<命のたまご>胚培養士と不妊治療(4・完) 隠れた存在 不安解消への貢献期待

 「医師や病院の雰囲気で病院を選んでいたけど、胚培養士のことまでは、よく知らなかった」。2012年春から不妊治療を続けてきた県中部の女性(43)はこう話す。

女性が自ら記録してきた治療経過。採卵手術の回数は2年半で13回に及んだ
女性が自ら記録してきた治療経過。採卵手術の回数は2年半で13回に及んだ
女性が自ら記録してきた治療経過。採卵手術の回数は2年半で13回に及んだ

 40歳で入籍。「年齢的に迷っている時間はない」。結婚して数カ月後に婦人科で受診し、卵巣嚢腫(のうしゅ)と左側の卵管閉塞(へいそく)が見つかった。医師から「自然妊娠は難しい」と診断され、すぐに体外受精に向けた治療をスタートした。
 排卵誘発剤を注射するため、仕事の合間を縫って通院を重ねた。最初に通った病院で8回の採卵手術に臨んだが、受精卵が育って胎児の元となる胚を移植できたのは1回だけ。その1回も妊娠には至らなかった。
 同じ境遇だった友人から妊娠報告を受けると、うれしさと焦りの気持ちで心は複雑に。自分に合った治療方法を求め転院し、信頼できる医師と出会えたが、結果は思うようについてこなかった。治療を辞めることも考え始めていた。治療開始から通算して13回目の採卵、7回目の胚移植で昨年末、着床と妊娠が確認された。
 これまで治療に400万円超を費やし、夫婦の貯金や親が結婚費用に用意してくれた資金を切り崩してきた。助成制度や治療法、薬にはずいぶん詳しくなったが、胚培養士については、「ほとんど理解しないまま」。
 採卵手術などの折に接する機会もあったが「医者や看護師のように、医療系の学校で専門的に勉強してきた人たちだろう」と思っていた。「結果的に信頼できる病院で良かったけど、卵子や精子を扱うのに資格が必要ないなんて、ちょっと怖い」
 体外受精や顕微授精で使う培養液は、国内では「研究用試薬」として扱われる。治験を行う医薬品と違い、法律的に安全性を認証する基準はない。米国には臨床検査や厳格な品質管理基準があるが、国内では研究者や現場の医師、胚培養士が実験を重ねて安全性や有効性を確かめている。診察室と離れた培養室で、受精卵は適切に管理されているのか―。患者からは見えにくい。
 「生殖補助医療を受ける患者が求めているのは、公的な資格など、命の元となる卵子や精子を安心して任せられる環境」。不妊治療を受ける人を支援するNPO法人Fine(東京都)理事長の松本亜樹子さんはそう話す。患者が立ち入ることのできない世界だからこそ、「胚培養士はもっと知られるべき存在」とみる。
 自らの治療経験を踏まえて当事者組織を設立した松本さんでさえ、治療中は存在を知らなかったという。「患者は抱えきれない不安を背負っている。卵子や精子を扱うスペシャリストと接する機会があれば、どんなに心強いかと思う」と話す。
 県内の不妊治療専門のクリニックでは、胚培養士が患者と接する場面を積極的に設ける病院が増えている。ただ、松本さんはこう強調する。「まだ多くの施設で培養士は縁の下の力持ち。もっと前面に出て、安全や安心につながる情報を発信してほしい」

 <メモ>晩婚化に伴い、初産年齢も高年齢化している。不妊治療のうち、健康保険が適用されない体外受精や顕微授精といった生殖補助医療を受ける人をサポートする制度「特定不妊治療費助成」があり、県内で2013年度にこの助成を受けた人は35歳以上が7割を占める。助成条件は、16年度から年齢が42歳までに限定される。現行「通算5年間10回まで」の助成対象は、「通算6回、40歳以降で開始した場合は3回」になる。
 給付は1回あたり上限額15万円(採卵を伴わない凍結胚移植は7万5000円)。このほかに、市町による助成制度もある。

【特定不妊治療費助成 2016年度からの事業概要】
▽43歳以上は対象外
▽39歳までに始める人は6回まで対象※年間制限なし
▽40〜42歳で始める人は3回まで対象※年間制限なし

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