進む盛り土規制強化 ポイントは?
昨年7月に発生した熱海市伊豆山の大規模土石流の被害を拡大させたとされる盛り土の規制強化に向けて静岡県や国が対策を進めています。不適切な盛り土の造成を規制するほか、県が設置を表明した新たな庁内組織は、縦割り行政の弊害も改善するのが狙いです。盛り土対策のポイントや背景をまとめました。
〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉
「水循環保全本部」設置へ 開発行為や土地取引の情報を一元化
静岡県議会2月定例会は25日(※2月)、本会議を再開し、自民改革会議の飯田末夫氏(浜松市南区)が代表質問を行った。難波喬司副知事は熱海市の大規模土石流災害を契機に浮上した縦割り行政の弊害を改善するため、開発行為や土地取引の情報を一元化する「県水循環保全本部」を設置することを正式に表明した。

昨年10月に設置した危険性のある盛り土の通報システム「盛り土110番」については、4月からくらし・環境部内に新設する盛土対策課に窓口を一本化する。市川敏之くらし・環境部長は「緊急を要すると判断した事案は直ちに現場に急行し、許可の有無や安全性を確認するとともに、状況に応じてさらなる土砂搬入の阻止、逃走車両の追跡など徹底して対応する」とした。代表質問は午後も行われ、ふじのくに県民クラブの田口章氏(浜松市西区)が登壇する。
〈2022.02.25 あなたの静岡新聞〉
国も規制法案を閣議決定 無許可造成に罰金3億円 来夏施行へ
政府は1日、熱海市の土石流被害を踏まえた盛り土規制法案を閣議決定した。都道府県などが指定した区域内の盛り土を許可制にし、全国一律の規制を適用。無許可造成や是正命令違反をした法人に最高3億円の罰金を科すなど厳罰化する。来年夏の施行を目指す。

都道府県や政令指定都市、中核市は、盛り土の崩壊で住宅に被害が出る可能性がある場所を規制区域に指定。区域内の宅地造成や残土処理は、排水設備の設置といった要件を満たさなければ許可しない。自治体は、工事途中や完了段階で安全性を検査し、問題が見つかれば土地所有者や施工業者らに改善命令を出す。
現行法では、個人、法人問わず「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」にとどまる罰則も改正。個人は「3年以下の懲役または1千万円以下の罰金」に引き上げるとともに、法人には、最高3億円の罰金を科す規定を新設する。
■「喫緊の課題」 国交相
斉藤鉄夫国土交通相は1日の閣議後会見で、政府が閣議決定した盛り土規制法案について「熱海市で発生した土石流災害をはじめ、全国各地で盛り土の崩落による人的、物的被害が確認されている。盛り土による災害の防止は喫緊の課題」と指摘。国民の生命を守る観点から「危険な盛り土を全国一律の基準で、包括的に規制する法制度を整備する」と述べた。
〈2022.03.01 あなたの静岡新聞〉
自治体単独では規制限界、求められる法整備と縦割り改善
甚大な被害をもたらした熱海市伊豆山の土石流災害。国や静岡県は被害を拡大させたとされる盛り土の規制強化に向けて検討を急ぐが、関係法令の多さと行政手続きの複雑な権限が課題になっている。法の網をすり抜ける悪質な行為を止めるには自治体単独の規制では限界があり、県と市町からは、土砂の排出元規制など全国一律の法整備を求める声が上がる。

不正な残土の取り締まりに力を入れる富士市の担当者は「残土ビジネスは年に億単位の利益を生むので、悪質な業者は条例を意に介さない。静岡県が罰則を強化すれば罰則の弱い他県に流れる」と法律による全国一律の罰則強化を求める。

