脱炭素の取り組み 静岡県内で広がる
地球温暖化の原因となる二酸化炭素などの排出を抑える「脱炭素化」への取り組みが、静岡県内で進んでいます。政府は、2050年の温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すと宣言しています。一方、実現にはコストの問題など、一筋縄ではいかない課題もあります。県内の現状をまとめました。
〈編集局未来戦略チーム・石岡美来〉
中小企業の脱炭素支援 静岡県、予算案に6億円計上へ
静岡県は2022年度、脱炭素に取り組む中小企業の支援に力を入れる。空調やボイラーなど省エネ設備の導入に対する補助制度を新設するほか、人材育成やワンストップ相談窓口を担う「二酸化炭素(CO2)削減取組支援センター(仮称)」を新設する。編成中の22年度一般会計当初予算案に関連事業費約6億円を計上する方針。2日(※2022年2月)までの関係者への取材で分かった。

脱炭素化への対応は余力がある大企業と違い、中小企業は活発とは言い難い。静岡経済研究所が21年に自動車関連の中小企業を対象に実施した調査では、「製造段階でのCO2排出量の算定」を実施済みは9・7%、「燃料の転換によるCO2削減」の実施済みは5・0%にとどまった。何から手を付けていいのか分からないという中小企業は多いとされ、新たに設置する支援センターが支援のプラットフォームの役割を担う。
新設する補助制度では、省エネ機器の導入に対し200万円を上限に、購入費の3分の1を補助する方向で検討している。支援センターは中小企業の相談に対応できる専門家や脱炭素に取り組む中小企業の担当者などの人材育成を担い、省エネ支援員の派遣など既存の専門家派遣事業を拡充し、脱炭素に向けた計画づくりや省エネ診断にも力を入れる。
脱炭素を巡っては、国が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを宣言した。これに呼応し、川勝平太知事は21年2月、県内でも50年までに実質ゼロにすることを表明している。
〈2022.2.3 あなたの静岡新聞〉
清水港も脱炭素化へ 全国に先駆け、水素利用推進
静岡市の清水港で、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)排出ゼロを目指す官民の検討会が今月(※2021年11月)発足する。関係者への取材で8日(※2021年11月)、分かった。「カーボンニュートラルポート(CNP)」を目指す官民の検討会設置を後押しする国の制度が2022年度にできることを見越した動き。中部横断自動車道の開通などで一層の利用促進が期待される清水港で、全国に先駆けて手を上げ、採択を目指し、環境に優しい港を発信する。

検討会の中核的議論になるのは太陽光よりも効率がよい次世代エネルギー源として期待される水素やアンモニアの利活用。荷役機械のうち通称「キリン」と呼ばれるガントリークレーンや「RTG」と呼ばれるタイヤ式門型クレーンを水素由来の電力で稼働させることなどを想定する。
清水港では県と静岡市が石油元売り国内最大手のENEOS(エネオス)とそれぞれ、静岡市清水区袖師地区にある同社清水油槽所の遊休地(約20ヘクタール)の利活用で合意書を取り交わしている。50年までのロードマップ作成を一義的な目的とする検討会の取り組みでは、エネオスの遊休地活用が話題に上る可能性もあるとみられる。今月設置する検討会に同社の参加を期待する声が関係者にある。
港湾地区は一般に発電所や鉄鋼、化学工業などの拠点となっていて、CO2削減の余地が大きい。国内排出量の6割を占めるとの指摘もある。CNPの実現は「50年カーボンニュートラル」に資することから全国で同様の動きが芽生えている。
〈2021.11.9 あなたの静岡新聞〉
企業の現状は? 消費エネルギー可視化は約半数 コスト増大が課題
温室効果ガス排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラル(CN)実現へ静岡県内企業は取り組みを急ぐ。アンケートでは経営者の48・4%が「大いに関心がある」とし、電気自動車(EV)化など次世代技術に挑む輸送用機械産業を中心に積極姿勢がうかがえた。

