上昇らせん/ねじガール6年(2)後輩の質問攻め

 機械の調節に没頭していた青木剛(37)が一息ついたのを見計らって、安部育美(23)が1本のねじを手に駆け寄ってきた。「ここをきれいにするには、どうしたらいいですか」。軸に刻まれたらせんを指さした。

ルーペで製品の仕上がりを確認する青木剛さん(右)と安部育美さん=11日、静岡市清水区の興津螺旋
ルーペで製品の仕上がりを確認する青木剛さん(右)と安部育美さん=11日、静岡市清水区の興津螺旋

 青木は首をかしげた。いくら凝視しても傷一つ見つからない。ルーペでのぞいてみると、谷の部分の表面にかすかな剥離があった。
 「金型の傾斜を強めたら。0・05ミリの薄板を使うといい」。助言しながら、「そんなに細かいところに気付くのか」と舌を巻いた。
 2014年、興津螺旋(らせん)製造部に配属された新人の安部が、青木に“弟子入り”して3カ月後のことだった。機械の操作を覚え始めた彼女は、1日10回以上、質問に来た。
 青木は驚いた。地元の工業高を卒業してから、ねじのらせん加工一筋。男性だけが働く現場で生きてきた。仕事中の先輩たちは、ほとんど無口。「見て覚えろ」とだけ言った。
 ねじの使いやすさは、見た目の美しさに比例する。美しいねじはドライバーの食いつきが良く、軸がぶれず、緩まない。肝心なのは、製造機のセッティング。2枚の金型に挟んで転がすことで、らせんが刻まれる。
 鋭い山立ちを施すため、金型同士の幅や傾きを100分の1ミリ単位で調整していく。複数のボルトを締めたり緩めたりと、極めて地道な作業だ。
 新人だった頃の青木は、先輩の手元をひたすら観察し、見よう見まねを繰り返した。自分の工夫と加減一つで、より美しいねじを生み出せると知り、のめり込んだ。
 完成度の高さや生産量の多さなど、何かしらのこだわりを持たない人は、数年もせずに職場を去っていった。厳しい仕事を自負するからこそ、初めは「女性には無理」と思い込んでいた。「前例がない。ただそれだけの理由だった」
 先輩にしつこく尋ねるのをためらいがちな男性と違い、後輩の女性は分からなければ「分からない」と何度でも口にする。質問されるたび、自分の答えが正しいかどうか、どきどきした。「納得させられる答えを返さなければ恥ずかしい」。そんな思いに駆られた。
 見よう見まねで身に付けた感覚を、どう説明するか。作業標準書(マニュアル)をめくる頻度が増えた。一つ一つの作業をなぜやるのか、理由を考え始めた。それまでは漠然と、手順の確認が目的だった。
 らせんの深さを調節するときは、「このボルトをこれくらい締めて」と手元を見せていた。「1周で金型の間が1ミリ縮まる。4分の1周締めて」。具体的な数字を伝えるようになった。
 「感覚でやってきたことを理屈に落とす癖が付いた」。気付けば、自分のミスも減っていた。機械の不具合に直面した時、以前なら最初から設定をやり直すことが多かったが、原因を突き止めるまでの時間も早くなった。
 安部の質問攻めは3日に1回のペースに減ったが、彼女の気付きには今も驚き、学ばされ続けている。(敬称略)

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