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袴田さん 再審請求の行方は

 旧清水市(静岡市清水区)で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(85)の第2次再審請求審は、現在東京高裁で審理を行っています。最高裁が、再審開始を認めなかった東京高裁決定を取り消し、審理を差し戻したのは2020年12月のこと。この1年で審理はどこまで進んだのでしょうか。状況を整理します。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・尾原崇也〉

長期化の様相 救う会、高裁に早期開始求め請願書提出

 旧清水市(静岡市清水区)で1966年にみそ製造会社の一家4人が殺害された事件で死刑が確定し、裁判のやり直しを求めている袴田巌さん(85)=浜松市中区=を支援する「無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会」は20日、袴田さんの早期再審開始を求める請願書を、7100人分の署名を添えて東京高裁に提出した。

記者会見する袴田ひで子さん(中央)ら=都内
記者会見する袴田ひで子さん(中央)ら=都内
 同会が93年から裁判所に提出した署名は累計で14万5578人分になった。袴田さんの姉ひで子さん(88)は提出後の記者会見で「裁判はまっすぐに巌の方を向いてやってもらいたい。再審開始を心から望んでいる」と訴えた。
 袴田さんの再審請求を巡っては、静岡地裁が2014年に再審開始を認めた。東京高裁は18年に地裁決定を取り消したが、最高裁が20年12月、東京高裁に審理を差し戻した。
 〈2021.12.21 あなたの静岡新聞〉

最高裁 「犯行着衣」に残った血痕の審理不十分と判断 再審開始可否は示さず

 旧清水市(静岡市清水区)で1966年、みそ製造会社の一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(84)=浜松市中区=の第2次再審請求特別抗告審で、最高裁第3小法廷(林道晴裁判長)は23日(※2020年12月23日)までに、再審開始を認めなかった東京高裁決定を取り消し、審理を差し戻す決定をした。再審開始の可否は方向性を示さず、袴田さんの再審請求はさらに長期化する。22日付。

 事件から約1年2カ月後に現場付近のみそタンクから見つかり、袴田さんの犯行着衣とされた「5点の衣類」に付着した血痕を巡って、色の変化について審理が尽くされていないなどと判断した。
 裁判官5人のうち、3人の多数意見。残り2人は「差し戻しではなく、再審を開始すべき」と反対した。再審請求の特別抗告審で賛否が割れるのは異例。
 弁護側は第2次再審請求で、みそ漬け実験結果を踏まえ、5点の衣類に付着した血痕は1年以上もみそに漬かっていたにしては赤みが残り、不自然などと主張。みそに触れた血液が黒色化する「メイラード反応」の影響を指摘したが、東京高裁は即時抗告審で実験の証拠価値を否定した。
 同反応を巡る高裁の判断について、第3小法廷は決定で「専門的知見について審理を尽くすことなく、影響が小さいと評価した誤りがある」と指摘した。
 一方、主要な争点となってきたDNA型鑑定は試料の劣化などを列挙。血液由来のDNAを抽出し、袴田さんのDNA型と一致しないと結論付けた弁護側の鑑定について、高裁同様に「個人を識別するための証拠価値があるとは言えない」として信用性を否定した。
 静岡地裁は2014年、袴田さんの再審開始を決定。死刑と拘置の執行停止も認め、袴田さんを釈放した。検察側が即時抗告し、東京高裁は18年、再審開始を取り消したが、死刑と拘置の執行停止は維持。弁護団が最高裁に特別抗告していた。
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 〈2020.12.24 静岡新聞朝刊〉

「血痕の赤み残らない」 弁護団、新鑑定書提出

 旧清水市(静岡市清水区)で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(85)の第2次再審請求審で、事件から1年2カ月後に現場のみそタンクから発見された「犯行着衣」の血痕を巡り、弁護団は5日(※11月5日)、1年以上みそに漬かると「血痕の赤みは残らない」とする鑑定書などを東京高裁に提出したと発表した。「1年以上タンクのみそに隠されていたとは言えず、袴田さんの犯人性は完全に否定された」として速やかな再審開始を強く訴えた。

