上昇らせん/ねじガール6年(3)こだわりと気配り
チタン合金の軸にらせんを刻もうとしたが、硬さに金型が負けてうまくいかない。「ステンレスなら簡単なのに」。製造機の前で、望月直人(34)はため息をついた。顔を上げると、脇を通り掛かった佐野瑠美(28)が、「ガンバ」と言って両拳を握ってみせた。望月のほおが思わず緩んだ。

そんな何げないやりとりで気が紛れ、解決のヒントが浮かぶこともある。
興津螺旋(らせん)製造部に1人目の「ねじガール」として佐野が加わって6年。現在はオペレーターの4割を女性が占める。「職場の空気が和やかになって、コミュニケーションが活発になった」。だが、この間に変わったのは、何より望月自身だ。
同じ仕事をしていても、男と女では行動や着眼点が違う。後輩の女性は同僚の製品の出来に感嘆し、思うように加工できなければ、「悔しい」と泣きそうな顔をする。佐野は、自分の工具を使いやすいように並べただけで、「じゃじゃーん」と披露してみせる。同僚へのライバル心や恥ずかしさから、感情を素直に出しづらい男性とは対照的だと感じる。
「もっときれいで使いやすいねじを作りたい」と、細部までこだわる。男性陣が放っていた機械の隙間の汚れを、自作した掃除棒で取り除く。
そんな後輩の行動にたびたび感心するうち、「先輩として負けていられない」と触発された。生産量の多さや、生産前の機械の設定の速さに加えて、完成品の精度をより追求し、設備周りの清掃まで意識するようになった。
2015年から毎月1回、製造部員が集い、勉強会を開いている。前月に各工程で起きた不具合と、納品後に受けたクレームを全事例共有する。製造機稼働中のこまめな品質確認などが徹底されるようになり、不良品の減少につながった。廃棄による損失や事後処理の時間を、開発に注ぐ好循環が生まれている。
「もっと頑張れや」「うまくなったな」。男同士では決して交わさなかった言葉が、自然に飛び交う。前後の工程の担当者と、納期を巡る言い合いが減ったのも、日頃の情報交換のたまものだ。
「しょせん、ねじ。寸法が規格に収まっていればいい。留められればいいじゃん」。6年前までの本音だった。
「もっときれいに」とこだわり、ひたむきな姿勢を見せるねじガール。彼女たちに出会わなければ、「俺ももう一手間加えてみるか」と、さらなる一歩を踏み出すことはなかっただろう。
担当以外の工程にも関心を持つようになって、視野も広がった。「自分の作ったねじが、どこで使われているのか」。製品の行き先やユーザーの姿にまで想像を巡らせながら、作業に打ち込むようになった。
以前、営業担当者との会話で、新東名高速道にも使われていると聞いたことがある。「もしかしたら、被災地の復興や、五輪会場の設営にも役立っているのかも」。小さなねじが、とてつもなく大きなものを支えている様子を思い浮かべる。機械を調節する手に、ますます力がこもる。(敬称略)