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沼津・高尾山古墳 積年の課題「保存と整備の両立」

 古墳時代初期に造られたとされる沼津市の「高尾山古墳」周辺道路に整備予定の都市計画道路「沼津南一色線」。沼津市は、古墳周辺のおよそ1・1キロ区間を2026年度以降に供用開始する計画を明らかにしました。長年にわたり検討が行われてきた古墳の現状保存と周辺道路の両立を巡る動きについて、1ページで振り返ります。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・村松響子〉

古墳と周辺道路、トンネル構造で両立 2033年前後までの完成目指す

 沼津市は13日、古墳時代初期に造られたとされる前方後方墳・高尾山古墳(同市東熊堂)周辺に整備する都市計画道路「沼津南一色線」について、同古墳周辺の約1・1キロ区間を2026年度以降に暫定2車線で供用開始する計画を明らかにした。貴重な同古墳の国史跡指定に向けた手続きとして、本年度中に文化庁へ意見具申書を提出するとした。

2026年度以降暫定供用する区間
2026年度以降暫定供用する区間
 市議会建設水道委員会・文教産業委員会連合審査会で報告した。整備中の沼津南一色線は古墳を保存するため、東側2車線を橋で、西側2車線をトンネルで回避する計画。本年度に橋の施工に向けた準備工事を開始し、来年度から本体工事に着手する。トンネル工事は26年度以降に着工、33年前後までの完成を目指す。
 史跡指定に向けては、23年度の史跡指定告示を目指し、手続きを進める。古墳周辺の公園整備は、道路工事が一定程度進んだ28年度以降となる。工事中、古墳が立ち入り禁止になる前に市民向けの現地説明会を開く考えも示した。
 〈2022年4月14日 あなたの静岡新聞〉

高尾山古墳ってどんなところ?

 沼津市の愛鷹山の麓に位置する前方後方墳で、全長約62メートル、最大幅約34メートル、周囲の溝幅8~9メートル。築造は230年ごろ、埋葬は250年ごろとされ、東日本最古級、初期古墳としては最大級。墳丘上から掘り込んだ墓坑の中に木棺を直接納める「木棺直葬」が行われたとみられ、発掘調査では埋葬者の権力を示す鉄製の武器や土器が出土した。1982年に沼津市教委の遺跡地図に登録された。

高尾山古墳(2017年12月、静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から撮影)
高尾山古墳(2017年12月、静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から撮影)
 沼津市の都市計画道路「沼津南一色線」の建設予定地にあり、現状保存と道路の両立案について、2017年に市は片側をトンネル構造にして古墳を回避する2本の2車線道路を整備する方針を固めた。当初は調査発掘のため墳丘を取り壊す方針だったが、保存活用を求める声の高まりを受け、史跡指定も視野に現地保存する方針で両立案を模索した。
 〈2017年12月13日 静岡新聞朝刊〉

周辺道路、墳丘傷付けないデザインに コンペで決まる

 沼津市は(2020年2月)28日、3世紀前半に造られたとされる前方後方墳・高尾山古墳(同市東熊堂)周辺に整備する都市計画道路「沼津南一色線」のデザインコンペで、エイト日本技術開発静岡事務所(静岡市葵区)とイー・エー・ユー(東京都)が共同提案した「ふるさとの風景をつくる『みちにわ』」を採用することを決めた。

  選ばれた「みちにわ」は、古墳と神社、周辺道路を一体的な空間として整備し、地域の居場所をつくることをコンセプトに据えた。審査では、古墳を破損せずに橋やトンネルを設置できる▽古墳を主役としたシンプルかつ構造上合理性の高いフォーム▽橋に古墳を見渡せる歩道を取り付け、回遊性や安全な動線を確保した-などが評価された。
  沼津南一色線は国道1号と同246号を結ぶ4車線道路。市は西側2車線がトンネルで古墳の真下を通過し、東側2車線は橋を架けるという整備方針に基づき、古墳の利活用を含めた幅広いアイデアを募った。橋とトンネルを対象にした工事では全国初というデザインコンペを実施。専門家による評価委員会と公開プレゼンテーションを経て、7点の応募者から最優秀提案を決定した。
 〈2020年2月29日 静岡新聞朝刊〉

混雑解消、景観配慮...沼津市民から早期整備求める声が上がっていた

 古墳時代初期に造られたとされる前方後方墳「高尾山古墳」(沼津市東熊堂)付近の交通渋滞や事故に悩む地元住民は(2017年12月)13日、「早く道路を整備してほしい」と切望した。墳丘の現地保存を訴えてきた市民も問題解決への動きを評価しつつ、古墳を傷つけないことや景観への配慮などを求めた。

混雑する高尾山古墳(手前)付近の道路。周辺の住宅街に車が進入することも多い
混雑する高尾山古墳(手前)付近の道路。周辺の住宅街に車が進入することも多い
  古墳周辺は朝夕、国道1号や県道の混雑が激しく、生活道路に車が進入するケースが後を絶たないという。事業着手から20年が経過し、東熊堂自治会で沼津南一色線対策委員長を務める杉山僖沃さん(70)は登下校時の子どもの事故を心配する。整備案について「譲り合わなければいけない部分もある。今後はとにかく早く、安全な道路を整備してほしい」と話した。
  一方、古墳の現地保存を求める「高尾山古墳を守る会」の杉山治孝会長(84)は「日本史の考証や『スルガ』の国の成り立ちに関わる大変貴重な古墳」と強調し、「今後の活用方法や景観に配慮が必要だ」と指摘した。
  古墳保存への機運が高まる中、新たな動きも出始めた。市民グループ「Code for Numazu(コード・フォー・ヌマヅ)」は4月、高尾山古墳を筆頭に市内の史跡を調査しインターネット上の百科事典「ウィキペディア」に入力する取り組みを開始。中立的に論点や事実を書き出し、膨大な量の情報を公開した。
 〈2017年12月14日 あなたの静岡新聞〉