焼津から人の輪 笑顔生む電器店の気概【転機・コロナ下の選択】

 「今日は彼にとって初めての料理教室です」。2020年12月、焼津市の電器店専務大倉尚美さん(54)は、店内のキッチンに集った常連客を前に、友人のオーナーシェフを紹介した。「途中で何が起きても、みんなで乗り越えよう」と笑いを誘った。新型コロナウイルスが流行してから、「店で人と人をつなぎ、双方を笑顔にしたい」という思いを一層強くした。

料理教室で、店の常連客でもある参加者たちに笑顔を向ける大倉尚美さん(右から3人目)=2020年12月下旬、焼津市
料理教室で、店の常連客でもある参加者たちに笑顔を向ける大倉尚美さん(右から3人目)=2020年12月下旬、焼津市

 教室開催のきっかけはその10日ほど前。シェフの藤田陽介さん(41)から「店に空気清浄機を置きたい」と相談を受け、静岡市の繁華街にあるビストロを訪ねた。新型コロナの影響で、街も店内も閑散としていた。その場で提案した。「うちで教室を開いて。お客さんを笑顔でいっぱいにしよう」
 祖父の代から電器店を営む家に生まれ、高校卒業と同時に店に立った。「家電が売れるかどうかは、店への信頼に対する結果にすぎない」。4年前、家電を使う女性たちに寄り添おうと、調理家電と台所雑貨専門の売り場を併設した。人が集えるようキッチンやテーブルをしつらえ、講師を呼んだり自ら講師を務めたりして、料理や裁縫の教室を開いてきた。
 新型コロナの感染拡大以降、藤田さんのように、そのあおりを受けている人がたくさんいる。外食産業の低迷で行き場を失った野菜を店で売り始めた。洋裁が得意な友人が失業した時には、エプロンの製作を発注し、販売した。
 気分が落ち込んでいる人や、家から出られない人もいる。「店にはいつも人がいる。訪ねてきてくれる人の気持ちを受け止められる場所でありたい」
 料理教室の終盤、完成した料理を試食する女性たちを見ながら、藤田さんは「お客さんと直接やりとりしながら料理を食べてもらううれしさを、久々に味わえた」と喜んだ。大倉さんもうなずいた。「コロナで内食が増えている。私のお客さんも料理を学ぶことで、家族から『おいしい』と言われたら幸せよ」

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