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熱海土石流 被災地の復興計画どうなった?

 熱海市伊豆山の大規模土石流発生から11カ月。行政や盛り土現旧所有者らの責任追及や、発生メカニズムの解明などが進む中、伊豆山地域の復興計画は進んでいません。市の復興計画検討委員会がまとめる基本計画を巡っては「被災者の現実が反映されていない」との声を受け、計画策定が遅れています。現在の状況をまとめます。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉

「被災者の現実を反映していない」 復興計画策定ずれ込む

 熱海市は25日(※5月)、大規模土石流で被災した伊豆山地区の復興計画検討委員会を市役所で開いた。復興の理念や施策の方向性を示す市の基本計画案を巡り、委員からは「被災者の現実を反映していない」との意見や復興の工程に対する疑問の声が相次いだ。市は5月中に基本計画を策定する方針だったが、内容を修正する。策定は6月にずれ込む見通し。

復興基本計画の策定に向けて意見を交わした検討委員会(写真は2月の初会合の様子)
復興基本計画の策定に向けて意見を交わした検討委員会(写真は2月の初会合の様子)
 基本計画案の主要施策として盛り込まれた「住宅の自力再建希望者の支援」について、被災者の中島秀人委員は「被災者が向き合う金銭面の課題に触れられていない。具体的な支援策を示すべきだ」と訴えた。工程表では基盤整備に3年、住宅地造成に7年と記載されたが、高見公雄委員(法政大教授)は「東日本大震災でも10年で全て終わっている。どういう議論でこのような記載になったのか」と長期におよぶ計画に疑問を呈した。
 市は検討委の了承を得た上で基本計画を策定後、具体的な土地利用策などを含む「復興まちづくり計画」を8月末までにまとめたい考え。
 斉藤栄市長は「被災者が心配している施策をしっかり盛り込みたい」と述べた。
〈2022.05.26 あなたの静岡新聞〉

「復興まちづくり計画」に住民の視点反映 被災者らと市が意見交換

 熱海市は29日(※5月)、大規模土石流で被災した伊豆山地区の復興まちづくり計画に、被災者や住民の意見を取り入れるためのワークショップ(WS)を市役所で初めて開いた。市内外の応急仮設住宅で避難生活を送っている被災者や、伊豆山に残って暮らしている住民が、生活再建やコミュニティーの再生に必要な視点について意見を出し合った。

土石流災害からの復興やまちづくりについて意見を出し合う参加者=29日午後、熱海市役所
土石流災害からの復興やまちづくりについて意見を出し合う参加者=29日午後、熱海市役所
 初回は応急仮設住宅で暮らす14人と被災した岸谷、仲道、浜の3地区の住民11人が小グループに分かれて意見を交わした。
 自宅が全壊した志村信彦さん(41)は「安全が確保されていないと伊豆山に戻れない」と話し、被災者の視点に立った計画をつくるよう求めた。自身も被災者でありながらボランティア活動を続ける高橋一美さん(45)は「今はまだ地域をマイナスからゼロに戻す段階ではあるが、『こんな伊豆山なら戻りたい』と夢を語り合える場にしたい」と語った。
 WSは9月末までに全5回開く。市はWSで挙がった意見を「かわら版」にして、応急仮設住宅に郵送するなどして住民と共有。被災地の土地利用や基盤整備の方向性を示す「復興まちづくり計画」や今後の政策に反映する。斉藤栄市長は「被災者はさまざまな境遇に置かれている。層の厚い意見をしっかりと集約したい」と話した。
〈2022.05.30 あなたの静岡新聞〉

警戒区域未来の会代表・中島秀人氏「警戒区域の解除時期示して」

 熱海市伊豆山の大規模土石流は3日(※4月)で発生から9カ月。被災地に市が設定している「警戒区域」は原則立ち入り禁止で、たとえ自宅が残っていても住民は帰宅できない。そんな苦境に置かれた住民の声を行政に届けようと、3月に「警戒区域未来の会」を設立した。復旧復興を目指す上で、被災者は何を求めているかを聞いた。

中島秀人氏
中島秀人氏

 -発足までの経緯は。
 「復興に向けて市が計画策定に着手すると聞いたとき、このままでは復興という言葉だけが独り歩きしないかと危機感を覚えた。行政は被災者に寄り添うと言いながら、実態をまるでつかんでいない。ならば自らの思いを直接伝えようと、区域内の住民に声を掛けた。現在、伊豆山を離れて市内外の応急仮設住宅で暮らしている25世帯、約50人が参加している」
 -市の復興計画策定作業に思うことは。
 「当初、計画の検討委員会は学識経験者と市が選んだ団体から推薦された人だけで構成していた。警戒区域の住民を入れないのはおかしいと思い、団体を立ち上げて記者会見を開き、市に要望書を提出して、やっと自分自身が委員に加えてもらえる見通しになった。正直なところ、ここまでしないといけないのかと理不尽に感じているが、計画策定の先にあるまちづくりに被災者がいつでも参加できるようにすることが大事」
 -警戒区域の住民の悩みとは。
 「警戒区域の解除時期が明確に示されていないことが一番つらい。伊豆山に帰れる見通しが立てば、今の生活を我慢しようと思えるが、先が見えなければ諦めてしまう人もいるだろう。土石流の起点に残っている盛り土の撤去も、安全を確保する上で重要な問題。時間がかかれば、警戒区域解除がさらに遠のく。地域コミュニティーを持続させるためにも、市には警戒区域解除のめどを少しでも早く示してほしい」
 -自身が思い描く復興後の伊豆山の姿は。
 「一概に言うのは難しいが、伊豆山神社や走り湯などの歴史、自然を守ることは大切だと思う。ただ、警戒区域の復興と結び付けて考えたい。新たに道路を造るにしても、ここに土石流が流れたと後世の人にも分かるように整備することで、災害を風化させないようにしてほしい」

 なかじま・ひでと 創業80年以上の老舗「コマツ屋製麺」経営。土石流で警戒区域内の自宅兼工場が被災した。熱海市内の応急仮設住宅で暮らし工場再建を目指している。53歳。
〈2022.04.03 あなたの静岡新聞【本音インタビュー】〉

復興計画素案 安心確保や生活再建など3目標

 熱海市は25日(※3月)、大規模土石流に見舞われた同市伊豆山の第2回復興計画検討委員会を開き、基本計画案を示した。災害関連死含め27人が犠牲になった土石流災害を教訓に防災機能の強化を図り、被災前の暮らしやコミュニティーを取り戻すことを理念に掲げた。

市が示した復興基本計画案について意見を述べる中島秀人代表(中央)=25日午後、熱海市役所
市が示した復興基本計画案について意見を述べる中島秀人代表(中央)=25日午後、熱海市役所
 計画案は安心・安全の確保▽速やかな生活再建▽創造的復興-の三つの目標で構成。住民の命を守るため国と県が進める逢初川の砂防堰堤の設置や改修工事と連携し、市として災害に強い地域づくりを目指す。
 子育てや医療福祉環境の充実を図ることで被災者の生活再建支援を後押しする。地域活性化に向け、伊豆山神社など歴史資源を活用したまちづくりを推進していく。
 市は5月ごろまでに復興基本計画を策定し、より具体的な政策を反映した「復興まちづくり計画」の策定作業に入る。
 検討委に参加した長期避難者の住民団体「警戒区域未来の会」の中島秀人代表は「今もつらい思いを抱えながら生活している。被災者の思いや意見を反映したまちづくりを進めてほしい」と訴えた。
〈2022.03.26 あなたの静岡新聞〉