血痕の赤みが見て取れる半袖シャツ。弁護団は1年以上みそに漬かれば「赤みは残らない」とする鑑定書を東京高裁に提出した
血痕の赤みが見て取れる半袖シャツ。弁護団は1年以上みそに漬かれば「赤みは残らない」とする鑑定書を東京高裁に提出した
 同日、都内で記者会見して明らかにした。提出は1日付。最高裁は昨年12月、血痕の変色に影響を及ぼす要因について専門的な知見を踏まえて検討を尽くすよう求め、審理を高裁に差し戻した。弁護団は新たな知見を「最高裁決定の要請に応えるもの」と位置付け、間光洋弁護士は会見で「再審開始を決定づける内容だ」と述べた。
 弁護団によると、最高裁決定を受け、血痕の変色や要因に関して複数の専門家に検討を依頼した。その結果、血液がみそに漬かるとヘモグロビンの変性などで数日以内に赤みが失われ、数カ月以内に黒色化するメカニズムが判明した。また、みそ中の糖と血液中のタンパク質の接触で生じる化学反応「メイラード反応」による変色が進むことも確認した。
 袴田さんの犯行着衣とされる半袖シャツなど「5点の衣類」は67年8月31日、麻袋に入れられ、血痕に赤みが残る状態でタンクの中から発見された。このタンクには、66年6月30日に事件が発生した後の同年7月20日にみそが仕込まれ、67年7月25日ごろに取り出しが始まった。
 弁護団は鑑定書と併せて提出した意見書で「みその仕込みから取り出しまでの間は衣類を入れることは不可能で、衣類は発見直前に何者かに入れられた」として、改めて証拠の捏造(ねつぞう)を主張した。
 〈2021.11.5 あなたの静岡新聞〉

検察は反論へ 次回協議は2022年3月

 旧清水市(静岡市清水区)で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(85)の第2次再審請求審で、東京高裁と東京高検、弁護団の3者協議が22日(※11月22日)、高裁であった。事件から1年2カ月後に現場のみそタンクで発見された「犯行着衣」の血痕の色を巡り、1年以上みそに漬かると「赤みは残らない」との弁護団の新たな鑑定書などについて、高検側は反論する方針を示した。

記者会見で発言する袴田巌さん(中央)。右は姉ひで子さん=県庁
記者会見で発言する袴田巌さん(中央)。右は姉ひで子さん=県庁
 弁護団が協議終了後の記者会見で明らかにした。検察側は来年2月末までに反論する。次回は同3月14日。
 最高裁は昨年12月、みそ漬けされた血痕の変色に影響を及ぼす要因について専門的な知見を踏まえて検討を尽くすよう求め、審理を高裁に差し戻した。弁護団は今月1日付で、血液がみそに漬かるとヘモグロビンの変性などにより数週間程度で赤みが失われ、数カ月以内に黒色化するメカニズムを化学的に説明した専門家の鑑定書を高裁に提出。「最高裁決定の要請に応える内容」として速やかな再審開始を求めている。
 弁護団は、白みそを用いた新たな「みそ漬け実験報告書」を高裁に出した。会見で小川秀世事務局長は、鑑定書や報告書を踏まえて「みそに漬かれば血液は黒褐色になる。赤みが残る条件は考えられず、検察官の反論は裁判所を動かすものにならない」と述べた。
 弁護団の一人は取材に「高裁は『検察に反論させなかった』と後から指摘されることを避けたかったのでは」と推測。その上で「検察は『例外的に赤みが残ることがある』と主張したいのかもしれないが、そんなことを言う専門家はいるのだろうか」と疑問視した。

 ■袴田さん会見「元気ですよ」 
 袴田巌さん(85)の弁護団は22日、都内と県庁で記者会見を開いた。県庁では袴田さんが姉ひで子さん(88)と一緒に出席し、「元気ですよ」と話した。
 袴田さんは腰痛で一時期、つえなしでは歩けない状態だったというが、現在は「痛くなくなっちゃった」。
 東京高裁での差し戻し審は来年も続くことになったが、ひで子さんは「長引いていると言われても、55年闘ってきた。再審開始を出してもらえるよう頑張っていく」と語った。
 〈2021.11.23 あなたの静岡新聞〉
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