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都市伝説「きさらぎ駅」 舞台の遠州鉄道沿線を訪ねました

 遠州鉄道さぎの宮駅(浜松市東区)がモチーフになったとされる都市伝説「きさらぎ駅」を題材にした実写映画が公開されました。インターネット上で20年近く話題になっていて、ファンの根強い人気を得ていますが、そもそもどんな都市伝説だったのでしょうか? モチーフになった駅や沿線地域をご紹介しながら、まだまだ広がりを見せるきさらぎ駅について1ページにまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉

2004年1月、「はすみ」さんの書き込みから始まった

 「先程から某私鉄に乗車しているのですが、様子がおかしいのです」ー。2004年1月8日深夜、インターネット上の大型掲示板「2ちゃんねる」に、ハンドルネーム「はすみ」さんが書き込んだ投稿が都市伝説「きさらぎ駅」の始まりです。

大型掲示板「2ちゃんねる」の「はすみ」さんの書き込み
大型掲示板「2ちゃんねる」の「はすみ」さんの書き込み
 普段通勤で使用している遠州鉄道(浜松市)の電車に乗っていると、5~8分間隔で停車する電車が20分以上走り続けた後、実在しない「きさらぎ駅」に停車。はすみさんは不思議な体験の後、9日午前3時44分、「(携帯電話の)バッテリーがピンチです。これで最後の書き込みにします」という投稿を最後に消息を絶ちます。
 投稿は、はすみさんが体験を実況形式的に書き込み、掲示板参加者が質問や助言などで反応し、進んでいく展開です。乗車した電車は、はすみさんが「静岡県の私鉄」「新浜松駅」と書き込んでいることから同鉄道とみられています。二つの特徴に一致し、平仮名の駅名があるのは沿線の「さぎの宮駅」だけであることから、この駅がモチーフになったのではないかと考えられています。
 はすみさんは「窓に目隠しがされていて車掌も運転士も見えない」「乗客が皆寝ている」といった車内の様子を伝えます。乗車からおよそ50分後の9日午前0時半ごろ、普段はないトンネルを通過するときさらぎ駅に停車し、はすみさんは電車を降ります。線路をたどって帰宅しようとしますが、太鼓や鈴の音が聞こえたり、片足だけの高齢者を見かけたりするなど、次々と不思議な体験に遭遇します。
 トンネルを抜けたところで「近くの駅まで送ってくれる」という人物に出会うも、山のある方角へ連れて行かれそうになるはすみさん。「すきを見て逃げようと思う」と書き残して投稿は終わります。

モチーフになった遠州鉄道どんな所? 沿線を訪ねた

 「きさらぎ駅」のモチーフになった遠州鉄道沿線はどんな所なのでしょうか。記者が鉄道沿線を訪ね、「はすみ」さんの書き込みで描かれる沿線と比較してみました。

赤電が停車する遠州鉄道新浜松駅。はすみさんはここから乗車した=5月上旬、浜松市中区
赤電が停車する遠州鉄道新浜松駅。はすみさんはここから乗車した=5月上旬、浜松市中区
 はすみさんが乗車した新浜松駅はJR浜松駅に隣接し、沿線で利用客が一番多い駅。はすみさんが乗車したのは午後11時台の電車とみられますが、同鉄道によると、新浜松発の終電(午後11時40分)は平日で70人ほど、土日は300人以上が利用するといいます。
 2両編成(一部時間帯は4両編成)の電車は新浜松から終点の西鹿島まで各駅に1~3分間隔で停車し、さぎの宮駅までは14分で到着します。はすみさんが「返事がなかった」と書き込んだ車内には運転士と車掌が1人ずつ乗車しています。
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さぎの宮駅に到着です

 浜松市街の中心部を走り、住宅街や商店が立ち並ぶ沿線沿いを見送りながら、さぎの宮駅に降り立ちました。はすみさんはきさらぎ駅に停車する前にトンネルを通過したと書き込みましたが、新浜松からさぎの宮までの間にトンネルはなく、また遠州鉄道には全線を通してトンネルは存在しません。このトンネルがきさらぎ駅のある世界への入り口だったのでしょうか。

