<命のたまご>胚培養士と不妊治療(2) 祈り宿す細胞 「神の領域」迷った日も

 生殖補助医療によって誕生する新生児は増加傾向にあり、2011年に全国で3万人を超えた。晩婚化を背景に不妊治療に臨むカップルは増加傾向。命の誕生を操作し、かつては「神の領域」とされた分野に挑む胚培養士には、高い倫理観と確かな技量が求められている。

「命の誕生に携われることが心からうれしい」と話す森本藍さん=14日午後、静岡市駿河区
「命の誕生に携われることが心からうれしい」と話す森本藍さん=14日午後、静岡市駿河区
「命の誕生に携われることが心からうれしい」と話す森本藍さん=14日午後、静岡市駿河区

 静岡市駿河区の俵IVFクリニックの森本藍さん(29)は3年前、食品メーカーから転職した。幼いころから医療に関心はあったが、進んだのは国立大の農学部。牛の行動学を研究して大学院まで進んだが、就職先では「これが私のしたかった仕事かな」と違和感が募った。
 そんな時、求人情報にあった胚培養士の文字が目に飛び込んだ。学生時代の友人に胚培養士がいたので、職業名は知っていた。どんな仕事だろう―。調べるうちに興味がわき、不妊治療専門の病院に電話した。県内でもスタッフ数の多い同クリニックに見学に出向くと、技術を駆使して命の誕生に関わる胚培養士の姿に心を打たれた。転職に迷いはなかった。
 生殖補助医療の中で最も難しい顕微授精に昨年から携わるようになった。わずか0・1ミリの卵子と、さらに小さい精子には、「赤ちゃんが欲しい」と苦しい治療に耐える患者夫婦の思いが込められている。同じ細胞は二つとない。顕微鏡を前に手が震えそうになる。
 自分が関わった患者が妊娠したという報告が何よりのやりがいだが、出産年齢を考えると自らも適齢期。不妊治療に携わり、卵子の老化の現実は人一倍認識している。「いつかは私もと思う。でも、もっと腕を上げて、一人でも多くの患者さんの役に立ちたい」
 「自然妊娠では子を授からなかった夫婦が、生殖補助医療によって赤ちゃんを腕に抱ける。不可能が可能になるかもしれない分野に携わるのがエンブリオロジスト(胚培養士)だ」。胚培養士の自主組織「日本臨床エンブリオロジスト学会」事務局長の佐藤和文さん(65)=浜松市=はこう話す。「責任も重く、高い知識と技術、そして倫理観が求められる」
 佐藤さんは臨床検査技師。30年近く前、聖隷浜松病院に勤務していた時に、検査技師の業務と並行して不妊治療に関わるようになった。国内外の学会や大学病院などに足を運びながら技術を学んだという。定年退職後は、浜松市中区の専門クリニックで週2日、若手の指導に当たる。
 生殖補助医療は、命を操作する仕事とも言える。クリスチャンでもある佐藤さんは「神の領域に携わってもいいのだろうか」と真剣に悩んだという。信仰を共にする知人の医師に相談すると「人のためになる技術は生かしなさい」と背中を押された。
 これまで、数え切れないほどの卵子や精子と向き合ってきたが、今も受精卵を前にすると、心が熱くなる。体外受精や顕微授精を行った翌朝、真っ先に受精確認するのが胚培養士の役目だ。佐藤さんは受精を確認するといつも心で「ハッピーバースデー」を歌う。

 <メモ>不妊治療のうち、排卵日を予測するタイミング法や、採取した精子を子宮に注入する人工授精は一般不妊治療と呼ばれる。何らかの原因でこれらの治療で妊娠できなかった患者が、体外受精や顕微授精といった生殖補助医療に進む。しかし、高度な治療が必ずしも妊娠・出産につながるわけではない。2009年の日本産婦人科学会(日産婦)のまとめによると、生殖補助医療で出産に至る確率は年齢とともに低下し、1回の治療当たり35歳で17%、40歳だと8%とされる。

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