上昇らせん/ねじガール6年(5・完)男女の垣根越えて

 佐野瑠美(28)が受け持つ7台の製造機には、それぞれに愛称がある。「これはフタバ。最近部品が壊れて修理したばかり。疲れてるみたいで、調子が悪い。あれはサンちゃんで、隣はサンシ師匠…」

工場内で擦れ違いがてら、たわいない会話を交わす佐野瑠美さん(右)と岡本哲明さん=11日、静岡市清水区の興津螺旋
工場内で擦れ違いがてら、たわいない会話を交わす佐野瑠美さん(右)と岡本哲明さん=11日、静岡市清水区の興津螺旋

 年式や型式が同じでも、「性格はさまざま。面白いでしょ」。新人のねじガールに使い方を説明しながら、言葉の端々に、“相棒”への愛着がにじみ出る。
 地元大学を卒業し2012年、興津螺旋(らせん)に入社した。県内企業の就職説明会で、社長の柿沢宏一(46)が「一つのねじを作るにも、方法はたくさんある」と楽しそうに話す姿に、「ここだ」と直感した。
 「ねじの種類すら知らない。勉強不足のまま製品を売っていいのか」。営業事務の予定だったが、最初の研修で不安になり、現場を志願した。
 出来上がったばかりの煙の立つねじを、平気な顔をして素手でつかむ。長さ2、3ミリのねじを、太い指で器用に持って計測する。そんな先輩の姿に驚き、憧れながら、「男の世界」になじんでいった。
 工具を片手に、100分の1ミリ単位で機械に調整を加えていく作業は、難問を突破していくゲームのよう。壁にぶつかると先輩に教えを請い、答えの引き出しを増やした。「新しいねじ、クリア」。より細かく、より複雑な形状に挑むたび、わくわくした。
 ところが約3年前、チタン製品を担当し始めてから、先輩に尋ねても解決しなくなった。2度目も同じ設定で量産できるとは限らない難素材。
 その都度金型に手を加えるなど、試行錯誤を繰り返し、1人で答えを見つけるしかない。簡単なステンレス製なら1日10万本も量産できるのに、チタン製は1万本作るのに2週間かかることもある。
 社内で一番難しいチタン合金ボルトを手掛ける岡本哲明(40)は、そんな佐野を頼もしそうに見守る。「苦しんでるってことは、次のステージに入ったってこと」
 チタンは素材の状態が不安定。手元にやってくるたび、成形しやすかったり、しにくかったりする。岡本によると、「材料は生きている」。だから、その時の状態に応じた細工が必要になる。
 ものづくりは楽しいだけじゃない。出口の見えないトンネルを進むような苦しみを共にできてこそ、本当の仲間だ。
 取引先からの品質要求は、厳しさを増している。より付加価値の高い製品を売り出そうとする会社からの、期待も大きい。岡本は、毎朝足の着かないプールに飛び込んで、「あっぷあっぷ」しているうちに勤務が終わると表現する。
 そんな毎日だが、仲間がいるから頑張れる。「彼女たちは、俺たちヒーロー戦隊に加わったピンクレンジャーなんですよ」
 佐野が“相棒”のことを語っていると、新人は「佐野さん、オタクですね」と笑う。先輩の男性陣に感化されて染み付いた担当機に対する責任感、そしてねじ作りへの誇りと情熱が、何らかの形で後輩に伝われば本望だ。(敬称略)

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