持続可能な社会の実現へ課題は山積している。エンビプロ・ホールディングスの佐野富和社長は「再エネ調達価格の上昇」を懸念。設備投資や技術革新に伴うコスト増大を懸念する声も目立ち、輸送用機械関連のトップは「CN商品の早期開発とコスト競争力の確保」を苦慮した。
サプライチェーン(供給網)全体での進展を重要視する声も。海外で事業展開するメーカー社長は「推進の前提条件として必要なインフラ整備は自社だけで解決できない」と、業界や国の枠を超えた連携が急務とした。
〈2021.8.27 あなたの静岡新聞〉
デジタル技術軸に 成長戦略描こう【社説】
国も自治体も、企業も個人も、荒ぶる大変革の波頭に立つがごとき1年になろう。全ての社会活動が、脱炭素化と持続可能性を問われる2022年が始まった。

環境政策用語で「外部不経済」が多用されている。短期の利益を優先し、環境悪化を防ぐコストを製品価格に反映させない行いを指す。富のひずみの、自然環境へのつけ回しに等しい。持続可能な企業活動が必須となり、外部不経済が監視されることになった。各国は資本主義のあり方をも見直すことになる。
岸田文雄首相はDXをてこに、デジタル田園都市国家構想を打ちだした。地方のデジタル人材を26年度までに230万人確保し、総額5兆7千億円を投入すると約束した。テレワークは「転職なき移住」を可能にし、本県は観光地で働くワーケーションの適地だ。新しい地方創生策として歓迎したい。
先駆けとなる動きが静岡県内で見られる。国土交通省と県は、清水港カーボンニュートラルポート(CNP)協議会を設置した。港湾関連企業が集い、国の制度を活用して港湾機能の脱炭素化を先導する。県はさらに、脱炭素のエネルギー供給基地を目指し、トヨタが裾野市で建設しているウーブン・シティと並ぶ次世代エネルギー開発の未来都市に位置付け、投資を呼び込む考えだ。南海トラフ巨大地震など大規模災害時の防災中枢拠点化も視野に入れる。
地元ではJリーグの新スタジアム建設の待望論があり、県はCNPの中核施設の一つとする方向で、静岡市と協議する構えだ。海洋研究や観光、行政事務機能などを併せ持てば、全国初の次世代型スタジアムになろう。
浜松市での県営野球場構想に絡み、地元には道の駅設置を含めたにぎわい創出や地域振興への相乗効果に期待が高まる。市は、国のスーパーシティの指定で規制緩和とデジタル活用によるまちづくりを目指している。新発想で海浜地域の再生策を描き、県営球場の多機能化を含めて県と市は協議を深めるべきだ。
長泉町を候補地とする県庁の本庁機能の分散化はDXによる働き方改革の実践で、国の省庁移転の理念を具現化する取り組みになる。
日本は省エネ技術をてこに世界に誇る高度成長を実現した。だが、脱炭素の経営革新は日本流の「カイゼン」だけでは実現しない。DXを、既存事業のコスト削減の手段だと考える企業は、老いるばかりだろう。
自治体の行政事務も同じだ。書類と対面、前例踏襲や縦割りを抜本的に見直さなければ、地域の産業と雇用を守ることはできない。
電気自動車(EV)がまちにあふれようと、現状で脱炭素化は実現しない。充電に要する電力を再生可能エネルギーだけで充足できないからだ。大都市の空気は澄んでも、火力発電所がフル稼働すれば地方の空気は汚れる。原発を含め、発電に伴うリスクを負うのは地方だ。中山間地域まで充電施設を網の目のように設けなければならない。車は衝突すれば壊れる。動くパソコンのごときEVなら修理工場は対応が難しい。
脱炭素化の道のりはかくも険しい。しかし、たじろぎ、傍観していてはならない。座して恩恵を待つなら、都市間競争で負け組になる。明確な将来像を打ち出し、民間投資を呼び込む努力は地方にこそ求められている。
〈2022.1.1 あなたの静岡新聞〉