静岡県知事選立候補者に聞きました

 読者の疑問に応える静岡新聞社「NEXT特捜隊(N特)」は知事選(6月20日投開票)を前に、立候補者に聞きたい疑問をLINEでつながるN特通信員(友だち)から募集しました。生活に根ざした切実な訴えや当事者ならではの問題意識を反映した質問が集まり、「夫婦別姓」や「静岡市清水区のサッカースタジアム構想」など6問を候補者にぶつけました。2候補から11日までに回答が寄せられ、それぞれの考えや信条、意見の違いが浮き彫りになりました。

 (編集局未来戦略チーム・尾原崇也)

伊豆地域で県政を身近に

 東伊豆地域在住ですが、県知事選は県中西部でにぎやかなイメージあり、どうもなじめない感じがしています。これまでの知事選でも立候補者を地元で見たことがないし、生活する上で、身近な部分での実績が分かりません。伊豆地域でも県政を身近に、わかりやすく感じられる工夫についてどう考えていますか。

川勝候補 【川勝候補】
 伊豆半島は「世界で最も美しい半島」だと知事就任当初から訴え、その魅力は川端康成の「伊豆序説」にうたわれている通りだ。私は歴代の知事の中で、公務として最も伊豆半島に足を運んだ。私の意向を体し、即決即断できる「伊豆半島担当副知事」を任命した。また、副知事が実行できる予算をつけた。
 伊豆半島が世界に認められるようにユネスコの世界ジオパーク認定や韮山反射炉の世界文化遺産登録のほか、願成就院を補修し、安置されている仏像の国宝化に尽力した。伊東市・下田市・函南町のメガソーラー建設に反対の態度を貫き、東京五輪の自転車競技会場の誘致に積極的に関与した。今は土肥高校を「海の自然の中の高校」にしたいと関係者と図っている。


岩井候補 【岩井候補】
 伊豆半島は少子高齢化の典型的な進行地区で、生産人口が少なく所得格差、医療格差、教育格差が県内各地と比べても大きい。農水産品の地域資源の活用や観光資源を活用するためにも道路交通網の整備が必要であり、さらなる国との緊密な連携のできる知事が必要。
 コロナ禍では、リモートワークやワーケーションといった都会の密を避け、仕事ができる流れがある。生活する場所が住みやすい地域には関心が高まっており、その筆頭の候補は伊豆半島と考える。そのためには、医療や福祉、教育が充実していないと、単に首都圏に近く風光明媚なだけでは選ばれない。生活の基本条件を整えていかねばならないと考えている。

女性の貧困問題について

 生理用品購入費は、女性にだけかかる出費です。昼間、夜用のナプキンを購入し、仕事をしているときは漏れが心配でタンポンも購入します。毎月1000円以上の出費になり、負担が大きいと感じています。無料配布を行う自治体もあるようですが、県としての支援を考えていますか。生理用品以外にも、こうした女性特有の事情に対して何か支援を考えていますか。立候補者が男性のため、こういった問題にも関心があるのか気になって質問しました。

川勝候補 【川勝候補】
 女性の必需品の生理用品が購入できない問題が顕在化したのを知って、すぐに県内の19市町で生理用品の配布を実施ないし検討中。生理用品だけでなく、生活困窮者に生活支援をする市町の取り組みを、県に情報提供してくれれば、支援する。


岩井候補 【岩井候補】
 女性特有の事情や課題に正面から向き合う姿勢はこれまでなかったと考える。コロナ禍が、それを社会で考えるきっかけとなった。まずは、悩みごとの相談窓口や具体的な支援方法を女性の立場で検討しなければならない。
 コロナ禍では家族の在宅時間が長くなり、女性の家族ケア負担が増加した。コロナで大打撃を受けた業界は、女性の非正規雇用者が多く、職を失ったり、シフトを減らされたりし、家計がひっ迫した。これにより、特にシングルの非正規雇用者やシングルマザーは経済的に困窮したが、これらはコロナで顕在化したにすぎず、日ごろからあるジェンダー問題ととらえている。本県の女性有業率は全国32位、女性の管理職登用率は45位となっており、これらの改善を進めていく。

