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企業に広がるSDGsの取り組み

 持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みが、静岡県内の企業に広がっています。環境ビジネスが新たな商機となっていて、既存技術を発展させ成長に結びつけようとする動きが活発化しています。ここでは、深刻な海洋汚染の原因となっているプラスチックの削減に取り組む県内企業の事例などをご紹介します。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・吉田直人〉

SDGsでつかむ新たな商機

 持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みが、静岡県内中小ものづくり企業に広がっている。社会的責任の追求を新規事業の立ち上げなどに発展させて、新たな商機を見いだそうとする動きもある。社会の関心は高まりつつあり、SDGsが重要なビジネス戦略の一環になっている。

廃プラスチックを再生したペレット。製造には強みの破砕技術を活用した=掛川市のプラントシステム掛川工場
廃プラスチックを再生したペレット。製造には強みの破砕技術を活用した=掛川市のプラントシステム掛川工場
 破砕機械メーカーのプラントシステム(静岡市清水区)は5月、掛川市内でプラスチックリサイクル専用工場を本格稼働させた。排出業者から届くプラスチック製の包装材や家電部材などを再生可能なペレットに加工する。工場取得には静清信用金庫と日本政策金融公庫の協調融資で調達した資金を充てた。
 「廃プラ問題は、思想だけでは解決しない。資源循環を可能にする機械が必要だ」。木内智之社長は強調する。強みの破砕技術を生かして、新品素材のプラスチックに近い品質を実現した。工場は、技術やコストを顧客に示すデモプラントとしても活用する。実証試験を重ねながら、廃プラ処理の循環が国内で完結する仕組みの確立を目指す構えだ。
 SDGsに取り組まないことがビジネス上のリスクになる可能性も浮上している。
 調味料メーカーのマルハチ村松(焼津市)によると、契約交渉で社会的責任を重視する取引先が増えたことが、同社のSDGs推進を後押しした。「後ろ向きの姿勢は、取引がなくなってしまうリスクにつながる」(CSR推進室)としている。
 自動車用シート縫製加工の平野ビニール工業(磐田市)は、外国人の積極活用を通じて多文化共生社会の実現に貢献してきた。平野利直社長は、取り組みに関する各企業からの問い合わせが増えていると明かした上で「同じ理念を共有できる仲間を増やしたい。つながりから新たな協業や取引が生まれる可能性もある」と話す。
 
 ■「本業で社会問題解決」重視
 企業や団体がSDGsの取り組みを発表する静岡市独自の宣言制度「SDGs宣言」は、2019年10月の開始から半年で100件を超えた。21年5月末時点で289件。浜松市が19年5月に設立した官民連携基盤「SDGs推進プラットフォーム」は、21年5月末時点の会員数が300に上っている。
 静岡経済研究所の森下泰由紀調査グループ長は、中小企業がSDGsを経営に取り込む動きが活発化していると指摘。「企業活動の余力を慈善活動に振り向けるのではなく、本業で利益を追求しながら社会問題の解決を図る視点が重視されている」と話す。
〈2021.06.21 あなたの静岡新聞〉

「紙製ファイル」活用広がる 紙のまち・富士の事例①

 脱プラスチックの機運が高まる中、製紙業が盛んな富士市でプラスチック製「クリアファイル」に代わる紙製ファイルの活用が徐々に広まっている。富士市役所が啓発品に採用し、市内の製紙メーカーも古紙回収の効率化などの実益を見込み普及に取り組む。

地産地消の啓発品として活用を始めた紙製ファイルをPRする富士市職員=2021年12月下旬、富士市役所
地産地消の啓発品として活用を始めた紙製ファイルをPRする富士市職員=2021年12月下旬、富士市役所
 書類の保管や保護のための事務用品、文具として広く普及したクリアファイルに比べ、紙製ファイルはこれまで封筒メーカーなどによりほそぼそと生産されてきた。昨年、大手生命保険会社が「クリアファイルゼロ」を宣言し、にわかに注目が集まる。紙製は単価がプラスチック製よりも高く、防水性に劣る課題もあるが、余白への書き込みや印刷が可能な上、リサイクルが容易といった利点がある。
 富士市シティプロモーション課は昨年末、地元メーカーに千枚を発注し、市内の名産品をデザインした紙製ファイルを導入した。同課の福島勇輝さんは「紙のまちにふさわしい地産地消の啓発品。持ちたくなり、自慢できる紙製ファイルは市の魅力発信になる」と喜ぶ。
 トイレットペーパーなどを生産する「コアレックス信栄」(同市中之郷)は昨年9月に社内で使うクリアファイルを社名入り紙製ファイルに切り替えた。
 同社は古紙を加工する際、機密文書などに混入したクリアファイルなどのプラスチック片を除去しているが、紙製ファイルは文書を入れたまま裁断や溶解が可能で利用者も分別の手間が省ける。佐野仁専務は「紙製ファイルが普及するとリサイクルが効率化できる。紙を扱う会社として姿勢を示した」と話す。
 紙製ファイルに商機を見る企業もある。紙加工業「東伸紙工」(同市原田)は昨年から自社製造を開始した。割高ながら金融機関や行政機関など文書のやりとりが多い企業を中心に関心は高い。久保田基之社長は「現在は企業向け主体だが、文具として普及が進めば、単価も下がり、バリエーションも広がる」と期待する。同社はクリアファイルのように文書が透けるファイルや、市内の古紙を活用した100%富士市産の紙製ファイルの製品化も目指す。
〈2022.01.19 あなたの静岡新聞〉

