回顧2021① 熱海土石流
■責任の所在はどこに 追及続く
夏の熱海市伊豆山を襲った土石流災害。26人の尊い命が奪われ、いまだ太田和子さんの行方が分かっていません。土石流の発生は、不適切に造成された盛り土が原因となったとして、人災の見方も強くあります。12月には、遺族団体が盛り土の現旧所有者を刑事告訴しました。熱海の土石流は天災か人災か。責任の所在はどこに。2021年、多くの衝撃をもたらした災害を振り返ります。
※夜の〈知っとこ〉は1月4日まで連日、「回顧2021」をお届けします。2021年の重大ニュースをぎゅっとまとめて振り返ります。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉
発生当日を振り返る 土石流2キロ下り、海まで到達
2021年7月3日午前10時半ごろ、熱海市伊豆山の伊豆山神社南西で、大規模な土石流が発生し、逢初(あいぞめ)川に沿って土砂が流出した。県や同市によると、多数の民家が流され、巻き込まれたとみられる女性2人の死亡が確認された。約20人の安否が分かっていない。記録的な大雨の影響とみられ、沼津市で民家1軒が流されるなど静岡県内で被害が相次いだ。

県によると、土石流は約2キロにわたって流れ下り、海まで到達した。死亡した2人は伊豆山港で海上保安庁が発見した。身元の確認を急いでいる。

県の要請を受け自衛隊、緊急消防援助隊が出動し、救助活動に当たっている。県警や県内各地の消防本部も現地で活動している。市によると、被害エリアにある家屋は100~300世帯とみられる。現場にいた男女10人を救出した。121人が小学校などに避難している。
同市網代では48時間雨量が321・0ミリに達し、7月の1カ月の平年雨量を上回った。県は同日午後、災害対策本部員会議を開いた。臨時記者会見した川勝平太知事は「全力で救援、救助に当たっている。被害を最小限に食い止める」と述べた。
沼津市では、黄瀬川沿いの民家1棟が流された。住民2人は事前に避難していて無事だった。御殿場市や裾野市では床下浸水が発生した。
3日までの48時間雨量は、森町三倉(475・0ミリ)、富士市(451・0ミリ)など6地点で観測史上最大、御殿場市(496・5ミリ)、静岡市葵区鍵穴(400・0ミリ)など11地点で7月の観測史上最大となった。
〈2021.7.4 あなたの静岡新聞〉
盛り土高さ 届け出の3倍超 不適切な工法が被害拡大か
熱海市伊豆山で発生した大規模な土石流の最上部で崩落した盛り土について、2010年以降、市に提出した届け出の3倍を超える高さにかさ上げされた疑いが7日(※2021年7月)、県の調査で明らかになった。推定される崩落時の盛り土の高さは50メートル。県などによると、当初施工した小田原市の不動産管理会社(清算)は09年に盛り土の高さを15メートルとする計画を市に届け出ていた。


難波喬司副知事が県庁で記者会見し、11年2月までの関係書類などを調べた内容を明らかにした。

不動産管理会社が県条例に基づき09年12月に市に提出した届け出によると、施工面積は0・9696ヘクタール、盛り土量は3万6641立方メートル、高さは15メートル。棚田状に3段にする計画だった。
一方、県が20年1月の地形データと国土交通省が取得した10年1月の地形データを比較したところ、盛り土の高さは50メートル、量は約5万4千立方メートルと推定され、段数は12段程度。今回の土石流で大半の約5万立方メートルが崩落したとみられる。
県によると、同社は10年8月に工事がおおむね完了したと市に報告したが、その際、盛り土の中に産業廃棄物の木くずの混入を確認したため県と市が撤去を指導。また、市は工事が終わっているはずの時期に土砂の搬入が確認されたため、同9月に工事の中止と完了届の提出を要請したが、11年2月に土地所有者が同社から現所有者に変わり、以降は完了届を確認できていないという。
県は11年2月以降に届け出を提出せずに土地が改変された可能性もあるとみて調査を進める。
現所有者代理人の河合弘之弁護士は取材に「不動産業者から売り込みがあった。土地購入後に(盛り土を含め)工事をしたことは一切ない。欠陥土地を買わされたと思っている」とコメントした。
〈2021.7.8 あなたの静岡新聞〉
盛り土の現旧所有者「殺人」容疑で告訴 未必の故意捜査へ
熱海市伊豆山で7月に発生した大規模土石流で、熱海署は6日(※2021年12月)、起点となった盛り土を含む土地の現旧所有者に対する殺人容疑の告訴状を受理した。県警は既に、現旧所有者を業務上過失致死容疑などで捜査している。現旧所有者が土石流の危険を予見し、遺族側が主張している「住民が死亡しても構わない」との未必の故意が立証できるかが、捜査の焦点になりそうだ。

娘(44)を亡くした小磯洋子さん(71)は「発生から5カ月間、涙を流さなかった日はない。娘の未来、孫が母親と一緒に暮らせたはずの未来を返してほしい」と訴えた。
告訴状によると、元代表は法令違反を繰り返し、熱海市から少なくとも7度の行政指導を受けたにもかかわらず、無視して土砂を搬入し続け、当初計画の高さ15メートルを大幅に上回る約50メートルの盛り土を造成したとされる。現所有者は盛り土が危険な状態と知りながら、排水設備などの安全対策工事をせずに放置したとしている。
遺族側弁護団の加藤博太郎弁護士は「極めて悪質な行為であると警察も認めた。単なる過失ではなく、大量殺人に匹敵する行為。厳重な処罰を望む」と述べた。
県警は8月、母親を亡くした瀬下雄史さん(53)=千葉県=の告訴状を受理し、10月に現旧所有者の強制捜査に乗り出した。土石流では26人が死亡し、1人が行方不明になっている。遺族、被災者計70人は現旧所有者らに約32億円の損害賠償を求める民事訴訟も起こしている。
〈2021.12.6 あなたの静岡新聞〉
怒り、悔しさ 遺族の思い痛切 続く責任追及
「盛り土を造成した業者が一番悪い。だが、危険を知りながら住民に伝えなかった人たちの責任も重い」。熱海市伊豆山の大規模土石流の発生から5カ月半が過ぎた18日(※2021年12月)、遺族らでつくる「被害者の会」の会合で、娘を亡くした小磯洋子さん(71)は語気を強めた。誰ひとり謝らないまま時が流れていく現状に、他の被災者も怒りをあらわにした。

遺族らが法的措置を講じる中、県や熱海市は盛り土に関する行政手続きが適正だったかどうか検証している。これまでに開示された公文書では、県と市が危険を認識していたことや、法令違反を繰り返す不動産管理会社に対して措置命令の発出を見送ったことなどが明らかになっている。「そもそも水源の近くで盛り土を認めた判断が間違いだ」。母親を亡くした鈴木仁史さん(56)はそう悔しさをにじませる。
熱海市議会は土石流の責任追及のため、強い調査権限を持つ特別委員会(百条委員会)を設置した。退職者を含む県と市の職員をはじめ、土地所有者らの証人尋問を予定する。ただ、対象者の絞り込みに時間を要するとされ、本格的な検証が始まるのは早くても1月下旬以降の見通しだ。「復興も大事だが、原因と責任が明らかにされなければ前に進めない」。自宅が全壊した太田滋さん(65)はそう強調した。
〈2021.12.20 あなたの静岡新聞〉