夫婦別姓について

 「夫婦別姓」に関する認識を伺いたいです。私は来春に婚姻届を出す予定ですが、もし仮に夫婦別姓が導入されていれば、別姓を選択します。夫婦同姓だと、どちらかが煩雑な手続きをすることになり、対等であるはずの両者の間に「それを強いる」という権力関係が生じるのが嫌だからです。報道によると、岩井さんは夫婦別姓に反対を表明しているようですが、2人の考えを聞きたいです。

川勝候補 【川勝候補】
 結婚をしても、独身時代からのペンネーム・芸名・雅号などで一生をつらぬいている人が大勢いる。社会はそれを受け入れている。選択的夫婦別姓の社会環境は整ってきたのではないだろうか。それゆえ、夫婦別姓に特段の問題はないと考えている。


岩井候補 【岩井候補】
 今日では職場などでの旧姓の通称使用が普及しており、社会の中での別姓に対するさまざまな考えが出ていることは承知している。一方で、これまでのあり方を擁護する意見も多く、夫婦別姓に反対というよりは、多様な意見を聞きながらよりよい方向性を見出したい。現時点ではどちらともいえない。

静岡市清水区のサッカースタジアム構想について

 静岡市清水区は、静岡市と合併してから衰退する一方と感じています。駅前の商店街も人通りが減りました。静岡市役所が力を入れるのは葵区中心部に偏っている気がします。そんな中浮上したJR清水駅前のサッカースタジアム構想には大いに期待しています。スタジアムを中心に複合施設ができれば、地域活性化、人口増も見込めます。スタジアム構想に対する考え方や、静岡市との連携策、合わせて清水区の振興策を聞きたいです。

川勝候補 【川勝候補】
 清水区の駅前の不使用タンクが設置されているところにエスパルスの新スタジアムを建設することには大賛成。私は、火力発電所の建設計画に明確に反対の意向を県議会で表明し、その企画を撤回させた。現在のスタジアムは、J1チームとしては限界であるという問題意識を共有している。半年ほど前、所有者のENEOS社長との共同会見で、サッカー場の件を持ち掛けて内諾をとりつけた。また、エスパルスの社長はもとより、ジュビロ、藤枝、アスルクラロの3社長からも、新スタジアム建設について賛成の内諾を得た。エスパルス社長は4万人規模のスタジアムを構想している。


岩井候補 【岩井候補】
 県では、エネオス株式会社と再生可能エネルギーによる電力供給などに関する協定を締結している。JR清水駅周辺地区において、それら事業の具体化を進めていく上で、静岡市と共に全力で取り組んでいくべきものが「新サッカースタジアム」の建設であり、現在の県政運営において改善すべき県市連携の最たるものでもある。
 新しいスタジアムは、駅からのアクセスが良く、多機能であることが求められている。新スタジアムを熱望するみなさんの熱い思いを丁寧にお伺いした上で、現在、整備に向けた調査に着手している静岡市と共にスタジアム整備に取り組む。周辺地域への新たな投資を促し、清水区の賑わい創出につなげ、「サッカーのまち清水」の完全復活に支援していく。

学力向上策

 全国学力テストで静岡県が最下位になったら、過去に行われたように学校の校長名を公表しますか?公表された当時、私は教員をしていましたが、正答率の低い問題について原因を分析するなど残業だらけになりました。ただでさえ忙しい教育現場にとって大変な負担でした。子どもの学力向上にどう取り組むのか聞きたいです。

川勝候補 【川勝候補】
 全国の学力テストで(静岡県内の)小学生が(全国最下位の)47位になったとき、小学生ではなく先生に責任があるという考えのもとで、先生の責任を問いただした。点数の悪い学校の数がとてつもない数に上ったので、平均点以上をとった学校の校長名を公表した。それは学力テストの実施要綱に違反したものではない。文科大臣はその後、公表ができないように大幅に規則を改変した。子どもたちの学力はその後、向上している。
 私は、子どもを大切にするには、先生を大切するのが先決という考えのもとで、先生たちが望んでいた3 5人以下学級を小、中学校で国に先んじて実現した。目下、全国のモデルになるようにIT教育に社会人の人材を活用して教育内容の改善に取り組んでいる。


