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パートナーシップ宣誓制度 導入に向けて

 静岡県は2022年度中の導入を目指す「パートナーシップ宣誓制度」に、宣誓カップルの子どもを含めて家族関係だと認める「ファミリーシップ」の規定を盛り込む方針です。4月から制度を導入する静岡市では事実婚も家族認定する考えです。制度の普及には私たち市民の理解が欠かせません。県内の状況をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉

宣誓カップルの子も家族 骨子案に新規定 県のパートナー制度

 静岡県はジェンダー平等と性の多様性を認め合う共生社会の実現を目指し、2022年度中の導入を目指す「県パートナーシップ宣誓制度」に、宣誓カップルの子どもを含めて家族関係だと認める「ファミリーシップ」の規定を盛り込む方針を固めた。4日に県庁で開いた県男女共同参画会議で、制度の骨子案を明らかにした。

静岡県庁
静岡県庁
 都道府県単位の広域的な制度は今年1月現在、茨城県や大阪府など5府県が導入しているが、いずれもファミリーシップに関する規定はない。同居の子どもが医療機関に救急搬送された場合、家族関係を証明できず対応に苦慮する恐れがあるとの声を踏まえ、県はファミリーシップを定義づけることにした。
 骨子案によると、パートナーシップの宣誓要件は同性カップル、トランスジェンダーの異性カップルなどで戸籍上の性や性的指向、性自認を問わない。県の男女共同参画課や総合庁舎で宣誓書を受け付け、A4判の受領証と運転免許証サイズの受領カード2枚を交付する。宣誓カップルが婚姻カップルと同等に利用できる県の行政サービスについては、公営住宅への入居申し込みなどが想定される。
 パートナーシップ宣誓制度を巡っては、浜松市と富士市が導入済みで、静岡市と湖西市が4月から運用を開始する予定。県は4市の先行事例を参考にしつつ、このほかの市町でも活用しやすい制度設計を目指す。
〈2022.02.05 あなたの静岡新聞〉

事実婚も家族認定 静岡市、4月から制度導入

 静岡市はこのほど、性的少数者(LGBTQ)のカップルなどの関係を公的に認めるため、2022年4月から導入を目指す「パートナーシップ宣誓制度(仮称)」の骨子案を示した。事実婚のカップルも対象で、現行の婚姻制度を利用できない市民の生きづらさの解消につなげる。

静岡市パートナーシップ宣誓制度の要件の骨子案
静岡市パートナーシップ宣誓制度の要件の骨子案
 宣誓できるのは少なくとも一方が市内に在住または転入予定である未婚の成人(18歳以上)。宣誓者以外とパートナーシップの関係になく、宣誓者同士が民法上の近親者でないことも条件とした。パートナーと生計を共にする未成年の子どもについても、宣誓すれば家族としての関係を認める。
 住所や独身を証明する住民票や戸籍抄本を提出し、認められれば証明書を交付する。市営住宅での同居や市立病院における手術などでの親族としての同意を可能にする方針で、民間企業への働き掛けも行っていくという。
 市は22年1月11日まで、骨子案に関するパブリックコメント(市民意見公募)を実施している。電子申請のほか、郵送や持参、ファクスなどで提出する。
 問い合わせは市男女共同参画課<電054(221)1349>へ。
〈2021.12.18 あなたの静岡新聞〉

 ■湖西市もことし4月から導入
 湖西市は10日(※2021年6月)、市議会6月定例会の一般質問で、法律上婚姻できない性的少数者(LGBT)のカップルを公認する「パートナーシップ制度」の来年4月導入を目指して検討していると明らかにした。
 同制度は結婚する夫婦と同様の状況にあるLGBTのカップルの宣誓を受け、証明書を発行する。市は市営住宅への入居可能条件に含めるなど、行政サービスにも活用できるようにしていきたいという。市によると、全国で約100自治体が既に導入していて、県内では浜松、富士の両市。福永桂子氏(無所属)への答弁。
 また、市は国の方針に基づき脱炭素化を推進する意向を示した。事業者に対する再生可能エネルギーの導入支援、公用車のエコカー導入などを検討する。影山剛士市長は、脱炭素化に対応できない企業はサプライチェーン(供給網)から除外されかねないとし、「市のものづくり産業が持続的に発展していくため、特に財政基盤が弱く、単独での取り組みに限界がある中小企業への支援は不可欠」と答弁した。楠浩幸氏(無所属)の質問に答えた。
 加藤弘己、滝本幸夫(いずれも無所属)の両氏も登壇した。
〈2021.06.11 あなたの静岡新聞〉

