富士宮に移住 「野菜は命」発信に深み【転機・コロナ下の選択】

 東京から富士宮市に転居した野菜ソムリエ豊岡加奈子さん(35)にとって、経験したことのない寒い冬がやってきた。富士山の西の麓、標高約700メートルに位置する同市猪之頭。体を震わせながら長靴を履き、竹かごを抱えて自宅前の小川に入った。「こんな貴重な野菜が採れる。移住先の決め手の一つだった」。自生したクレソンを素手で抜きながら、声を弾ませた。

自宅前の小川に自生するクレソンを収穫する豊岡加奈子さん(左)と夫の大輔さん=2020年12月中旬、富士宮市
自宅前の小川に自生するクレソンを収穫する豊岡加奈子さん(左)と夫の大輔さん=2020年12月中旬、富士宮市

 東京では広い空を見たくて、夫の整体師大輔さん(43)とよく河川敷を歩いた。田舎暮らしに憧れて移住を決めたのは、2019年11月。引っ越しのタイミングが、新型コロナウイルス感染拡大による20年4月の緊急事態宣言の発令時期と重なった。
 「東京から移ると嫌がられないか」と気になったが、隣組の住民は温かく迎えてくれた。「困ったことがあれば何でも聞いて」と気遣ってくれる。クレソンや、その脇に自生するワサビの調理方法を教わる。大根や白菜をもらい、保存方法も教わる。
 首都圏の農業大で野菜の生育を学び、総菜製造販売会社で店舗運営を任された。大学で「野菜は簡単には育たない」と知っていたからこそ、総菜の廃棄に胸が痛んだ。8年前に会社を辞め、ライターとして食べ方や保存法をウェブで発信したり、都内企業の社員向けに食育講座を行ったりしている。
 移住後も東京と行き来するつもりだったが、仕事は全てオンラインに切り替わった。一方、自ら野菜を育てるようになったことで、実体験に基づいた情報を発信できるようになった。収穫までの過程にこそ、伝えたいことがある。
 寒い時期の野菜は育ちにくく、見た目は貧相。代わりに甘みが凝縮されている。「消費者が知れば、冬にスーパーで小ぶりの野菜を見ても、手に取ろうと思うはず」
 野菜を見た目で選び、必死に手間をかけて味の良い料理に仕上げようとする。そんな都会の消費者たちに「野菜は命そのもの」だと伝えたい。「味覚や胃袋ではなく、心を満たすための情報」を届けたいと願う。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