形状変化少ない紙ストロー 既存技術応用 紙のまち・富士の事例②

 春日製紙工業(富士市)はトイレットペーパーの芯を作る技術を生かし、完全国産の紙ストローの生産を始めた。海洋プラスチックごみ問題で脱プラスチックの動きが加速する中、カーディーラーやホテル、動物園など環境に配慮する県内外の企業が導入する。

食用特殊コーティングなどにより高い耐水性を実現した紙ストロー形状変化少ない紙ストロー
食用特殊コーティングなどにより高い耐水性を実現した紙ストロー形状変化少ない紙ストロー
 長さ19・6センチで内径5ミリとタピオカドリンク用の内径12ミリの2種類がある。5ミリは赤と白、黒に加え、富士山柄の4色、12ミリは赤、白、黒の3色展開。価格は3千本入り1本4円から。個別包装に対応し、包装紙に企業名などを印字できる。
 国産100%のパルプや植物由来のインキを使用する。表面に食用特殊コーティングを施すことで高い耐水性を実現した。海外産の持続時間は30分程度だが、1時間以上経過しても水分吸収による形状変化が少ない。秋山英範直需部課長代理は「紙ストローが当たり前になる中、国産の高品質で勝負したい」と話す。
 主力の一つだったアルバム台紙が写真のデジタル化で需要が激減する中、紙ストローに活路を求めた。台紙にフィルムを貼る接着剤の開発技術も生かされているという。
 夏には増産体制に入る。女性オペレーターの育成も始め、将来的には、女性の視点を生かした製品開発につなげる。現在、かき氷などに対応できる先端がスプーンの形をした紙ストローや、紙コップで使用する紙製のふたの開発も進める。
〈2020.06.12 静岡新聞朝刊〉

環境重視の金融事業推進、全国に先駆け官民連携

 静岡県内の地方自治体や金融機関など25団体が30日(※2019年8月)、環境を重視した融資や事業を推進しようと「SDGs×ESG金融連絡協議会」を発足した。主に中小企業を対象に環境に配慮した融資を拡大し「経済成長の原動力」(環境省担当者)とされる環境ビジネスを、官民連携で育成する狙いがある。

県内の自治体や金融機関などの代表者が出席した協議会=30日午後、静岡市葵区
県内の自治体や金融機関などの代表者が出席した協議会=30日午後、静岡市葵区
 こうした協議会の設置は全国初。環境省がオブザーバーとして参画し、本県を全国のモデルとする方針だ。SDGsは国連が掲げる持続可能な開発目標、ESGは環境、社会、企業統治を意味する英語の略。
 本県は環境活動評価プログラム「エコアクション21」の認証事業所数が全国トップの1015件で、2位以下の他県を圧倒している。同省は環境を重視した企業が多い本県に着目し、県環境資源協会に協議会設置を打診。同協会が県内の自治体や金融機関に呼び掛け、地方銀行や県内各地の信用金庫計13行、県、静岡、浜松、沼津、富士、富士宮の5市が参加した。
 同協議会は、環境を重視した「ESG融資」を広めるため10月にシンポジウムを開催し、企業間のマッチングや好事例の共有などにも取り組む。将来的には政府による利子補給(年利1%を上限)も見据えている。
 静岡市葵区で開いた発足会議には勝俣孝明環境政務官(衆院比例東海)が出席し、海洋プラスチック問題を踏まえてプラスチックストローの100倍の価格に設定された間伐材ストローに注文が殺到する状況を紹介。「環境政策は経済成長のけん引役だ。環境省も全力で協議会を応援する」と強調した。
 会議では金融機関から「地方創生の視点を絡めて自治体と連携したい」「地方企業の生き残り策として環境対応は必須だ」などの意見が出された。
〈 2019.08.31 静岡新聞朝刊〉
地域再生大賞