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熱海土石流災害巡る集団訴訟 ポイントは?

 熱海市伊豆山で発生した大規模土石流災害を巡り、遺族と被災者らが、起点の盛り土部分を含む土地の現旧所有者らに、計約58億円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が18日、静岡地裁沼津支部で行われます。訴訟のポイントやこれまでの経緯を1ページにまとめます。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・安達美佑〉

遺族と被災者、損害賠償求める 現旧所有者は争う方針

 熱海市伊豆山の土石流災害を巡り、遺族と被災者ら計84人が、起点の盛り土部分を含む土地の現旧所有者らに計約58億円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が18日、静岡地裁沼津支部で行われる。現旧所有者は請求棄却を求めて争う方針。被告の間でも主張や利害が対立するため、審理が長期化する可能性がある。

土石流の起点となった土地の現旧所有者らを提訴し、報道陣の取材に応じる原告ら=2021年9月28日午前9時40分ごろ、沼津市御幸町
土石流の起点となった土地の現旧所有者らを提訴し、報道陣の取材に応じる原告ら=2021年9月28日午前9時40分ごろ、沼津市御幸町
 土石流災害は昨年7月3日に起きた。災害関連死を含め27人が死亡し、1人が行方不明になっている。遺族ら70人が同9月、違法な盛り土が原因の「人災」だとして、起点部分の土地の現旧所有者や造成に関わった事業者ら12の個人・企業を提訴した。今年2月、さらに遺族14人が原告に加わり、現所有者が設立した企業1社を被告に追加した。
 原告側は訴状で、旧所有者について「盛り土を適切に施工すべき注意義務を怠った」と批判している。現所有者にも「安全対策をせず、盛り土を放置した過失がある」と指摘している。
 一方、現所有者は土石流が発生するまで盛り土の存在を知らず、土砂崩落の危険性を予見できるはずがなかったとして過失はなかったと反論する。現所有者の関連会社3社も速やかに請求を棄却するよう求める。
 旧所有者は、今月12日の熱海市議会調査特別委員会(百条委員会)で「土地を別の業者に貸しただけで、盛り土の行為者ではない」と述べた。旧所有者によると、最近になって代理人を解任した。別の弁護士を新たに選任する予定という。
 このほか、公文書で盛り土造成の現場責任者とされる男性らも請求棄却を訴える。他方で地裁沼津支部によると、訴状を送達できていない被告もいるという。
 関係者からは、行政にも責任があるとして「県と熱海市も提訴されるべきだ」との声も上がっている。
〈2022.05.17 あなたの静岡新聞〉

「謝罪より責任を」 遺族ら怒りあらわ

 ※2021年9月28日 あなたの静岡新聞から

 「謝罪がほしい訳ではない。しっかり責任を負ってほしい」。熱海市伊豆山の大規模土石流の遺族、被災者ら計70人が、起点の土地の現旧所有者らに損害賠償を求めて静岡地裁沼津支部に集団提訴した(2021年9月)28日、母親(77)を亡くした「熱海市盛り土流出事故被害者の会」の瀬下雄史会長(53)は、現旧所有者らへの怒りをにじませた。
 26人が犠牲になり、いまだ1人が行方不明になっている大災害。悲しみに暮れた遺族、被災者は8月上旬に被害者の会を結成し、集団訴訟の準備を進めてきた。同月中に現旧所有者らを刑事告訴した後、時を置かず損害賠償請求に踏み切った。瀬下会長は「(現旧所有者らの)資産隠しや証拠隠滅の猶予を与えないため、スピードを重視した」と説明。「全国に危険な盛り土はたくさんある。熱海をきっかけに悲劇が二度と繰り返されないために行動したい」と語った。
 土石流は132棟の住家を損壊し、地域の産業にも大打撃を与えた。原告の一人で伊豆山港の漁師金子友一さん(56)は「港が土砂やがれきで埋まっていて、まだ本格的な漁ができない。異様な盛り土を造った責任を明らかにし、事実をはっきりさせたい」と言葉に力を込めた。
 自宅が全壊し、神奈川県湯河原町の民間賃貸住宅に転居する太田成海さん(23)は「責任者がいまだに表に出て来ないのが許せない」と怒りをあらわにした。
 自宅が土砂に流された40代主婦は「身近な人がたくさん亡くなり、古里そのものを失った気持ち。とにかく原因と責任をはっきりさせてほしい」と訴えた。
 ※表記、年齢、肩書などは当時のまま

