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盛り土規制法成立 ポイントと課題は?

 熱海市伊豆山の大規模土石流を受け、従来法を抜本的に見直した「盛り土規制法」が成立しました。全国一律の基準で危険な盛り土を規制できるようになります。法律のポイントや、今後の動きをまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・石岡美来〉

最高3億円の罰金 2023年夏までに施行

 熱海市伊豆山の大規模土石流を受けた盛り土規制法が20日午前の参院本会議で全会一致により可決、成立した。宅地、森林、農地など土地の用途にかかわらず、危険な盛り土を全国一律の基準で包括的に規制するのが柱。無許可造成や是正命令違反をした法人には最高3億円の罰金を科すなど、罰則も強化した。来年夏までに施行される。今後は実効性の確保が課題となり、政府は実務を担う自治体向けのガイドライン整備などを急ぐ。

盛り土規制法のポイント 
盛り土規制法のポイント 
 宅地造成等規制法を法律名や目的を含めて抜本的に改正した。知事などが盛り土の崩壊で人家に被害が出る恐れのあるエリアを規制区域に指定し、区域内での盛り土工事を許可制とする。許可基準に沿った安全対策が実施されているかどうかを確認するため、施工状況の定期報告や施工中、工事完了時の検査を規定した。
 盛り土が行われた土地は、所有者が常に安全な状態に維持する責務を明確化した。災害防止に必要な場合は、現在の所有者だけでなく造成主、施工者、過去の所有者にも是正措置などを命令できる。
 規制区域外も含めて工事や土砂管理の規制の在り方を5年以内に見直すよう、衆院で検討条項が修正された。衆参の国土交通委員会はいずれも付帯決議を付け、きめ細かなガイドラインの策定や自治体に対する人的、財政面の支援を政府に促した。大規模工事で発生する土砂のトレーサビリティー(流通履歴)制度、置き場の確保に関しても具体策を検討することを求めた。
 〈2022.5.20 あなたの静岡新聞〉

自治体単位の規制に限界 全国一律基準が求められていた

盛り土の規制に関わる主な法令と権限
盛り土の規制に関わる主な法令と権限
 ※2021年8月25日 あなたの静岡新聞より
 甚大な被害をもたらした熱海市伊豆山の土石流災害。国や静岡県は被害を拡大させたとされる盛り土の規制強化に向けて検討を急ぐが、関係法令の多さと行政手続きの複雑な権限が課題になっている。法の網をすり抜ける悪質な行為を止めるには自治体単独の規制では限界があり、県と市町からは、土砂の排出元規制など全国一律の法整備を求める声が上がる。
 県などの説明によると、土石流起点で崩落した盛り土は建設工事で発生した土砂(建設残土)が持ち込まれたとみられる。2007年、神奈川県小田原市の不動産管理会社(解散)が静岡県土採取等規制条例に基づき熱海市に盛り土の計画を届け出た。その後、実際には届け出の3倍を超える高さを積み上げた。土地改変時に罰則の比較的重い廃棄物処理法や森林法の指導に従う一方、罰金最大20万円の同条例の工事中止要請には従わなかった。
 不正な残土の取り締まりに力を入れる富士市の担当者は「残土ビジネスは年に億単位の利益を生むので、悪質な業者は条例を意に介さない。静岡県が罰則を強化すれば罰則の弱い他県に流れる」と法律による全国一律の罰則強化を求める。
 ■縦割り行政
 行政手続きの権限は規模などに応じて県と市町に分かれている。関係法令ごとに目的や技術的基準は違い、自治体内で担当部署も異なるが、情報共有などの調整が必須になる。
 一方、小規模な市町は職員が1人でいくつもの仕事を兼務する。県東部の自治体職員は「十分に対応する余裕はない。庁内の横の連携にも苦慮している」と負担感を示す。別の市の担当者は「県との連携が弱い」と指摘。将来的に県の出先機関が関係法令に一元的に対応する体制を取るよう提案する。
 ■危険性判断
 業者が行政の是正指導に応じない場合、緊急性があると判断すれば行政代執行で盛り土を撤去する選択肢もある。ただ、費用に税金が充てられ、訴訟リスクもあるためハードルが高い。「直ちに崩れそうかどうかを判断するのは非常に難しい」と県東部の自治体関係者。最近の豪雨多発を踏まえて「これまでの経験は通用しない」という声も聞かれる。
 藤倉まなみ桜美林大教授(環境学)は問題の本質は残土の排出元にあるとし、「残土を出す側が罰則を受ける仕組みを法律で作らないといけない」と法整備の必要性を指摘する。その上で「土地改変に着目するのではなく(規制の強い)廃棄物のように、動く土砂に着目して規制を徹底すれば(自治体の関係部署間の連携は)それほど問題にならない」としている。

自治体向け、細かい指針策定 国交省が検討会設置へ

 熱海市伊豆山の土石流災害を踏まえた盛り土規制法が20日に成立したことを受け、国土交通省は、実務を担う自治体用の指針策定に向けた有識者検討会を設置する方針を決めた。6月にも初会合を開き、規制区域の指定や造成を許可する際の基準について議論する。

 同法では、盛り土で住宅に被害を及ぼす可能性がある場所を都道府県や政令市、中核市が規制区域に指定し、区域内の造成を許可制にする。
 土石流の起点となった熱海市伊豆山の盛り土に関する公文書によると、盛り土造成を届け出た業者が、静岡県より規制の厳しい神奈川県から土砂を搬入する旨を市や県の担当者に複数回告げている。実際、盛り土の崩落現場からは神奈川県二宮町の指定ごみ袋が見つかっている。市町に権限がある静岡県の条例は罰則が軽く、抑止力に欠けていたため、関係者は「悪質業者に狙い撃ちされた」と指摘する。
 国交省は20日、法施行は来年5月ごろになるとの見通しを明らかにした。施行後5年以内に規制区域の指定完了を目指す。
 検討会は、区域指定の考え方や造成の可否を判断するための技術的基準、既存の盛り土の安全対策などがテーマ。議論を踏まえ、国交省は具体的な許可基準などを盛り込んだ政令改正を進めるほか、自治体向けの指針を策定する。
 法改正で自治体の権限が強化される一方、区域指定や、工事完了時の検査など業務負担の増大も指摘されている。是正措置命令を出す判断も委ねられており、自治体の取り組みが鍵となる。国交省は指針をベースに、円滑な運用を支援していきたい考えだ。
 〈2022.5.21 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