<命のたまご>胚培養士と不妊治療(3) 技術に格差 競合関係超え研修の場

 胚培養士(エンブリオロジスト)になるために必要な公的資格はない。二つの学会が設ける認定資格はあるが、一定の経験を積んだ技術者向けの制度だ。認定資格がなければ業務に従事できないわけでなく、多くが臨床現場で技術を一から学んでいる。確かな技術と倫理観が求められる胚培養士だが、置かれている立場はあいまいだ。

熟練の胚培養士が技術指導を行った日本臨床エンブリオロジスト学会のワークショップ=10日、東京都内
熟練の胚培養士が技術指導を行った日本臨床エンブリオロジスト学会のワークショップ=10日、東京都内
熟練の胚培養士が技術指導を行った日本臨床エンブリオロジスト学会のワークショップ=10日、東京都内

 日本産科婦人科学会は「生殖補助医療(ART)実施機関の登録と報告に関する見解」(2010年4月改定)の中で、「配置すべき人員の基準」として「胚を取り扱える技術者」を掲げるが、「ARTに精通した高い倫理観を持つ技術者」とあるだけ。法的に明確なガイドラインはなく、胚培養士の数も技量も医療機関によって異なる。
 10日、東京都内に全国から300人の胚培養士が集まった。当事者組織の「日本臨床エンブリオロジスト学会」が開催したワークショップ。広い会場には、顕微授精に使う器具や薬品類をそろえたテーブルが20卓ほど。全国でも名の知られた有名クリニックで働くベテランが講師になって、技術指導を行った。
 「まずは普段通り、やってみせて」。5〜6人を1グループにし、時間をかけて指導した。競合関係にあるクリニックに勤める若手であっても分け隔てはない。業界の先輩として技術を惜しみなく伝授する姿が見られた。
 「研修の場がないなら、自分たちでつくろう」。同学会のスタートは20年前。現事務局長で、当時聖隷浜松病院の臨床検査技師だった佐藤和文さん(65)が仲間と開いた勉強会だった。今では年に1回、ワークショップや学術大会を開催する。01年には国内初の認定資格制度を導入した。
 患者の多い施設には何人もの胚培養士が在籍するが、総合病院では臨床検査技師が兼務するケースが多い。熟練者が後輩を指導する体制を整えた施設ばかりではない。「患者は胚培養士を選べない。だからこそ、技術格差は本来あってはならない」と佐藤さんは語る。
 胚培養をめぐる資格には、日本卵子学会の生殖補助医療胚培養士もある。大学などで生物学や動物学などを学んだ研究者のうち、臨床現場で1年以上の実務を経験した人が、筆記試験と面接を経て取得できる。胚培養士の置かれた立場や技術レベルを確立するため、両学会の認定資格制度の一本化や、国家資格化に期待する声もあるが、議論は深まっていない。
 公的な研修機関がない中で優秀な人材をいかに確保するかは、不妊治療専門のクリニックにとって喫緊の課題だ。俵IVFクリニック(静岡市駿河区)の俵史子院長は、「受精卵を正確に的確に扱える胚培養士の技量は不可欠。培養室という閉ざされた環境下で、扱う命の重みを十分に理解して挑める人が求められる」と指摘する。
 岡山大は13年、胚培養士の養成やスキルアップのためのカリキュラムを開発する教育研究センターを学内に設置した。「生殖補助医療のニーズが高まる一方で、国内には教育環境が整っていない」と高山修助教。国立大が主導する研修の場整備に注目が集まっている。

 <メモ>健康保険が適用されない高度な不妊治療のうち、体外受精と顕微授精に対しては、国や自治体が費用の一部を負担する「特定不妊治療費助成制度」がある。国立社会保障・人口問題研究所の2010年調査によると、不妊の検査や治療を経験した夫婦は6組に1組。助成件数は県内でも増加の一途で、13年度は07年度の2.9倍の2621件に上った。

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