県内では浜松市が初 宣誓すると受領証を交付

 浜松市は1日(※2020年4月)、性的少数者(LGBT)や事実婚のカップルを公認する「パートナーシップ宣誓制度」を施行した。同制度の導入は県内自治体では初めて。初日は4組のカップルが宣誓し、公認を示す受領証が交付された。市役所1階ロビーでセレモニーも行われ、氏名などの公表を受け入れたカップル2組が鈴木康友市長から受領証を受け取った。

パートナーシップ宣誓書受領証を手にする(左から)鈴木げんさん、国井良子さん、加藤千恵子さん、山本海行さん=1日午後、浜松市役所
パートナーシップ宣誓書受領証を手にする(左から)鈴木げんさん、国井良子さん、加藤千恵子さん、山本海行さん=1日午後、浜松市役所
 宣誓第1号のカップルとなったのはトランスジェンダー(性別越境者)の男性として生きる自営業鈴木げんさん(45)と性的少数者ではないフリーライター国井良子さん(47)。鈴木さんは浜松TG(トランスジェンダー)研究会の代表者で、セレモニーには性的少数者や支援者ら十数人が祝福に駆け付けた。
 鈴木さんは「この制度によって性的マイノリティーが社会に多く存在していることを知ってほしい。浜松に幸せなカップルが増えてほしい」と語った。
 共に県立高教諭の山本海行さん(59)と加藤千恵子さん(51)の事実婚カップルも宣誓した。加藤さんはこれまで人生で使ってきた名前を変えたくない思いから、結婚を望まない考えを語った。「彼が病院で手術を受ける時、仕事を休んで立ち会いたかったが、職場からは『結婚相手でもないのに』と理解を得られなかった」と話し、パートナー関係が認められて「震えるほどうれしい」と喜んだ。
 制度施行に合わせ、市はこれまで夫婦や親族に限定していた市営住宅の入居要件を条例改正で緩和し、宣誓カップルも入居可とした。今後多様な施策への反映を検討していく。
 〈2020.04.02 静岡新聞朝刊〉

 ■パートナーシップ宣誓制度って?
 性的少数者(LGBT)らのパートナー関係を自治体が公的に証明する制度。カップルが互いに人生のパートナーとして協力し、継続的な共同生活を送ることを署名により宣誓する。2015年11月、東京都渋谷、世田谷両区が全国で初めて証明書交付を始めた。政令市では札幌、福岡、大阪、千葉、堺、熊本の6市が制定済み。これまで制定した自治体の多くは、条例ではなく要綱で運用ルールを定めている。
〈2019.06.06 静岡新聞朝刊〉

「同性間の恋愛もある」 市民の理解が不可欠

 性的少数者(LGBT)などのカップルを公認するパートナーシップ宣誓制度導入を巡る昨年10月の浜松市議会一般質問。市議の1人が手厳しい質問を市側にぶつけた。

「多様性を認め合う社会になってほしい」と語る笹原恵副学長・教授=24日、浜松市中区の静岡大浜松キャンパス
「多様性を認め合う社会になってほしい」と語る笹原恵副学長・教授=24日、浜松市中区の静岡大浜松キャンパス
 「受け入れる市民にも広い理解が必要ではないのか」
 市民の理解度は不十分で、真に共生していくための制度設計も不透明。導入は時期尚早では―と懸念しての質問だった。
 市男女共同参画審議会でも、会長の犬塚協太県立大教授は性的少数者について「まだ偏見や無理解も多い。市民啓発とセットで取り組んでほしい」と市に対して注文を付けた。
 市民に理解を広めてから制度を作るべきなのか、制度を作ることで理解が広まるのか―。市民や関係者の間でも見方は異なる。
 ジェンダー論や家族社会学を専門とする静岡大の笹原恵副学長・教授は「法律で同性婚が認められていない日本では、まず市民が『同性間の恋愛もある』ことを理解するのが第一歩。その認識を当たり前にしていくのがパートナーシップ宣誓制度」と説明する。行政が同性カップルを公認することで社会へのアピールと認知度向上につながると期待する。
 人が異性を好きになるか、同性を好きになるかは自分で選ぶことができない。笹原副学長・教授は「自分の性的指向に悩んで生きづらさを抱える人たちはパートナーシップ宣誓制度で生き方が肯定され、つらさも軽減されるはず」と制度の必要性を説く。
 2015年4月、全国で初めて東京都渋谷区がパートナーシップ宣誓制度を施行。その後5年間で大阪府や茨城県、8政令指定都市など34以上の自治体が導入した。東京五輪・パラリンピックが「多様性と調和」を大会ビジョンとしたことも追い風となり、急速な広まりを見せている。
 県内では富士市が21年度の開始を目指し、県市長会では全県同一の制度を提案する声もある。先陣を切る浜松市の担当者は「偏見、差別を解消し、誰もが自分らしく生きられる社会を実現できるような制度に」と目標を掲げ、4月1日のスタートに臨む。
〈2020.03.29 静岡新聞朝刊〉