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静岡ダービー直前 SBSアナウンサー対談まとめ読み

 あす26日は3季ぶりとなるJ1磐田、清水の静岡ダービー(エコパスタジアム、午後1時半キックオフ)。今回のダービーは「静岡新聞SBSマッチ」。SBSはテレビ、ラジオで実況生中継します。ラジオで「ダブル実況」を担当する大石岳志、岡村久則の両アナウンサーとダービーの歴史や魅力、今回の試合の注目ポイントなどを掘り下げました。進行はSBSテレビ「みなスポ」担当の山﨑加奈アナウンサーです。3回連載でお届けした対談を、この1ページに凝縮してお届けします。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・松本直之〉

⚽死力尽くす一戦 静岡ダービーとは

静岡ダービーの実況に向け気合を入れる(左から)大石岳志、山﨑加奈、岡村久則の各アナウンサー(撮影時のみマスクを外しました)
静岡ダービーの実況に向け気合を入れる(左から)大石岳志、山﨑加奈、岡村久則の各アナウンサー(撮影時のみマスクを外しました)
山﨑加奈 私は入社3年目で静岡ダービーは2019年しか知らなくて。今回3年ぶりの対戦が迫ってきて、周りの盛り上がりに改めてびっくりしているところです。大石さんは初のダービーの時、すでにアナウンサーとして活躍されてましたよね。
大石岳志 1993年10月16日、当時のナビスコ杯予選リーグでの対戦が初の公式戦での「ダービー」でした。杉本雅央選手(93〜96年在籍)と内藤直樹選手(92〜95年在籍)の得点で最初のダービーは清水が制しました。激闘を物語るように警告が両チームに4枚ずつ、磐田はカルロス・アルベルト選手(前身ヤマハ発88年〜93年在籍)が退場にもなり、相当エキサイトした試合だったなというのを覚えています。
山﨑 岡村さんは、出身は愛知県名古屋市ですよね。静岡に来て、ダービーの盛り上がりをどう感じていましたか。
岡村久則 ダービー以前にまず静岡のサッカー熱に面食らいましたよね。月曜日に出社すると、周囲の誰もが週末のJリーグについて語っていました。「ボランチのポジショニングがどうだった」とか、「DFラインのコントロールが甘かった」とか。野球実況を志しアナウンサーを目指した私には当初、全然付いていけず。これはとんでもない所に来てしまったなと思いました(笑)。でも取材を重ねるうち、みるみるサッカーに引き込まれました。伝説のJリーグチャンピオンシップをスタジアムで体感し震えたのは入社2年目、99年でした。 
大石 日本一を県勢2チームが争うたまらない試合でした。私はラジオ実況という立場であの大一番に立ち会っていました。
岡村 私もその時の雰囲気、今でもはっきり覚えています。普段はお祭り的な雰囲気もあるダービーですが、あの試合は勝負へのこだわりがサポーターにもあふれていました。個人的には第2戦、沢登正朗選手(93〜2005在籍、現清水ユース監督〉が直接フリーキックを決めたあの瞬間、気迫あふれる姿にぞくっとしました。 ああいう熱戦をまたダービーで見たいです!
山崎 チーム、選手にとってもダービーは特別なんでしょうね。
大石 まさに死力を尽くす戦い。その時の順位や、そこまでの調子なんて関係ない。意地でも負けたくないという思いをひしひしと感じます。 
山﨑 鹿児島キャンプ中の今年2月1日に行われた練習試合で両チームは対戦し、この時は磐田が勝利しましたね。
岡村 練習試合だから関係ないと思うかもしれませんが、両チームはそうは思えない。J3松本の名波浩監督は14〜19年の磐田監督時代、「清水にはじゃんけんだって負けるな」と選手にハッパを掛け、ライバル意識を持たせていました(笑)
山﨑 ダービーで印象に残っている選手はいますか?
大石 ダービーで活躍する選手を「ダービー男」と言うんだけど、磐田だと90年代はスキラッチ選手(94~97年在籍)で11得点、決定力が群を抜いていました。ダービー通算最多得点は磐田の中山雅史選手(94~2009年在籍)で14点、まさにダービー男だよね。清水の「ダービー男」はチョ・ジェジン選手(2004〜07年在籍)かな。通算5得点、勝負強さが光っていました。
岡村 チョ・ジェジン選手は07年、私のダービー初実況の試合で得点を決めたのでとても印象に残っています。試合終了間際のダイビングヘッドでした。
山﨑 サポーターにとってもダービーは特別なんでしょうね。
大石 取材で清水の練習場へ行くと、サポーターが用意した横断幕が掲げられているんだけど、あるダービーでは「狙うは磐田の首一つ」と書かれていたんだよね。サポーターのこの一戦にかける想いの強さを感じたね。
岡村 確かにダービーの時の横断幕は普段の何倍もの数がありましたよね。練習場の壁を横断幕がぐるっと1周埋めるくらい。
山﨑 試合当日もサポーターの熱量はすごいんでしょうね。 
岡村 今回(26日)はエコパが会場。コロナ禍で満席とはいかないでしょうが、01年5月のエコパこけら落としのダービーはすごかった。52959人のサポーターが詰めかけて壮観だったなあ。またそういうダービーが見たいですね。
大石 ダービーは応援も魂を感じるよね。清水はサンバのリズムに乗った応援でスタジアムの空気を変えていくし、磐田もチャントで応戦し選手の背中を押しているね、取材に来た他県のアナウンサーがスタジアムの雰囲気にびっくりしていたからね。