さぎの宮駅周辺は閑静な住宅街
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さぎの宮駅の外観

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さぎの宮駅構内。奥には住宅地が広がっています

 浜松市東区大瀬町にあるさぎの宮駅。コロナ禍前までは有人駅でしたが、現在は無人駅になっています。駅西側は二俣街道が走り車が行き交い、駅東側は住宅地で静かな雰囲気です。街道側にはコンビニやドラッグストア、駐輪場がありますが、つくられたのは書き込みのあった2004年以降。取材中も駅を利用する数人を見かけた程度で、車の通りはありますが、歩いている人はほとんど見かけませんでした。
 遠州鉄道鉄道営業所の澤井孝光副所長(51)によると、書き込み当時のさぎの宮駅周辺は今よりも田んぼが多く、現在よりもさらに閑静な地域だったそうです。
 駅から数十メートル歩いた街道沿いには、御菓子司「あおい」の本店があります。遠鉄ストアと共同できさらぎ駅にちなんだ切符型のクッキーを開発し、4月から販売しています。1袋9枚入り(税込み626円)。同店とマツモトキヨシさぎの宮駅前店、遠鉄ストア全33店で扱っています。
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発売中の「きさらぎ駅」限定切符クッキー


 遠州鉄道 
新浜松(浜松市中区)-西鹿島(同市天竜区)の18駅、17・8キロを南北に結ぶ。赤い電車が走ることから「赤電」の愛称で親しまれている。これまでにもきさらぎ駅が作中に登場する漫画「裏世界ピクニック」や、アニメ映画「シン・エヴァンゲリオン」とのコラボレーション企画を行ってきた。

6月には実写映画が公開 遠鉄もロケ地として登場

 2004年1月の書き込みから18年。「きさらぎ駅」をテーマにした実写映画が6月3日に公開されます。俳優の恒松祐里さん(23)が自身初の主演を務め、佐藤江梨子さんや本田望結さんらが共演します。

恒松祐里さん
恒松祐里さん
 映画では、恒松さんは卒業論文の題材できさらぎ駅を調べる大学生役。はすみさんのモデルになったとされる女性に出会い、都市伝説の謎に迫っていきます。
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さぎの宮駅に貼られた映画「きさらぎ駅」のポスター=5月上旬、浜松市東区

 遠州鉄道も映画のロケ地として撮影に参加し、実際の車両や新浜松駅が映画に登場します。電車を使用した撮影は営業終了後の深夜帯に行われました。同鉄道鉄道営業所の澤井孝光副所長は「車内のシーンを見れば、遠鉄と気付く人もいるのでは」と話します。
 澤井副所長は書き込み当時、遠鉄の運転士や駅員として勤務していて、リアルタイムできさらぎ駅の反響に接していた一人。当時から遠鉄が話題になっていると社員の間でも話が広がっていたそうです。書き込みから10年ほど経過し、きさらぎ駅のその後に関する新たな書き込みやテレビ番組などで取り上げられたことから、再びきさらぎ駅が注目を浴びるようになり認知が広がったと振り返ります。
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1月に限定販売したきさらぎ駅行きのレプリカ切符

 遠州鉄道が書き込みのあった日に合わせ、今年の1月8日に「きさらぎ」行きのレプリカ切符をさぎの宮駅などで限定販売した際には、同駅東口の外まで長蛇の列ができたそうです。計500枚を用意しましたが、1時間ほどで完売する人気ぶりでした。
 取材に訪れた日も、ファンと思われる人が数人、カメラを片手に駅舎や駅名看板を撮影する姿に遭遇しました。
 澤井副所長は「映画を観て浜松を歩いてみよう、遠鉄に乗ってみようと思ってもらえたら。映画に合わせた関連企画も用意しているので楽しみにしていてほしい」と話しました。