理由に出産・育児の壁があるといわれています。2019年の市議選で12人が当選し、女性市議率が政令市3位と躍進した浜松市では、7年間で3人の現職市議が出産を経験しました。静岡県内で先行的に事例を重ねる浜松市議会の歩みを1ページにまとめます。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・村松響子〉

許されるのか…迷いも 「16週の出産欠席」初活用

 浜松市議会が昨春の会議規則改定で新設した「産前産後各8週、最大16週」の出産欠席制度を馬塚彩矢香市議(34)=市民サポート浜松、2期=が初めて活用し、今年2月に第1子を出産した。子育て世代の女性市議が増え、環境整備が進んできたが、出産と議員活動の両立には依然困難も多い。

第1子を出産し復帰した馬塚彩矢香市議=4月下旬、浜松市役所
第1子を出産し復帰した馬塚彩矢香市議=4月下旬、浜松市役所
 同市議会は市議46人のうち、女性が12人。議会事務局によると、任期中の出産は馬塚さんが3人目という。
 馬塚さんは昨夏からつわりが重かった上、医師からは切迫早産の恐れがあるとして、服薬と、できるだけ体を横たえるように指示を受けた。「有権者の負託に応えたい」と昨年末まで公務の出席に努めたが、1日がかりの視察や会議は「気が気でないほど苦しかった」と振り返る。
 期間を決めて欠席を届ける際も「許されるのか」と迷ったが、申請後は「安心して出産に備えられた。ありがたみを痛感した」と話す。
 産後8週を過ぎた4月12日に復帰した。体の痛みが続き、助産師に「せめて3カ月は赤ちゃんと一緒に過ごして」と勧められた。「8週は決して長くない」と感じる。ただ、出産を取り巻く制度の課題に触れた経験は大きな財産になった。「誰もが障壁なく出産できる社会に近づくよう、体験を生かしたい」と強調する。

議員の「出産」は「事故」扱いだった

 産休を巡り、浜松市議会は2016年に北野谷富子市議(38)=市民クラブ、2期=が現職市議として初めて出産するのに当たり、会議規則に「出産欠席」の項目を追加した。それまでの規則は議員の出産を想定せず、公務の欠席を届ける場合は「事故」と同じ扱いだった。北野谷さんは「出産を正式な欠席理由として認められたのはうれしかった」と思い起こす。

現職浜松市議初の出産を控えていた頃の北野谷富子さん(2015年10月)
現職浜松市議初の出産を控えていた頃の北野谷富子さん(2015年10月)
 当時は欠席可能な日数の規定がなく、北野谷さんは出産わずか2週間後に本会議に出席した。議会事務局に市民から出産欠席への批判が寄せられたことも知った。「まだ休めない空気感があった」と話し、日数規定が活用されたことを前進と受け止める。
 20年には小泉翠市議(30)=自民党浜松、1期=が出産した。予定日2週間ほど前まで会議への出席を続けた一方、産後は支援者や同僚議員の勧めもあって2カ月近く本会議を欠席し、資料を取り寄せながら主に自宅で過ごした。
 復帰後は会派室に子どもを連れてきて働いたこともあった。小泉さんは「同僚の協力に恵まれた」と感謝し、「出産の負担は個人差が大きい。欠席日数の規定があれば安心して休めると思うが、周囲の理解が最も重要」と実感を込める。
 〈2022.6.4 あなたの静岡新聞〉
 

女性市議率、浜松が政令市3位 2019年統一選

鈴木市長(左端)と意見交換する浜松市議会の女性議員らでつくる超党派グループ=2019年6月
鈴木市長(左端)と意見交換する浜松市議会の女性議員らでつくる超党派グループ=2019年6月
 ※2019年4月10日 静岡新聞朝刊から
 7日に投開票が行われた浜松市議選(定数46)で、現職8人と新人4人の女性候補計12人が当選し、改選前に17・3%(8人)だった女性議員の割合が26・0%に高まった。今回の統一地方選で、全国20政令指定都市中17市で市議選が行われた結果、浜松市議会の女性議員比率は3番目の高さとなった。
  同市議会の女性議員比率は、札幌市議会(定数68、女性22人)の32・3%、名古屋市議会(定数68、女性18人)の26・4%に次いで高かった。静岡市議会(定数48、女性3人)は6・2%で最も低い。
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  浜松市議選に出馬した61人のうち女性は13人(21・3%)で、新人1人を除く全員が当選した(浜北区の2人は無投票当選)。旋風を巻き起こしたのは南区(定数6)。現職1人を含む男性4人が落選する一方で、新人2人を含む女性3人は全員が当選した。
  超党派の市議でつくる女性議員の会代表で5回目の当選を果たした小黒啓子市議(中区、共産党市議団)は「女性候補が議員の責務をしっかり果たし、活躍できる存在だと認められた」と躍進を喜ぶ。女性議員の会は市内視察や勉強会、市長との懇談などを行っている。小黒市議は「女性が働きやすい社会づくりに努めたい」と意気込む。
  無投票で2度目の議席を得た北野谷富子市議(浜北区、市民クラブ)は前回市議選で初当選した後に出産し、市議の出産による公休取得が認められるきっかけを作った。「議会に女性がいる必要性を市民が感じてくれている」と語った。
地域再生大賞