沼津・三浦地区の「宝」 寿太郎みかんとは?
沼津市の三浦(さんうら)地区=西浦、内浦、静浦=で生産が盛んな「寿太郎みかん」。甘さと酸味のバランスの良さが特徴で、全国的な根強い人気で住民の生活基盤と活力を支える貴重な「宝」となっています。寿太郎みかんの名前の由来やブランドを守る動きなど、これまでの歴史を振り返ります。
〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・安達美佑〉
甘さと酸味のバランス上々 2月1日から販売
沼津市三浦(さんうら=西浦、内浦、静浦)地区で生産が盛んなミカン「寿太郎温州」の出荷が31日、同市西浦平沢のJAなんすん西浦柑橘共同選果場で始まった。定評となっている甘さと酸味のバランスの良さは今季も上々という。1日から販売が始まる。

今季は隔年で収穫量が減る「裏年」にあたるため、出荷量は昨季の2200トンから1600トンに減少する見通し。地元と関東の市場に送られる。西浦柑橘出荷部会の矢岸正敏部会長によると、裏年で出荷量が限られるものの、引き合いは強く注文は多いという。
寿太郎温州は根強い人気から他地域でも生産が本格化しているが、「取引先や消費者から『沼津市産は甘くてほかとは違う』と支持されている」と矢岸部会長。「本当にありがたい。この信頼を守っていきたい」と意気込む。
〈2022.2.1 あなたの静岡新聞〉
生みの親は山田寿太郎さん
濃厚な味わいの高級ミカンとして知られる沼津市西浦地区特産の寿太郎みかん。山田寿太郎さん(87)=同市西浦久連=が発見したミカンは、「寿太郎温州」の名で品種登録されて30年を迎えた(※2014年)。節目の年に大雪に見舞われ、生みの親は人一倍心を痛める。それでもミカン作りへの情熱は衰えず、毎日ミカン畑に通う。

大雪が降ったのは、寿太郎みかんの出荷真っ最中。標高が高い畑を中心に樹木が根元から裂けたり、枝が折れたりする被害が出た。まだ被害の全容は分かっていないが、「30年間順調だった。こんな被害はなかった」と表情を曇らせ、約400戸の寿太郎みかん農家を気遣う。
予期せぬ苦難にも、寿太郎さんは飽くなき探求心をのぞかせる。楽しみは、数年前に見つけた寿太郎みかんの「枝変わり」。普通の寿太郎みかんより2~3カ月早く、9月に実を付けた。「わせ品種かもしれない。糖度が高ければ商品としても売り出せる」と期待する。
寿太郎さんが自園の青島温州の樹木の一部に「枝変わり」を見つけたのは1975年。接ぎ木して苗木を育てたところ、「3年後に実が50個もなった。糖度も17度あった」。寿太郎みかんは、84年に新品種登録された。生産過剰で価格低迷に悩まされていたミカン農家は、独自の摘果方法や枝の管理技術を確立し、西浦の名産品に成長させた。
〈2014.3.24 静岡新聞夕刊〉
■2016年に90歳で死去
沼津市西浦地区特産の高級ミカン「寿太郎」を発見した山田寿太郎さん(同市西浦久連)が21日(※2016年10月)に死去した。90歳。27日までに関係者への取材で分かった。告別式は済ませた。
1975年、自身のミカン園で青島温州の樹木の一部に果実の着色時期が早く、風味が優れた「枝変わり」を見つけた。接ぎ木した苗木をもとに改良を重ね、84年に「寿太郎温州」として品種登録された。
「寿太郎」はJAなんすんが扱うかんきつ類の主力に成長し、貯蔵法の工夫による「寿太郎プレミアム」などの新ブランドも誕生した。
山田さんは「寿太郎」の開発や普及で数々の表彰を受けた。2008年には大日本農会(東京都港区)の紫白綬有功章を県内で初めて受章した。同JA西浦柑橘出荷部会の高島敬司部会長(68)は「西浦地区がミカン産地として維持できているのはひとえに寿太郎さんのおかげだ」と功績をたたえた。
〈2016.10.28 静岡新聞朝刊〉
2020年に地理的表示(GI)登録 静岡県内3件目
農林水産省は18日(※2020年11月)、地域に根差した産品のブランドを保護する地理的表示(GI)保護制度の対象に、沼津市の三浦(さんうら)地区で生産される西浦みかん寿太郎を新たに登録した。県内では、三島馬鈴薯(ばれいしょ)、田子の浦しらすに続いて3件目。
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同JAはGIを生かし、首都圏の消費拡大に向けたプロモーションを強化する方針。岡田晃一組合長は「コロナ禍で暗い話題が多い中、生産者の励みになる。産地が三重や愛知にも広がっているので、発祥の地としてアピールし、差別化を図りたい」と話した。
同制度は地域特性を生かした産品の品質に国がお墨付きを与え、名称を知的財産として保護する。市場に流通する登録品にはGIマークを表示し、他産地との差別化につなげる。
〈2020.11.19 あなたの静岡新聞〉
GI登録きっかけに 一層の品質向上目指し地域一丸
沼津市の三浦(さんうら)地区=西浦、内浦、静浦=で生産が盛んな「寿太郎ミカン」は、全国的な根強い人気で住民の生活基盤と活力を支える貴重な「宝」となっている。生産者は、1年余が経過したブランド保護の地理的表示(GI)登録を機に一層の品質向上に余念がない。「宝を次代へ」。2月から全国出荷が始まる。

店頭に並べやすい小ぶりさでスーパーからの引き合いが強く、甘さと酸味のバランス、縁起の良さ、親しみやすい名称で消費者の受けもいい。出荷期が主力品種「青島」とずれていて、年明けの販促は有利。この10年の平均販売単価(1キロ当たり)は青島より高値で取引されている。
日吉さんは地元名を冠した「西浦みかん寿太郎」としてGI登録されたことで、担い手としての意識が高まったと強調。これまで以上に年間通しての畑の確認や、約2カ月に及ぶ貯蔵管理に注力する。「三浦全体でブランドを守り後世に引き継がなくては」。長男悠喜さん(27)は「同世代の仲間と頑張る」と意を強くする。
「自分と共に生まれた品種。愛着がある」。5代目農家の関野拓郎さん(38)=西浦久連=は、1983年に命名、翌84年に品種登録された“同い年”の寿太郎ミカンへの思い入れを示す。全国的な課題の後継者不足はこの地でも深刻だが、関野さんは「とにかく良品を作ること。多くの人に良さを知ってほしい」と前を向く。
<メモ>西浦みかん寿太郎 沼津市で育った純正ブランドミカンとして知られる。1975年に同市の山田寿太郎氏が青島温州の枝変わりとして発見した。沼津商工会議所の「沼津ブランド」に認定されたほか、2020年には「西浦みかん寿太郎」として、農林水産省の地理的表示(GI)保護制度の対象に登録された。缶詰、ジャムといった加工品としても広く販売されている。
〈2022.1.4 あなたの静岡新聞〉