岩井候補 【岩井候補】
 かつて現知事が全国学力テストの結果についてご指摘のような対応を取られたことは承知している。その結果、現場の教師たちからも大きな反響を呼んだ。教育現場に混乱をきたしたことは共感できない。
 一方で、その後の学力テストの結果は向上し、教員のさまざまな努力が成果として表れており、現場に携わる、そして子どもたちをよく理解している教員のみなさまに感謝したい。
 教育は学力の向上だけでなく、どのような人間形成を目指すのか、子どもたちが自ら考え行動するよう支援していくことが必要ではないか。
 デジタル時代だからこそ、「体験教育」「スポーツ」「友達、先生、人と䛾交わりを大切にする教育」を重視した血の通った教育を行い、郷土愛の醸成にもつなげていきたい。

大井川とリニア

 私の住む掛川市南部にとって大井川の水は大変重要です。選挙の行方は生活にも関わってくると思っています。大井川の水をどう守りますか。※大井川とリニアに関する質問はほか多数寄せられました。

川勝候補 【川勝候補】
 リニア問題の解決方法は「対話」の貫徹。専門部会で出てきた47項目の問題点について、有識者会議を持ちたいという国交省の申し出を受け、全面公開など五箇条の約束を交わした。ところが、全面公開の約束は無視され続けている。議事録も作成されず、由々しき問題だ。有識者会議に出されたJR東海の代替案である「トンネル完成後に水をためて20年以上かけて戻す」には多くの問題点がある。
 どこまでも約束を守り、筋を通すというのが私の立場。47項目すべての検討を有識者会議が行い、それと伴走する形で県の専門部会を全面公開で続行し、地元関係者と水資源保全、自然環境保全などで合意ができるまでは徹底的に対話路線を貫く。たとえ国策であろうとも、今に生きる人々はもとより、子々孫々にいたるまで人命にかかわる問題をおろそかにし、治水・利水に支障が出るようであれば、県の権限である河川法に基づいて拒否権を発動する。


岩井候補 【岩井候補】
 大前提は「流域のみなさんの理解と協力、科学的検証と技術的担保が得られない限り、工事の着工は絶対に認められない」という姿勢で臨む。流域の不安に寄り添う解決策を国やJR東海に強い姿勢で求めていく。水問題は流域全体での水利用の最適化を考えるべきである。
 JRが流域のみなさんの「不安」に正面から向き合えていないことが最大の課題だ。科学的にリスクが明らかになったとしても、そのリスクに対する受け止め方はJR・国・流域の皆さんそれぞれに異なる。そうした違いを埋めるために大井川の水を考える円卓会議の設置を呼びかけたい。


地方選挙に詳しい河村和徳・東北大准教授(焼津市出身) 【識者の分析】
 河村和徳・東北大准教授(政治学、焼津市出身)

 現職候補の回答は非常に細かく、「これをやった」とアピール色の強いもの。現職ほど情報を持たない新人候補は、国との連携や生活の基本条件をそろえるなど未来志向で方向性を語っている。現職対新人の選挙構図における学説通りの傾向といえる。伊豆地域にかかる回答で、その傾向が顕著に表れた。
 2人の回答をよく読むと、大きく意見が違っているところもある。静岡市清水区のスタジアム構想に関する回答では、新人候補は静岡市との連携に言及しているが、現職候補には見られなかった。
 女性の貧困問題や学力向上策も市町との連携が求められる政策だが、どう連携するか両候補とも全体的に記述が乏しかった。選挙運動期間中に補足してほしい。
 知事は市町長より遠い存在で、知事選は衆院選より選挙区が広い。県民は接する機会が少なく、声が届きにくい。有権者に質問を募って候補者にぶつける今回の企画は、投票先に悩む有権者が両候補を比較する参考になり、マスメディアが民主主義を支える存在であることを示した。
 コロナ禍の選挙は、平時の組織戦が機能しないことなどから、結果が予想しづらくなっている。強固な組織を誇る候補が、落選する事例が全国にある。言い換えると、平時に比べ、自分の一票が選挙戦を左右する可能性が高いということだ。
 候補者は、勝つために、どうしても聞き心地の良い公約ばかりを並べる傾向にある。また、都合の悪いことは黙る可能性もある。多くのところから情報を集め、大事な一票を投じてほしい。


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