略歴
大石岳志(おおいし・たけし) 1984年に静岡放送入社。長年、テレビ、ラジオのスポーツ実況で活躍する「レジェンド」アナ。1996年のラジオでの伊藤圭介アナとの静岡ダービーダブル実況で「JRN・JNNアノンシスト賞」最優秀賞受賞。
岡村久則(おかむら・ひさのり) 1998年に静岡放送入社。サッカー、野球、陸上などで豊富な実況経験を有する。趣味は息子と遊ぶこと。テレビのJリーグ実況で「JRN・JNNアノンシスト賞」優秀賞を2回獲得。
山﨑加奈(やまざき・かな) 2019年に静岡放送入社。スポーツ大好き、SBSテレビ「みなスポ」(土曜午後5時)など担当。高校時代ソフトボール部で4番サード。

⚽静岡ダービー名物 ダブル実況とは/実況の舞台裏は

実況資料を囲み対談する(左から)山﨑加奈、大石岳志、岡村久則の各アナウンサー
実況資料を囲み対談する(左から)山﨑加奈、大石岳志、岡村久則の各アナウンサー
山﨑加奈 SBSラジオの「ダブル実況」。どういうスタイルか改めて教えてください。
大石岳志 解説者と実況アナで進めるのがサッカー中継の基本ですが、ダブル実況は2人のアナウンサーがそれぞれの担当チームを応援しながら実況します。自分の担当チームがボールを持っている時だけしゃべり、ボールが相手に渡ったら黙るというのがルール。解説者はいません。
岡村久則 今回は磐田を大石アナが、清水を私が担当します。
山﨑 SBS名物で、全国を見てもあまり聞いたことがない形ですよね。
大石 1996年11月9日の静岡ダービーで誕生しました。先輩アナウンサーがダービーを盛り上げる企画をと思い付き、その先輩と私で初めてやりました。サッカーでこういう形で始めたのは恐らく日本で初めてだと思います。年に多くて2回、お祭り的なダービー中継の代名詞になっていますね。
山﨑 いつもの実況との違いは?
岡村 やっぱり相手のアナウンサーを意識しますよね。相手が上手に情景描写をしていたりすると、「負けられない」といつも以上に力が入ります。得点シーンで、相手よりも「ゴール」の声を大きく言ってやろうなんて思うこともありますよね(笑)。
大石 自分の担当チームが劣勢でも、放送上では優位に立とうとします。ちょっとでも有利に感じられる情報や過去のデータをお伝えするようにしたりますね。
山﨑 先輩や後輩でのダブル実況は気を遣いますか?
大石 先輩と担当する時、言い過ぎすると放送席が微妙な空気になってくるし、でもバトルしないとダブル実況の面白味がなくなるし。後輩との際は、少し大人の対応でやりやすい雰囲気を作りますよ。でも担当チームが得点を決めたらしゃべり倒しますけど(笑)
岡村 やっぱり気を遣いますよね。私は2007年9月1日のエコパでの試合で、静岡ダービーを初実況しました。テンポよく実況する磐田担当の先輩アナウンサーに正直、気後れしながら話していました。試合終了間際にチョ・ジェジン選手が決勝点を決め、最後の最後、どうにかこうにか形になるゴール実況ができたと思えました。実況をしていく自信が付いた経験でした。チョ・ジェジン選手のあの得点は、チームも、私も、救ってくれました。
大石 放送席もダービーしているよね。実況アナの誇りを懸けたね。
岡村 それでも相手のチームのミスを喜んだりする実況は誰もしませんよね。むしろ見事な得点には担当関係なく、そのゴールの素晴らしさをたたえます。
山﨑 私も精進して、いつかチャレンジできるかな。お互いにどういう実況アナウンサーと見ていますか。
大石 岡村アナはさまざまな競技の実況を経験していて、安定感があります。スポーツ実況のオールラウンダーです。
岡村 大先輩に褒められ照れくさいです。大石アナは、実況の教科書ともいうべき端正な実況をされます。非の打ち所がない実況です。30歳でJリーグ初実況の際、数カ月間集中的に指導してもらい基本を教えていただきました。尊敬するアナウンサーです。
山﨑 ダービーの実況にはお2人とも特別な思いを持たれているんですね。
大石 まさにアナウンサー冥利。白熱する試合、放送席でもアナウンサー同士がバトル。でも最後にはともに勝者をたたえ、敗者には次節への期待をしっかり届ける。ノーサイドの精神を持ってやっています。
岡村 SBSのスポーツアナウンサーとして最高の舞台。他の試合とは違う緊張感、ワクワク感に奮い立たされます。今回(26日)は私の実況の師匠、大石さんとのバトルが楽しみです。チャレンジャーの気持ちで臨みます。

