育む社会へ 保育士不足の背景(下) 好循環どう構築

 保育士は一人一人に応じた発達を促すと同時に、安全を守る重責も負う。しかし、現場の保育士たちは一様に「職責に賃金が見合わない」と苦悩する。

保育の合間を縫って会議や研修を行う保育士たち。質の向上に直結するキャリアアップの道筋をどう描くか。模索は続く=静岡市内の私立保育所
保育の合間を縫って会議や研修を行う保育士たち。質の向上に直結するキャリアアップの道筋をどう描くか。模索は続く=静岡市内の私立保育所

 背景には何があるのか。元常葉大教授で、静岡地方最低賃金審議会の居城舜子会長(71)は「女性なら誰でもできる仕事という認識が社会に根強い」と指摘する。女性の社会進出が進むまで、保育は看護や介護と同様に家庭の主婦が担っていた。労働を無償で提供してきた背景が、国の想定する給与ベースの足かせになり、社会的評価の低さにもつながっているという。
 反面、共働き世帯の増加で、保育士の役割は増す一方だ。「おむつを外すことや座って食事を取ることなど、家庭の中で担ってほしい生活習慣の確立が、保育所に託されるようになった」。全国の半数近い保育士が加盟する全国保育士会の村松幹子副会長(58)=焼津市=は、家庭環境と子どもの変化を口にする。保護者への声掛けにも細かな配慮が求められ、「質がいっそう問われている」。
 私立保育所の場合は、1法人が1園を運営し、管理職は園長と主任に限られるケースが珍しくない。公立と違って異動のきっかけもほとんどない中で、保育士がモチベーションを上げながら働ける環境が不可欠だ。
 そうした環境の実現に向けて全国保育士会は2015年度、特別委員会を設け、「キャリアパス構想」を練る。障害やアレルギーのある子への対応など、保護者のニーズに即した専門性をどう養うか、保育士に道筋を示すのが狙いだ。
 キャリア構築のモデルとなりうるのが、保育士と同じように女性が9割以上を占め、かつては「低賃金、重労働」の代表格といわれた看護業界。日本看護協会(日看協)は1995年、感染管理などの特定分野で経験を積み、研修を受けた看護師を認定する制度を始めた。認定看護師を配置した施設には診療報酬が加算される仕組みもある。
 県看護協会の望月律子会長(65)は「看護の質が上がったことで加算が付いてきた。看護師のキャリアアップと病院経営上のメリットが一致した」と語る。日看協は並行して、家庭と両立できる環境づくりを病院に働き掛けた。正職員の夜勤免除や時短勤務も浸透してきた。「保育士が長く勤めるほど昇給がかさみ経営が苦しい」「時々辞めていくのは悪くない」(いずれも県内の園長)という私立保育所とは正反対の好循環が生まれている。
 新年度にスタートする子ども・子育て支援新制度は、保育所を「子育て家庭の支援拠点」と明確に位置付けた。全国保育士会の村松副会長は「保育士のキャリア構築が保育所運営費に反映される仕組みを目指したい。子どもの生きる力を養う専門性の高さが、まずは社会に伝わるよう努めたい」と力を込めた。

 <こち女の目>政策的支援が不可欠 全国保育士会には保育所に勤める栄養士や事務員も入っていて、特定の資格を持つ人だけの職能団体ではない。その善しあしは別として、職能団体と政治団体を併せ持つ医療職などと比べ、自らの職域の専門性を高める態勢そのものが手薄で、現場の声を政治に届けにくい―との指摘もある。同居家族や隣近所による子育て支援が受けづらい世の中で、保育士の質と専門性の向上は、働く親と子を支える鍵となる。キャリアを積むよりも、人が入れ替わる方が事実上歓迎されてしまう構造を変えなければならない。保育士が働き続けられる環境整備に向けて、国と県、市町がいかに政策的なバックアップをしていくか。子ども・子育て支援新制度の成否にかかわるだろう。

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