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回顧2021⑩ 大井川とリニア

 ■残された課題は
 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴う大井川の水問題は、国土交通省専門家会議が2021年12月に中間報告をまとめ、JR東海と静岡県、流域市町の協議は次のステージに入りました。問題はどこまで整理され、何が課題として残っているのでしょうか。ポイントはトンネル湧水全量戻しの方法と、地元の理解です。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・尾原崇也〉
 ※回顧2021シリーズは今回で終了し、次回から通常版の知っとこに戻ります。

工事中含めた湧水全量戻し JR東海社長が表明

 JR東海の金子慎社長は26日(※2021年11月26日)、東京都内で開いた定例記者会見で、リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題で県や利水者が求めてきた「工事期間中を含めたトンネル湧水の全量戻し」に応じる意向を表明した。ただ、全量を戻す方法には言及せず、今後検討するとした。

 県は2014年、環境影響評価(アセスメント)で県内のトンネル湧水に関し「工事中や供用後、全て現位置付近に戻すこと」と同社に要請。金子社長が18年10月に全量戻しの方針を表明したが、その後、同社は工事中のトンネル貫通前は全量を戻せないと説明し、県側が反発している。
 金子社長はこの日の会見で、「(全量戻しを表明した18年10月当時は)工事期間中について議論していたわけではない」と説明。工事期間中を含めて全量戻しに取り組むかについて改めて問われると「(県や流域から)戻すべきだという要請をされているので、それはそれできちんと受け止める。応えたい気持ちはある」と述べた。全量を戻す方法は「これからも検討していきたい」と回答した。
 中下流域の水が減る可能性については17日の記者会見で「蓋然(がいぜん)性がない」と答えていたが、「そうは言っていない。蓋然性が低いということを言った」と真意を強調した。また、減水対策を問う質問に対してはモニタリング(継続的な観測)の必要性を強調したが、モニタリングで水量の減少が判明した場合の具体策には触れなかった。
 〈2021.11.27 あなたの静岡新聞〉 

中間報告出たが… 湧水全量戻しの方法は示さず

 1年8カ月の議論を経てリニア中央新幹線工事に伴う大井川中下流域の水利用に関する問題の中間報告がまとまった19日(※2021年12月19日)、県とJR東海がそれぞれ記者会見で受け止めを説明した。県が、工事期間中にトンネル湧水が県外に流出した場合の問題点など積み残された課題を指摘する一方、JRは中間報告を根拠に「減水の可能性は低い」とする考えを強調し、認識の差が浮き彫りになった。今後の対話でその差を埋められるかが問われる。

記者会見する難波喬司副知事(左)/記者会見するJR東海の宇野護副社長=いずれも国交省(右)
記者会見する難波喬司副知事(左)/記者会見するJR東海の宇野護副社長=いずれも国交省(右)
 JRが中下流域で水が減る可能性が低いと主張する根拠として、二村亨中央新幹線推進本部次長は、中間報告で「河川流量の季節や年ごとの変動による影響に比べて極めて小さい」と記載されている点を挙げた。県外流出した場合については「トンネル湧水の全量を大井川に戻すことで、中下流域の河川流量が維持される」などと説明した上で「リスクがあることは認識しているのでしっかりやる」と述べたが、具体的な方法には言及しなかった。
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 これに対し、難波喬司副知事は「中間報告のいいとこ取りのような説明は真摯(しんし)な対応ではない。中間報告では、中下流域への影響が少ないとされているが、不確実性があるのでしっかり対処するようにとも書かれている」とくぎを刺した。
 工事期間中に県外に流出する水の問題のほかに、発生土置き場の安全性や水質への影響に関しても、「議論が十分されていない」と指摘した。中間報告では水質管理について「適切な処理・管理が継続されれば、表流水や地下水の水量・水質などに影響をもたらすものではない」と明記された。しかし、難波副知事は「処理や管理の方法が適切なのかは評価していない」と課題を挙げた。
 JRの宇野護副社長は「中間報告の記載は私たちの取り組みの資料がベースになっていて、会議で一定の理解をいただけた。高いレベルの分析にのっとっていて、十分に県と対話できる」と述べた。
 福岡捷二座長(中央大教授)をはじめ、複数の委員から流域の不安や懸念の払拭(ふっしょく)に継続的に取り組むよう指導を受けた点には「常に真摯(しんし)な対応をしているが、指摘を謙虚に受け止めて取り組みたい」と強調した。

 ■「継続して真摯な対応を」 福岡座長
 19日に中間報告を取りまとめた国土交通省専門家会議の福岡捷二座長(中央大教授)の記者会見での主なやりとりは次の通り。
 ―中間報告を基にJR東海に対し、どのように助言するか。
 「科学的、工学的な答えだけで議論しては駄目だ。解析(流量予測)は不確実性がある。想定されるリスク(への対応)やモニタリングを実行してほしい」
 ―なぜ1年8カ月もかかったか。県からも意見書が何度も出た。
 「県から、リスクやモニタリング(の議論)が不十分ではないかと言われたが、同意する。JR東海も最初は不十分だった。相当力を入れて議論した結果が、中間報告だ。毎回の会議で問題が出た。時間がかかるのは当然だ」
 ―中間報告の「真摯(しんし)な対応を継続すべきだ」という意見に有効性はあるか。
 「当然するべきだ。真摯に対応するだけでなく、それを継続的にすべきであると、JR東海に対し指示した」
 ―JR東海の金子慎社長は「有識者会議の見解は『中下流域の水量が減る可能性は低い』と理解している」と言っている。見解として言い切れるか。
 「科学的、工学的な立場からすれば、トンネル湧水全量を戻せば河川流量は維持され、地下水の変化も非常に小さい。ただ、数値計算に頼らなくてはいけない所は条件設定があるので、それが全てではない」
 〈2021.12.20 あなたの静岡新聞〉