 ■実況の舞台裏 資料作り念入り

山﨑 私は昨年、しずおか市町対抗駅伝で初めてスポーツ実況をしました。事前に作った資料の1割もしゃべれませんでした。お二人はどんな準備をして実況に臨んでいますか。
大石 私は担当の試合の1カ月前くらいから準備に入ります。恐らく他の人より早く準備を進めるタイプかな。細かい所まで調べて資料に落とし込んでいきます。
岡村 私は資料作りは1週間前くらいからスパートを掛けます。ただ、全体の流れをつかむために、情報はシーズン通してチェックし続けていますね。資料は結構な量作りますが、実況中はあまり見ませんね。作成しながら頭に叩き込んでいくイメージです。
大石 そう、作りながら覚えていくよね。私は試合当日、スタジアムに必ず持っていくのがはさみとのり。試合のメンバーが発表されたら、事前に作成しておいた資料を切ったり貼ったりして時間ギリギリまで最後の仕上げをします。
山﨑 実況はどんな練習をしているんですか
岡村 前の試合の映像を見ながら練習したり、自分の中で仮想の試合展開を作りながら、選手の動きを口ずさんで喋る練習をしています。放送に出ていない時間は何しているんですかとよく聞かれるんですが、実はそういう準備に費やす時間の方が長いです。