■縦割り行政の弊害
行政手続きの権限は規模などに応じて県と市町に分かれている。関係法令ごとに目的や技術的基準は違い、自治体内で担当部署も異なるが、情報共有などの調整が必須になる。
一方、小規模な市町は職員が1人でいくつもの仕事を兼務する。県東部の自治体職員は「十分に対応する余裕はない。庁内の横の連携にも苦慮している」と負担感を示す。別の市の担当者は「県との連携が弱い」と指摘。将来的に県の出先機関が関係法令に一元的に対応する体制を取るよう提案する。
■危険性の判断、困難
業者が行政の是正指導に応じない場合、緊急性があると判断すれば行政代執行で盛り土を撤去する選択肢もある。ただ、費用に税金が充てられ、訴訟リスクもあるためハードルが高い。「直ちに崩れそうかどうかを判断するのは非常に難しい」と県東部の自治体関係者。最近の豪雨多発を踏まえて「これまでの経験は通用しない」という声も聞かれる。
藤倉まなみ桜美林大教授(環境学)は問題の本質は残土の排出元にあるとし、「残土を出す側が罰則を受ける仕組みを法律で作らないといけない」と法整備の必要性を指摘する。その上で「土地改変に着目するのではなく(規制の強い)廃棄物のように、動く土砂に着目して規制を徹底すれば(自治体の関係部署間の連携は)それほど問題にならない」としている。
〈2021.08.25 あなたの静岡新聞〉
盛り土工事、未完で売買 契約仲介者が証言 進む百条委員会
熱海市伊豆山の大規模土石流の起点となった盛り土部分を含む土地について、旧所有者の不動産管理会社(神奈川県小田原市)が熱海市に届け出ていた工事が完了しないまま現所有者が購入していたことが3日、同市議会の調査特別委員会(百条委員会)で明らかになった。参考人として出席した不動産業者の元代表が証言した。

説明書では、旧所有者が土地の引き渡しまでに盛り土を成形して硬化剤で固めることや、工事終了後に遅滞なく完了届を提出することを現所有者と確約することを記載。「市の指導がない限り、私の私見で書けることではない」と述べた。
旧所有者は当初、約6億5千万円で35万坪(約1・2平方キロメートル)の土地を売ろうと考えていたが、債務返済に追われていたこともあり、工事が完了しないまま現所有者が提示した3億円で売却した。元代表は、現所有者が購入した理由は「分からない」と述べた。
百条委の稲村千尋委員長は「計画していた盛り土の高さを大幅に上回ったまま、盛り土を固めるだけで工事完了と認めると市が説明していたのであれば、重大な問題」と指摘し、市当局に確認する考えを示した。
百条委は17、18日にも参考人を招致し、盛り土を造成した工事関係者や起点周辺の開発に関わった設計業者らに事情を聴く。
■捜査求め情報提供 15年に不法投棄記事の執筆者
百条委では、熱海市伊豆山の土地に「産業廃棄物が不法投棄されている」との情報提供を県や県警に2015年に行い、本格捜査などを求めたジャーナリストの原中栄伸さん(東京都)も参考人として証言した。
原中さんは、大規模土石流の起点となった盛り土部分を含む土地を11年まで所有していた不動産管理会社の代表(71)らが、熱海市日金町の元ホテルの社員寮の解体で生じた廃棄物を伊豆山に不法投棄したなどと報じる記事を15年に執筆。同年4月に県東部健康福祉センターを訪ねたほか、投棄の実行者ら2人とともに熱海署なども訪ね、指示した人物と思われた代表の捜査に乗り出すよう進言した。
原中さんによると、担当捜査員は「(代表からの)指示書はあるか」などと確認。関係者によると、捜査員は時効成立の可能性もあったため、現地を確認して実行者らへの聴取も慎重に行ったが、最終的に事件化を見送った。投棄の具体的時期などが明確にできなかったためとみられる。
原中さんは、一連の取材を通じて知った代表の手口を挙げて「最初の許認可申請の段階で『自由同和会』の名刺を出し、後は部下が(交渉に)行き、自分は一切出てこない」と指摘し、「脅すのは申請時。これが圧力になった」と強調した。
〈2022.03.04 あなたの静岡新聞〉