流域市町首長 厳しい声相次ぐ JR社長「懸念想像以上」

 リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題を巡り、JR東海の金子慎社長は18日(※2021年9月18日)、大井川の水の供給を受ける流域市町の首長との意見交換会を静岡市内で初めて開いた。出席者によると、首長からJRへ厳しい意見が相次いだ。金子社長は終了後の取材に「私どもに至らぬ所があったかもしれない。(流域の懸念は)想像以上」との認識を示した。

意見交換会に出席したJR東海の金子慎社長(右奥)と大井川流域の市町長ら=静岡市葵区
意見交換会に出席したJR東海の金子慎社長(右奥)と大井川流域の市町長ら=静岡市葵区
 意見交換会は非公開。「台風への対応のため」欠席した焼津市長を除く9市町長(島田、掛川、藤枝、袋井、御前崎、菊川、牧之原、吉田、川根本)が金子社長に流域の思いを伝えた。金子社長は具体的な対応は今後検討するとした。
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 南アルプストンネル工事による影響の回避策を検討する国や県の有識者会議の結論はまだ出ていない。意見交換会終了後、市町長は記者団の取材に応じ、島田市の染谷絹代市長は「流域住民が中下流域の水利用問題、上流域の環境問題に安心して『これなら大丈夫だ』と思えるだけの説明をJRに尽くしてほしいと要請した」と述べた。藤枝市の北村正平市長は、国土交通省専門家会議の中間報告がまとまった後、県の有識者会議で「JRは真摯(しんし)に議論をしてほしい」と語った。
 金子社長は昨年6月、川勝平太知事と会談したが、着工の同意を得られなかった。流域10市町は県に対応を原則一本化してきたが、直接説明する機会を求めてきたJRとの意見交換会に今回応じた。JRは今後も開催するよう求めたが、市町側は回答を保留した。終了後の取材に金子社長は「スタートを切れた。やりとりの中で理解を深めていかないといけない」としたが、染谷島田市長は「次があるかどうかは分からない」と述べるにとどめた。
 ■地元寄り添う姿勢を
 リニア中央新幹線工事に伴う大井川の水問題で、JR東海の金子社長と18日に初めての意見交換会に臨んだ大井川流域9市町の首長は終了後、取材に応じた。ルート変更を選択肢に入れることや、トンネル残土による大規模な盛り土が上流の川沿いに造成されることへの懸念などを金子社長に要請したと明らかにした。
 藤枝市の北村市長は6月の知事選に立候補した2人がともにルート変更を視野に入れるべきだと主張したことに触れ「ルート変更の策を考えておくことが議論の円滑化に役立つのではないか」と提案したという。
 牧之原市の杉本基久雄市長はリニア中央新幹線の採算性に対する懸念を伝え、「未来えいごう(トンネル湧水を)ポンプアップして大井川に返す。本当に継続してそれができるのか。採算性が合う、もうかると言ってもらわないと安心できない」などと要請したという。
 川根本町の鈴木敏夫町長は中流域の水返せ運動の経緯を説明したとし「環境を壊さないような工事をしてほしいとお願いした。残土を積み上げるだけでなく影響のないように管理してもらいたい。希少な動植物を見せられるような展示施設を整備してほしいとも伝えた」と述べた。
 菊川市の長谷川寛彦市長は「地元と信頼関係を築いて、しっかりと寄り添う姿勢で説明してほしい」と伝えたことを明らかにし、信頼関係構築の重要性を指摘した。  〈2021.9.19 あなたの静岡新聞〉

国交相 JR東海に異例指導 「地域の懸念払拭を」

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴う大井川の水問題を議論した国土交通省専門家会議の中間報告を受け、斉藤鉄夫国交相は21日(※2021年12月21日)、JR東海の金子慎社長を同省に呼び、流域住民の不安や懸念を払拭(ふっしょく)するよう指導した。「事業を進めるには地域の理解と協力が何にも増して不可欠だ」と強調した。

斉藤鉄夫国交相(右)から指導を受けるJR東海の金子慎社長=国交省
斉藤鉄夫国交相(右)から指導を受けるJR東海の金子慎社長=国交省
 法令違反や事故がない状況で、国交相が事業者を呼び指導するのは異例。リニア事業を認可した監督省庁として、認可時に事実上の条件とした「地域の理解と協力を得ること」を改めて指導し、円滑な事業実施を求めた形だ。金子社長は「理解と協力を得られるよう努力する」と応じた。
 斉藤氏は、中間報告で示されたトンネル掘削に伴うリスク対応とモニタリングの実施▽歴史的な経緯や地域のこれまでの取り組みを踏まえた真摯(しんし)な対応の継続―の2点を特に訴えた。リニア事業を「公共性が極めて高いプロジェクト」とし「地域の方々と理解し合いながら事業を進めてほしい」と求めた。
 冒頭以外は非公開。金子社長は面会後、記者団に「大臣の話を承った。中間報告には(JR東海への)要請事項も含まれる。真摯に対応したい」と述べた。流域住民への説明やトンネル湧水の全量戻しの方法に関しては「具体的な進め方は何も決まっていない」とした。
 専門家会議は県側とJRの協議が行き詰まったため、JRへの指導を目的に昨年4月に設置され、19日に中間報告をまとめた。
 〈2021.12.22 あなたの静岡新聞〉