⚽3季ぶり静岡ダービー 見どころは【SBSアナウンサー対談㊦】

対談する(左から)大石岳志、岡村久則両アナウンサー
対談する(左から)大石岳志、岡村久則両アナウンサー
山﨑加奈 それぞれ今季のチームの特徴は?
大石岳志 磐田は伊藤彰新監督が就任し、メンバーも昨季から少し入れ替わりました。伊藤監督が甲府の監督時代にも用いていた攻守で布陣を変える可変システムを落とし込み、昨季よりもチームとして戦術的に動いていくんじゃないかな。
岡村久則 清水は平岡宏章監督が続投。清水ユースを指導していた当時の教え子たちが今、トップチームに在籍しています。選手を鼓舞しチームに一体感をもたらす手腕に優れている監督です。。今季は「攻撃力を高め、ボールを保持するサッカー」を掲げてチームづくりをしてきました。
山﨑 磐田は昨季J2得点王のルキアン選手がJ1福岡に移籍しましたね。
大石 そうですね。ただ、元日本代表の杉本健勇選手が加入しました。長身で技術も高い点取り屋です。その経験をいかんなく発揮しエースとして活躍してほしいです。そして横浜FCから完全移籍のジャーメイン良選手。開幕節で値千金の同点弾を決めて、早速勝負強さを見せサックスブルーサポーターの心を掴みました。ファビアンゴンザレス選手も来日2年目の今季本領発揮をすれば、ルキアン選手の昨季22得点の穴を埋めていけるでしょう。あと、シャドーのポジションは大激戦。山田大記選手、大津祐樹選手、金子翔太選手等々、誰がレギュラーをつかみ前線の選手とどう絡んでいくか楽しみです。一方、守備は大井健太郎主将中心にしっかりと守っていってくれるはず。
山﨑 清水で期待する選手は?
岡村 まずは4年ぶりに清水に帰ってきた白崎凌兵選手。かつての清水の背番号10の帰還はサポーターには朗報ですし、彼の長短のパスでのチャンスメイクや、自らゴールを狙うプレーは期待大です。そして、今年日本代表合宿に初参加した鈴木唯人選手に私は期待しています。開幕節の見事な抜け出しからの力強い同点弾、素晴らしかったですね。放送席から実況していて、鈴木選手は20歳とは思えない存在感を放っているなといつも感じます。技術はもちろん、堂々としているその様子に、ピッチの王様のオーラを感じます。中盤には同じく代表合宿に参加した松岡大起選手、頼りになる竹内涼選手など好選手が揃っています。そして、日本代表GK権田修一選手。今年もチームを最後方から鼓舞します。
山﨑 今回の「ダービー男」候補は誰とみていますか?
大石 磐田は山田大記選手ですね。今いる両チームの選手のうち、ゴールを決めたダービーマッチで「負けなし」なのは、山田選手だけ。コンディションなどの影響で開幕戦メンバーから外れましたが、ダービーで復帰してくれば、必ずやってくれると注目しています。
岡村 清水は今年復帰した高橋大悟選手。2019年から期限付き移籍した北九州で攻撃の軸として活躍し、昨季はJ2で10得点。ぜひ出場して「ダービー男」に名乗りを上げてほしい。期待を込めて、そう願っています。
大石 磐田は元祖「ダービー男」中山雅史コーチがベンチにいますからね。チームに大きなパワーを届けてくれるはずです。
山﨑 勝負のポイントはどこですか?
大石 先制点です。リーグ戦では過去50回の対戦があり、磐田は先制すると84%の勝率です。
岡村 清水もダービーで先制すると77%の勝率。確かに先制点は注目ですね。
山﨑 改めて3季ぶりのダービー、どんなゲームを期待しますか?
大石 今年目指すサッカーでともにスリリングな展開を目指してほしいですね。熱い中にもクリーンな試合をしてほしいと思っています。今季、清水から磐田に完全移籍した金子翔太選手の古巣への決別ゴールも見てみたい!
岡村 さすが静岡サッカーの最高峰の舞台、と言われるような試合を期待しています。選手がきっと体現してくれるはず。第2節で迎えるダービー、勝てば開幕ダッシュの勢いを付けられると思います。
山﨑 スコア予想もしておきましょうか。担当チームびいきになるかもしれませんが。
大石 ダービーは1点差の接戦が多いので、今回は磐田の2-1の勝利を予想します。磐田が先制し清水に追いつかれるも、劇的ゴールで勝利です。
岡村 私も内心接戦かなと思いますが、せっかくですので、思い切りひいきをして5-1で清水の勝利とします。清水は過去に2回、このスコアで勝っています。2009年の試合では当時の長谷川健太監督が勝利に興奮し「勝ちロコ」に参加しました。クラブ創設30周年を迎えた清水のサポーターへの贈り物となるような試合になるといいですね。
大石 きっと好ゲームになるだろうから、我々も気合を入れて実況しよう!
岡村 よろしくお願いします!負けませんよ!!
 
 ■静岡ダービー SBSテレビ・ラジオ生中継
 2月26日(土)J1リーグ第2節「ジュビロ磐田ー清水エスパルス」は袋井・エコパスタジアムで午後1時半キックオフ。「静岡新聞SBSマッチ」として行われ、SBSはテレビ、ラジオで実況生中継を行う。
 ラジオは大石岳志アナと岡村久則アナのダブル実況。テレビの解説は、松原良香氏と福西崇史氏。テレビの副音声では、初の試みとしてラジオのダブル実況を放送する。
 
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