県と市の対応「失敗だった」 検証委最終報告

 熱海市伊豆山の大規模土石流を巡り、静岡県と同市の行政対応を検討してきた県の検証委員会(委員長・青島伸雄弁護士)は13日、最終報告をまとめた。悪質な開発行為を繰り返す業者に適切な処置を行う機会は何度もあったとして、県と市の対応は「失敗だった」と結論付けた。不備がある申請書類を受理するなど、同市の初期対応のまずさが失敗の最大の要因だと指摘した。

行政手続きに関する検証の最終報告をまとめ記者会見に臨む青島伸雄委員長(右から2人目)ら=13日午後、県庁
行政手続きに関する検証の最終報告をまとめ記者会見に臨む青島伸雄委員長(右から2人目)ら=13日午後、県庁
 同市は、盛り土の元所有者である神奈川県小田原市の不動産管理会社から2007年3月に盛り土造成の申請があった際、重要事項の未記載が多数あるにもかかわらず、是正を求めず受理した。検証委は「厳しい対応を取らなかったため、違法や不適切な行為が繰り返され、市は受け身になった」と批判した。
 市が、発出を最終的に見送った措置命令については「発出を検討する必要があった」と言及。明確な処分基準がなかったことが、適切な対応につながらなかったとして基準の設定を求めた。県は積極的に関与すべきだったと指摘した。
 市は同年6月、盛り土の隣接地で、県風致地区条例に基づき同社から申請があった開発申請を許可した。検証委は、盛り土部を含め一帯での開発が1ヘクタールを超えるとみなし、森林法に基づく林地開発許可違反と判断することもできたとした。この対応を巡り県が当時、「森林法の適用外」と判断したことは「妥当でない」と判定した。
 業者の悪質な行動に対し、県と市が連携して断固たる措置を執らなかった行政姿勢が問題の本質だと厳しく指摘した。会合後、記者会見で青島委員長は、盛り土崩落の危険性の認識について「これほど大きな崩落が起きるとは県も市も認識していなかったとみられる」とする一方で、「二度とこのような災害が起きないよう県と市は行政姿勢を見直し連携を強化してもらいたい」と要望した。
 県は17日に検証結果に対する正式な見解を示す。検証委は、弁護士や行政法の専門家らで構成する。計4回会合を開いた。
〈2022.5.14 あなたの静岡新聞〉

現旧土地所有者、盛り土責任どちらも否定 百条委・証人尋問

 熱海市伊豆山の大規模土石流に関する市議会調査特別委員会(百条委員会)は12日、土石流の起点となった盛り土を含む土地の現旧所有者への証人尋問を行った。2011年まで土地を所有していた不動産管理会社(神奈川県小田原市)代表(72)は「土地を別の業者に貸しただけで、盛り土の行為者ではない」とし、現所有者(85)は「現地に行ったことがなく、危険の認識がなかった」と、どちらも違法状態の盛り土の管理責任を否定した。

盛り土の現旧所有者の認識の違い
盛り土の現旧所有者の認識の違い
 現旧所有者が公の場で発言したのは初めて。旧所有者は盛り土造成を市に届け出た2007年以降、法令違反を繰り返し、市や県から何度も行政指導を受けた。盛り土は県土採取等規制条例の基準の高さ15メートルを大幅に超える推定約50メートルに達し、土砂流出なども起きていた。しかし、同社代表は「盛り土は安定していた。この10年間、何も起きていないことが証明している」と持論を述べた。
 空欄などの不備のある同社の書類を市が受理したことについては「適正かどうかを判断するのが行政の職務。検証せずに許可していたのなら問題だ」と行政の対応を批判した。
 旧所有者は11年2月、3億円で現所有者に土地を売却した。契約書には、盛り土の防災工事が未完であることが記されていたが、現所有者は「仲介した不動産業者に任せていたので、内容は分からない」と述べた。
 売買契約の後、現旧所有者は市や県を交えて盛り土の防災工事について協議し、旧所有者側は水路整備などの工事を行った。施工業者は工事代金を現所有者に請求したが、「支払われなかったので(防災工事を)中止した」と証言している。これについて現所有者は「工事の必要性を認識していなかった」とした上で「旧所有者が支払うべきもの」との認識を示した。
 公文書では、現所有者が防災工事を行うと市に約束したとの記載もあるが「県や市から工事を頼まれた記憶もない」と述べた。
〈2022.5.13 あなたの静岡新聞〉